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神様やめたい ! 〜万バズから始まるJK三人組の異世界勘違い神話  作者: タキ マサト
第九章 神、還る

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80話 四神

 

 外の嵐はさらに強くなっていた。

 嵐は、すでに世界を壊し始めていた。

 青竜のタテガミは私たちを叩きつける雨から守った。


 視界が雨でけぶる中、青竜は再び神廟に向かった。


「セーリュー! もう少し下を飛んで!」


 風音と雨、雷の轟音に混じって、異質な音が聞こえた。

 青竜は高度を下げる。

 木々のてっぺんが目の高さに迫ったとき、それは見えた。

 木々が轟音を立てて薙ぎ倒されている。


 それは嵐のせいではなかった。


 森の中を埋め尽くす魔のもの。


 ヒュドラ、キマイラ、サイクロプス——

 名を知るものの方が、少なかった。


 不気味な呻き声と咆哮が嵐の中、轟いていた。


 それは津波のように隙間なく四方に広がり前進していた。


「この世の終わりで、そふらふ……」


 アベーノが頭を抱えた。


「やば……」

「マジで、滅ぶ……」

「ミヤビさんたちは!?」

「フォーゲルさん……大丈夫かな?」


——お願い、無事でいて!


「セーリュー!! 早く!」


 青竜は少し高度を上げて峠を越えた。

 大地を埋め尽くす魔のものに心が冷えていく。


「どれだけ、出てくるの……?」


 稲光が前方の玄武の姿を照らした。

 玄武は四肢を伸ばし、立ち上がっていた。

 その四つの足に魔のものが山のように群がっている。


 玄武の周りで白い風が渦巻き、登りつつある魔のものを切り裂いていた。


「ビャッキー……頑張れ……」


 玄武の甲羅の上に、人々が身を寄せ合い風雨に晒されている。

 その顔が一斉にこちらを向いた。


「玄武様ッ! ありがとう!」


 玄武に近づくとミヤビとフォーゲルが甲羅の真ん中に立っているのが見えた。


「神獣青竜ッ!!」

「大世界神スミレ様が戻って来た!!」

「四女神様、お助けを!!」


 まだ魔のものは甲羅には取り付けていない。


 だけど、時間の問題だった。


 鍵穴から湧き出る魔のものは止めどなかった。


 玄武の足元の山は次第に大きくなっていく。

 白虎の攻撃も時間稼ぎにしかならなかった。


 青竜は鍵穴の上で止まった。

 目の前には巨大な影が嵐の中、浮かんでいる。

 稲光がその全容を一瞬晒し出した。


 前方後円墳の鍵穴の奥深くまで、その影は落ち込んでいた。

 奈落の底から力を得るようにその影は膨張しているようだった。


「邪神!! デカくなってる!!」

「千尋! どうするの?」

「麒麟を呼び出す……」

「大丈夫なの? 四神が消えたりしない?」

「その可能性はある」


 神廟で奉納したとき、麒麟の顕現と引き換えに四神が消えた。


——今、同じ状況になったら、全滅……


「でも、このままでも結果は同じ」

「わんわんわん!!」


 柚月がパーカーから光り輝く巾着を出した。


「呼ぶよ」

「うん、きっと、大丈夫」


 私が両手を合わせて差し出すと、柚月がそこに巾着を広げてひっくり返した。


 私の手の中に五つの勾玉が転がり出た。


 勾玉の光が共鳴するように輝き出す。

 玄武の勾玉が、一際赤く光る。


 目の前が真紅の炎で輝いた。


「ザッキー……」

「わんわんわん!!」


 その中心で、太陽フレアのように炎が渦巻く。


 世界が、燃え上がるかのような錯覚。


 神獣朱雀は炎の翼を広げた。


 巨大な炎の塊。

 魔のものを焼き、それ以外を優しく温める。


「朱雀様……」


 冷え切った心と体に、熱が入ってくる。


 そして視界が白く染まった。

 邪神の影が、魔のものの影が、光の中に飲み込まれていく。


 その瞬間、光の中に青竜も消えた。

 

