4話.良くない予感。
フランツがこの世界が小説の中の世界だと自覚して2週間が経った__
邸中で変わったことといえば……クールで手がかからないフランツが自分が主人公だとの理由で調子に乗り始めているのか。それともこれが本来の性格なのかマイペースになっていくのだ。
そしてフランツは今ベルリアン家の長男であり、王位継承権を持つ15歳の兄、ライオネルの部屋に走りながら向かう。
バタン!!と激しく兄の寝室のドアを開ける音が鳴りフランツは靴を脱ぎ眠っている兄のベットの上に登り始める。
「ったく、朝からうるさいなぁ…まだ7時だろう?」
「もう8時でーす!起きてくださーい!」
弟はぴょんぴょんとベットの上でジャンプをして、寝具と一緒にライオネルの身体を揺らす。
「わかった、起きた、起きました。だからもうやめろ。」
ライオネルを起こすのはこの2週間で日課になっていた。
そして同時に、エドワードが毎晩護衛を連れて公爵邸から出る姿が増えていき、丸一日も公爵邸に当主がいないこともある。
そしてそれをいいことに業務に手を抜いている使用人のほとんどはエドワードの前でつけていた仮面を気楽に外し、細かい雑務など仕事を怠ることが増えていった。
だが、給料をもらっている身でありながら仕事で手を抜く時間は意外にも早い終わりが近づいていた。
この邸にあの子供が居れば働かざるを得ないのだ。
そして夕方……
「では、今回の授業はここまでにしましょう。フランツ様、ゆっくりお休みになられてくださいね?」
「はい、ありがとうございました。」
フランツは13時から居間で家庭教師の男性から授業を受けて、2時間後…最近食べる事が人生の楽しみの一つであるフランツは15時に出されるおやつを楽しみに待っていた。
今日のおやつはなんだろう?ふんわりした甘いスポンジでふわふわなホイップクリームを包んだロールケーキかな?それともゼリーより硬いのにカスタードが滑らかなプリンかな?想像だけで涎が垂れそうだ。
だが、10分待ってもおやつは運ばれなかった。
「坊ちゃん?元気なさそうですね、どうかしましたか?」
顔に出ていたのか家庭教師はフランツを気にかけていた。
「先生…いつもこの時間に運ばれるおやつが来ない…」
「そうですか、頭を働かせた後は甘いものが欲しくなりますよね。」
「うん。」
ああそうだ、この時間は甘いものが欠かせない。10分も経っているんだぞ?これだけ待たせておいて、何様のつもりだ?わかった、さては嫌がらせか!賃金をもらっておいて。
着替えの手伝い、部屋の掃除…この二つはまだいい、自分でやるべき事だ。
だがしかし食べ物の事になるとそうはいかない、一晩の睡眠より三度の飯、彼の食べ物の恨みは恐ろしい。
「う〜ん……そうですねぇ、では次の授業を遅らせてもう少し待ってみますか?」
「やだっ!もう待てない。」
ガバッと席を立ち居間から出る。
「ぼ、坊ちゃんどちらへ?」
「厨房に行ってくる。」
「大丈夫ですか?私でよければ付き添いますよ?」
「いいっ!自分の家だもん。」
……いやよくない。
いくら自分の邸とはいえ、ここは広いから誰でも迷子になりやすい。
自分の教え子が迷って泣き出すかもしれない。ここは大人がきちんと責任を持って厨房まで一緒に行くべきだ。
「そうですねぇ…では言い方を変えましょうか、私もご一緒しても構いませんか?」
「それならいいよ。よーし!俺についてこぉーいっ」
フランツはまるで海賊船の船長になった気分になり、厨房へと足を運ばせる。
勿論、案の定にフランツは途中で何度も道を間違えては家庭教師が正しい道を教えていた。
そして10分後に厨房の扉が目に入ると、フランツは家庭教師を置いて歩く足を早め勢いを込め扉を開けたが乱暴には開ない。厨房の中に入ったフランツは、
おやつがない怒りの声をあげる。
「ねぇ、さっきからずっとおやつ待ってるんだけど?流石に遅すぎない?」
フランツの怒りの声が厨房に響く、だがすでに料理長が夕食の支度をしていた。
「こ、これはこれは坊ちゃん、あの〜…大変申し訳ございませんがただいま調理中で手が離せなくて…あ、ですが昨日の…」
フランツは料理長との会話を終わったつもりで続きをもう聞いてない。
調理中か…ならば今おやつを用意する仕事はメイドの仕事になる。もし今日のおやつが有名店のジャムクッキーなら、皿の上に出して紅茶を入れて持っていくだけの楽な仕事だ。
だがこの邸で手が空いているのは40代くらいの小太りなメイド長と、その彼女の会話に付き合っている面長なメイド2人だけだった。2人はフランツが来てもお構いなしに会話を続けている。
フランツはもう一度声をかけてみる。
「あのさっ!」
「あーもう!はいはい!聞こえてますので二度も言わないでください!」
その声は少々怒り気味で、イライラした感情をしかも子供の前で態度に出しながらコップにココアと砂糖を入れ雑にお湯を注ぐ。
「はいどうぞ。」
そのココアをフランツに押し付けるように渡すと、再び会話を続ける。
渡し方が乱暴で、フランツの服に少しコップからココアがこぼれてシミができる。
「ねぇミルクは?」
「そんなに淹れたければ自分で淹れてください!私達も暇じゃないんです!」
フランツはほっぺを膨らませメイド長を睨むと同時に遅れてやって来た家庭教師が厨房入ってくる。
「坊ちゃん、先に行かないでくださいよ。」
「あ……ごめんなさい先生。」
家庭教師は遅れてやって来た為厨房で起きた事を何も知らないが、可愛い教え子の汚れた服、仕事もせずにしゃべっているメイドと置きっぱなしのココアと砂糖の瓶で何があったかある程度察した。
フランツのおやつは用意された、いや…おやつと言うより飲み物だがフランツにとってまだ足りないものがある。
「あ、でも…先生もう少しだけ待ってくれる?ミルク探したいから。」
「ええ構いませんよ。」
家庭教師はフランツと視線を合わせ話を続ける。
「メイドさんに頼まなくていいのですか?」
「なんかさぁ、あの人忙しいから後にしろだって。」
「えっ…本当にそう言ったんですか?」
「うん…。」
家庭教師はメイド達の方を見る、2人はまだ会話を続けているらしい。だが、家庭教師の分際でここで注意するも聞く耳を持ってくれるのだろうか…いや…多分聞き流されるだけだ、これは公爵様に報告するべきだな…
(そもそも手が空いてるなら料理人の仕事手伝ってあげなよ)
と心の中で突っ込んだ。
「では先生も最後までご一緒してもよろしいですか?」
「仕方ないなぁ〜、いいよ。」
「ありがとうございます、坊ちゃんはお優しいですね。」
「当たり前だろ俺は優しいんだ。」
フランツは仁王立ちしてドヤ顔で返すと、家庭教師は笑顔で返す、やっぱり子供は可愛い。
彼は立ち上がりフランツから目を離し、料理人に失礼を承知に牛乳の在処を聞く。
「あの、お忙しいところすみません、牛乳は……」
「牛乳?そこの扉のすぐ右の食料庫に飲み物用の牛乳があるはずだ、悪いなぁ今手が離せなくて。」
「いえいえ、こちらこそありがとうございます。では坊ちゃん、少々お待ちくださ…あ、あれ?」
厨房の中を見渡す…
「ぼ、坊ちゃん!どこですか?」
フランツの姿がなくなっていた。




