5話.問題児
その頃フランツは、家庭教師が目を離した隙にミルクを探しに厨房から出る。厨房内には二つ扉があり、一つは公爵邸の本館につながる扉、フランツ達が入って来た扉である。
二つは使用人の部屋に続く廊下への扉だった。二つ目の扉から出てすぐ右に食料庫があるがフランツはそのまま直進して歩いた。
「わぁ〜……扉がいっぱいだぁ〜。んー……どぉーれぇーにぃーしーよーおーかーなぁーっ、これだぁ。」
間の抜けたような声を出すフランツは適当な扉をひとつ選び入る。
中へ入るとそこには
ドレッサーの上に乱雑に置かれるなにかの汚いボトル。
高い服が入ったクローゼット。
中には脱ぎっぱなしの服。
一つのベット。
とても綺麗とはいえないがそんなことはどうでも良かった、フランツの目的はココアに入れるミルクのみだった。
「へー…ちっこい部屋だなぁ〜…」
ココアを両手に持ったフランツはドレッサーのボトルに目を向ける、フランツからしたらただの汚いボトルだが、そのボトルは高級美容品のボトルだ。
「全く!ここの部屋の奴はこんなに散らかしてっ!だらしないなぁ〜!しょーがない…俺が代わりに片付けてやる。」
フランツは自分の事をなんて優しき人間なんだと内心で自画自賛しながら片付けを始める、フランツはなんのボトルか調べずに机の上のボトルを全てゴミ箱の中に適当に放り投げ、全部は入らなかったが、ボトルで一杯になったゴミ箱を部屋の外に出すと改めて掃除を始め、ドレッサーの前に戻るとフランツは乳液と書かれたボトルに目を映す。
「なんだろうこれ、乳液って書いてある。」
フランツは乳液のボトルに興味を持ち匂いを嗅いでみる。
「匂いは少しだけお花みたいだ、変なの。」
次の行動はボトルを逆さにして手に垂らしてみると、中からミルク色のような液体が出てくる。だが、そこからフランツはとんでもない考察に走ったのだ。
(乳液って白いんだな……あれ?これもしかしてミルクなんじゃないの?)
フランツの中でとある点と点が結び合う。
だって乳液の乳は牛乳の乳だしメイド長の“自分で淹れてください”を、“私の部屋にミルクが置いてあるので自分で淹れてください。”ってことなんじゃないか?と捉えてしまうのだ。
「なぁーんだ、この部屋にあるなら早く言ってくれよ。」
やれやれ言葉の足らないメイドだ、と言うかのようにため息を吐くと部屋の片隅に置いていたココアを手に取り、その上から乳液を淹れようとしたその時…。
「あああーーーっ!!こらこらこらっ!坊ちゃん!何してるんですか!!」
家庭教師がフランツの手を止めてしまった拍子に、ココアと乳液のボトルが逆さまに床に落ちて床を汚してしまった。
「お、俺のココアがぁ……」
「ご、ごめんなさい…ですが……乳液を飲み物に淹れたらだめじゃないですかっ!お腹を壊してしまいますよ。」
「えっ…でもこれミルクじゃ…」
「ミルクと乳液は全くの別物ですっ!!はぁーー……よかったぁ何事もなくて…」
フランツは気分が大きく沈む、それは乳液がミルクじゃなかった事の落胆か乳液がミルクだと勘違いした自分に対してへこんでいるか自分でもわからなかった。
ふか〜く落ち込んだ教え子をみた家庭教師は元気付けるため言葉を選び慰めた。
「坊ちゃん、元気出してください。私でよければココアを淹れ直しますから。」
「絶対だよ?」
「ちょっと!なんの騒ぎですか?!」
すると、家庭教師の叫び声を聞き何事かと駆けつけるメイド長。駆けつけた先には床と服がココアと高いお金で買った乳液でびちゃびちゃに汚れた大惨事の自分の部屋だった。
「いやぁぁぁぁ!!」
汚れた部屋を見た第一声は自分の叫び声。
「うううそ…っ!一体!一体何があったんですか?!」
「えー?メイド長さんがミルクを自分で淹れろって言うから探してここに辿り着いたんだよ?」
「だからって!なぜ私の部屋にっ!」
「だってミルク探してたんだもん。」
フランツは嘘は言っていなかった、全て事実だ、だがなにがどうなればこのような事態になるのだろうか。
「ミルクを探してるだけならなぜ私の部屋がこんなことになってるんですか!」
メイド長は早口でフランツを問い詰めるも、フランツは悪ぶれなかった。
「先生に止められてびっくりしたんだもん、床汚したことは謝るよ、じゃあお詫びとしてここの部屋、全部掃除してから帰るから。」
そう言ったフランツの次の行動は床に落ちていた肌触りがよく、柄のついた布を雑巾がわりにこぼした液体をゴシゴシと拭きはじめるもそれを再び止めたのは家庭教師だった。
「坊ちゃんいけませんよ!服で床を磨いたら。」
「えっこれ服だったの?タオルかと思った。」
「どんな視力を持てば私の服がタオルに見えるんですか!」
自分の服を雑巾がわりにするバカは目の前にいる子供しかいない、怒鳴り疲れはぁはぁ息を切らすとドレッサーの方に目をつけるメイド長。ドレッサーの上に置いてあった高級美容品のボトルのほとんどがなくなっていた。
「あ、あらっ?!えっ?こ、ここにあった美容品のボトルは?」
「ああ、全部ばっちぃからゴミ箱に捨てといたよ。」
フランツは善意で満ちた満面の笑みで答えるとメイド長の堪忍袋がついに切れて…
「掃除はもういいので出て行ってください!!」
家庭教師とフランツはメイド長によって強引に部屋から追い出されてしまう。
「なんだよ、良かれと思ってやったのに。」
「坊ちゃん、大人になったらやっていい事と悪い事の区別をちゃんとつけましょうね。」
教え子も、いつか少し大人になればこのような事をしないようにちゃんと教えてあげよう。今日の出来事をみて心に誓った家庭教師にフランツはある疑問を聞く。
「ねぇねぇ、そういえば乳液ってなぁに?」
「乳液ですか?乳液は肌の潤いを保ち続ける成分が入った美しくなる為の美容品ですよ。ただし、あのボトルのメーカーを見たら相当お高い物で…」
「へー…。」
フランツはメイド長の顔を思い浮かべる。
「不良品を買わされたんだなぁ可哀想に。」