「きゃああッ!!!」


 私たちは神廟の鍵穴に放り出された。

 なすすべもなく奈落の底に落下していく。


 落ちていく私たちの周りに青い光、赤い光、白い光、漆黒の影が渦巻いた。

 そして鍵穴の底から黄金に輝く何かが浮き上がった。


 落ちたはずの体が、沈まなかった。

 そこには、大地のような温もりがあった。


 それは、金色に輝く草原のようだった。


「麒麟……来てくれた」


 私はその温もりに安心して寝転がった。


 雨が止み、青空が広がった。


 深い穴の中から、私たちを背に乗せた麒麟が浮かび上がる。

 

 私ははっとして起き上がる。

 同じく起き上がった日向と柚月と仮面を見合わせた。


 魔のものは消えていた。

 モノノフたちが呆然としたように地面に座り込んでいた。


——助かった……


 私はすべての力が抜けて、柔らかな麒麟の毛並みにつっぷした。


——やっと、終わった……


「チヒロ……まだ終わってない」


 隣に来たマカーベがつぶやいた。


「え? カイくん?」


 私が握りしめた手の中で勾玉がどくんと脈打った。


「な、なに?」

「千尋……あれ……」

「なんで……?」


 鍵穴の上に、まだ影は漂っていた。


「「かへりたし、かへさぬ、かへれぬ——ならば……」」


 影は苦しげに呻いた。

 奈落の底は麒麟の光によってどこまでも光り輝いていた。


『境界の門が閉じる……』


 そのとき、麒麟の思念が脳内に轟いた。


「誰? 麒麟?」

「門が閉じる……?」

「それって帰れなくなるってこと?」

「……やば」


 魔のものは光に焼かれ黒焦げになり折り重なっていた。

 その死骸が大地を埋め尽くしている。


——これが、麒麟の力?


 あんなにいたのに……


 しかし、邪神の影は光に焼かれながらも、なお膨張を続けていた。


「「境界を閉じるのみ!!」」


 空気を震わす怒声が響く。


「境界って、何?」


 思わずつぶやいた。


『……この世界は、呪いを捨てるための”器”……』


 麒麟の静かなささやきが聞こえてくる。


『汝らの世界が抱えきれぬものが、流れ着く場所……』


「器……?」


『ゆえに、迷い人は来る……ゆえに、かへりたしと叫ぶ……』


「かへりたし……」


『だが、呪いは満ちた。境界は、もはや耐えられぬ』


 そこで麒麟の言葉は終わった。


「マジか……」

「麒麟様! どうしたらいいの?!」


 私は麒麟に呼びかけた。


『飛び込め……今ならば間に合う』


 私は奈落を見た。

 穴はどこまでも光り輝き、それは一点に集約していく。

 底はまったく見えなかった。


 底というよりも”無”に見えた。


——今、飛び込まないと帰れなくなる……?


「飛び込めって言ったって……」


 日向がぞっとしたように首を振った。


「私たちが帰ったら、あの邪神はどうなるの?」


 崖の上に立っているミヤビ、フォーゲル、モノノーベの姿が目に入った。


『汝らが気にすることでは、ない』


 麒麟が答えた。


——気にする。


 私は麒麟の答えを、心の中で否定した。


 ナガノさんのお姉さんも言ってたように、生きるための仕事はどこでも同じ。

 この世界でも生きている人がいる。


 助けたい。


 ここまで、助けてくれたこの世界の人たちのためにも。


「「境界を閉じ、この世界を必ず、滅ぼす!!」」


 光と影が拮抗し、邪神は空間そのものを軋ませるように叫んだ。


「あんなこと言ってる……」

「やばいんじゃ……あれ爆発しそう……」


 今、飛び込めば帰れる。


 でも——


「スミレさん! いいの? このままで?」

「……飛び込めば、帰れる……の? でも……」


 スミレは呆然と座り込み、モノノーベたちのいる方向へ顔を向けた。


「大世界統一四女神さま……どうか、どうか、邪神をお鎮めくださりたまえ……」


 アベーノが泣き崩れた。

 この世界の人たちも生きている。


 このまま帰ったら、きっと、とんでもないことになる。


「タイラーさん、鏡を。日向、草薙剣を出して」

「どうするの?」

「この世界を助けて、ストクもケイタイも救って、私たちも帰る」


 私は立ち上がった。


——かへりたし、か……


 瀬をはやみ。


 分かたれたものを、もう一度繋ぐために。



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