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9話.不穏なお茶会

 あれから十日ほどが過ぎた。


 フランツは毎日かのようにグリット伯爵邸に通っていた。


 最初は婚約者であるフランツにマイナスな印象しか持てなかったレノールだが、彼の事を知る度に少しずつ心を開いていった。


 彼の口から出る奇想天外な話、少しやんちゃだけどたまに真面目な一面があって結構楽しい子だった。どうやら彼の事を誤解していたらしい。最近ではフランツと会うのが日々の楽しみの一つである。


 一方好奇心旺盛なフランツは婚約者である非の打ち所がない貴族令嬢、レノールがいつ悪役令嬢になるのかじっくり観察をしようとしていた。いつになったら“貴方の物は私の物”と言うのだろうか、楽しみで楽しみで仕方がなかった。


 そして今日も、レノールは友人との茶会にフランツを誘っており、その友人もフランツとのお茶会に承諾しくれている。


「フランツ様、こちらですわ♪」

「あ、うん。」


 すでにフランツの向かいの席に薄紫色の髪をしたぱっちりしているが顔色は少し青くタレ目の海の色のようなドレスの着た女の子が座って居た。


 テーブルにはアフタヌーンティーセットが置かれているが、だがフランツからしたらそれは未知なるものだった。三つの皿が棒にぶっ刺さっている。お菓子は食べるがこのお皿は使ったことはない、これはどう言ったものなのだろう?


 レノールに聞いてみるべきか?いや…ここは初対面であるレノールの友人の女の子に聞いて話を広げよう。フランツにとって婚約者の友達は自分の友達のようなものだ、ならもう彼女は俺の友人だ。


「ねぇ君、名…」

「フランツ様、紹介しますわ。」


 レノールと声が被ってしまった。


「うふふっ…失礼しましたわ、改めまして彼女の名前はメリル・アトランティス公爵令嬢様です。」

「……………」


 メリルは沈黙したままフランツを見つめる、いや、正確には睨んでいるのか?


 ……?なんだ、この子…少し俺を見る目つきがいいものじゃない…と心の内に留めるフランツ。


「初めまして、レノール様からお話を聞いております。」

「ああ、俺はフランツ・ベルリアン、レノールの婚約者だ、よろしく。」

「…………」

「どうしたの?俺の顔に何かついてんの?」

「いえ……」


 変な子だ…それにその目つきからして同い年なのになんかめっちゃ俺より年上の雰囲気がある、俺は彼女に何かしたのか?それかやっぱり俺の顔に何かついている?フランツは自身の顔を自分の手で一度覆い顔を拭ってみる。


 何もついてない。


「さてと!メリル様っ!本日のお紅茶の茶葉はアッサムにしましたの、お口に合うといいのですが!」


 レノールは張り詰めた空気を変えるため、話題を出し始める、そしてその話題に乗ったのはフランツだった。


「レノール、アッサムって何?」

「遠方の国から取り寄せた茶葉ですわ。」

「へぇー…」


 フランツは分かっているようで何もわかっていなかった。


 レノールは彼に『フランツ様は紅茶をよく飲まれますか?』と言おうとしたが、このままではメリル様が話題に入って来られなくなる。だから引き続き紅茶の話を続ける。


「この茶葉おすすめなんです、甘味と深い渋みが合わさっていて美味しいのですよ?」


 フランツは無言でティーポットを手に取り、カップに紅茶を注ぐ。だが蓋がカップの中にチャポン…と落ちてしまう。さらに空気が緊張に走るが、婚約者のその姿にレノールはクスッと笑ってしまう。


「うっふふ、フランツ様、私が注ぎましょうか?」

「…ああ、頼む。」


 レノールは丁寧な仕草でトングでカップの中に落ちた蓋を取り出し、ティーカップを新しい物と交換する。フランツの目に映るその姿は優雅なメイド様だった。レノールがクラシカルロングメイド服を着たら絶対似合うだろうなと、悪気もなく考えていた。


「はい、フランツ様どうぞ。」


 レノールはフランツに紅茶を淹れたティーカップをフランツの手前に置く。


「ありがとう、上手なんだね。」


 フランツはティーカップを口元に運び少量口に含む。


「あぢっ…!!」

「まぁまぁ、お気を付けてください、ウッフフ…」


 彼を見ていると楽しい、まるでもう1人弟ができたようだと自然に笑みが浮かぶ。メリルはそんなレノールをじっと見つめる。


「…………」

「メリル様?」

「いえ、ごめんなさい…仲がよろしいことで…」

「当たり前だろう!俺の婚約者なんだぞ。」


 フランツは自慢するかのように満面の笑みを婚約者の友人に見せる。メリルはその顔をする彼が気持ち悪くて仕方ない。


 結局フランツとレノールだけが会話を楽しんでいてメリルは蚊帳の外だった、だがそれはメリルが会話の内に加わらなかっただけの話。


 レノールの視線は度々メリルにむけていた。いくら婚約者を誘ったお茶会に承諾してくれたとはいえ自分の配慮不足のせいで楽しめてないのだろうか…



「なぁなぁメリル様〜!」

「…は、はい…?」



 突然声をかけられビクリと肩を動かす。


「メリル様ってレノールとどのくらい付き合い長いの?幼馴染?」

「いえ、3年ほどのお付き合いで…」

「へー!結構長いんだね!じゃあレノールの馴れ初めの話とかある?」

「そうですわね、レノール様、話しても構いませんか?」

「うふふ、構いませんわよ?」


 どうやら心配する必要はなかったようだ、婚約者が会話を広げていてメリルもやっと表情が和らいでいく。


 彼は尊敬に値する人間だ、場の空気を調えるコミュニケーション能力は真似できない。彼と進む未来が少しばかり楽しみになりつつあるレノールだった。

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