8話 鬼とマカーべ
【Me Tube】急上昇ランク #1
『地図にないトンネル ⑥』(11:22)
⚪︎HYC x 3jk 3.0万人加入
再生回数: 1,590,271回視聴 2日前 1,595件のコメント
@puripuri_punipuni_uni 6時間前
ここは歴史の表舞台から消え去りしものを留めておく場所。
幾千年に渡りこちらとあちらとを繋いできた場所。
その扉を開いたものは、
……
続きを読む。
good 215 bad
18件の返信 ↓
@hogai_irina_xz11 6時間前
10:15のところ、鍵穴? 前方後円墳?
good 54 bad
24件の返信 ↓
@kuroi_katamari_baba 6時間前
ここどこ?特定班はよ
***
「あれって、前方後円墳だよね……?」
木々の間に見覚えのある鍵穴の形が見えた。
教科書で見たことがある。
——いや、違う。父の書斎だ。
本で溢れた、古い紙の匂いがこもるあの部屋。
壁に貼られた航空写真。
いつも家にはいない父の研究対象だ。
「お墓だよね…… 帰れなかったってこと?」
「え……? やだよ……」
その意味に気づいた瞬間、胸が締め付けられた。
前方で何かがぶつかる金属音が響く。
モノノフたちが剣を振るっているのが木々の間に見えた。
甲高い吠え声と怒号が混じり合う。
「戦ってる?」
「……あれって何?」
牛車はそこに向かって坂道を降りていく。
「ちょ、ちょっと、何あれ!?」
「止まってってば!」
道端に、何かが倒れていた。
小柄な猿のような、でも猿じゃない。
イグアナに似た緑色の硬そうな皮膚に、尖った耳、大きな目と鼻と口。
牙が飛び出している。
とげとげのついた棍棒が、その手から転がり落ちていた。
黒い血が地面に広がっている。
「あれって、ゴブリンってやつ?」
「めっちゃ、リアルゴブリン……」
「死んでるよね……?」
私は目を背けた。
でも、鼻が曲がりそうな臭いからは逃げられなかった。
——本当に異世界だ。
心臓の鼓動が激しくなる。
手足が急激に冷えて、震えが止まらない。
「廟に、巣くった、鬼にて、そふらふ」
アベーノが震える声で言った。
「めっちゃ、いる……」
ゴブリンの死体が増えてきていた。
道の両脇に、五体、十体……
怪我をした農民がうずくまり、呻いている。
「マジで! やばいから! 帰ろ!」
日向が叫んだ。
しかし、牛車は止まらない。
「御方がたの、廟に、戻られたし、という、お望みを、叶えたまい、そふらふ……」
アベーノの声は揺るがない。
この人、本気だ。
「……もう、それはいいから! お願いだから!」
私の懇願は無視され、牛車はガタガタと山道を降りていく。
眼前に小高い丘が見えてくる。
怪我をして倒れているモノノフの姿もあった。
「あれって、ホブゴブリン?」
大人の背丈の鬼が倒れていた。
筋肉質で、さっきのゴブリンより明らかに強そうだった。
「あれって……八尺じゃないよね?」
「帰って! 戻ろうよ!」
私は泣きそうな声で叫んだ。
胃がきりきりと痛む。
口の中に酸っぱいものがこみ上げてきた。
「グルルルル……」
スザクが低い唸り声を上げた。
耳を伏せ、牙を剥いている。
前方で悲鳴が響いた。
モノノフが、空中を吹き飛んでいくのが見えた。
巨大な影が前方で暴れている。
農民の鍬が手から落ち、へたり込むのが見えた。
『グガァァァァァァッ!!』
低音の叫び声が地面を、空気を震わせた。
モノノフが後ずさりする。
カバのような分厚そうな灰色の皮膚に覆われた巨大な鬼が、簾の向こうで丸太を振り回していた。
「……なに、あれ?」
「マジ、ムリ……」
「まさか…… サイクロプス……?」
一つ目の巨人。ゲームでよく見る、最強クラスのモンスター。
額から生えたツノ、二メートル以上の巨体。
——こんな序盤で……
私は呆然となった。
「きゃあ……」
「いやあッ!」
日向と柚月が仮面の下でガタガタと震えた。
かすかな悲鳴が知らずに漏れ出る。
モノノフたちも、固まったように動かない。
一人のモノノフがその棍棒に吹き飛ばされた。
「わんわんわん!!」
スザクが吠えた。
『マジヤヴァエヱッ!!』
そのとき、カモーノの怒号が爆ぜた。
黒い血が鎖帷子にまだ滴っている。
『マジヤヴァエイッ!!』
その叫び声に、周囲のモノノフがはっと我に返り、武器を構え直した。
『マジャバーッ!!』
応えるように、怒号が次々と上がる。
「こっち来る!」
サイクロプスは、どしんどしんと前の牛車に向かって走ってきた。
その牛車の御者が慌てて飛び降りたものの、その場で尻餅をついたまま動けない。
そしてサイクロプスは突然、牛に棍棒を叩きつけた。
「もー!!!」
牛の断末魔の悲鳴が上がった。
サイクロプスは頭を割った牛を持ち上げると、頭から貪り食べ始めた。
肉を食いちぎり、骨をばりばりと砕く咀嚼音が響く。
血が飛び散り、血と臓物の臭いが漂った。
「うっ……」
私は仮面を少しずらし、口元を押さえた。
「やば……」
日向が顔を背けた。
「見ちゃダメ……」
柚月が目を閉じた。
その凄惨な光景にモノノフたちの動きが止まる。
そのときだった。
一つの黒い影が、風のように走ってきた。
黒髪、黒いマント。
槍を構え、跳躍する。
勢いのまま、槍をサイクロプスの背中に突き立てた。
抜き放った長剣が夕日を受けて煌めいた。
背中に突き立てた槍を足場に駆け上り、宙に舞った。
振り向いたサイクロプスの、一つ目が見開かれる。
剣が、一閃のもとに首を跳ね飛ばした。
私の視界で、世界がスローモーションになった。
ほとばしる鮮血が、青空に弧を描く。
太陽の光を浴びて、黒い雨が降る。
首を失った体が、どうと地響きを立てて倒れる。
次いで、一つ目の首がどすんと音を立てて落ち、地面を転がっていった。
「……え?」
私たちは呆然と見つめることしか、できなかった。
「マカーべ!!」
ヨシーノが黄色い声を上げた。
間違いない。あの真壁くん似のモノノフだ。
午後の日差しの中、風が血生臭い空気を運んだ。
血塗れの牛と首のないサイクロプス。
黒髪を風になびかせ、剣の血糊を払う。
その瞳が、憂いに翳ったように伏せられた。
——強すぎない? サイクロプスを一撃? 人間業じゃない……
「うぇっ……」
「……マジムリ」
日向も柚月も仮面の下は青ざめているのだろう、仮面の下の口に手を当てた。
——この世界、マジやばい……
そして、あの人、マジやばい……
背中がぶるっとする。
恐怖と畏怖と、そして憧憬のようなものが胸に渦を巻いた。
それが、余計に気持ち悪かった。
モノノフの一人がアベーノに何かを報告した。
アベーノが巻き舌で御者に声をかけて、牛車は再び動き出した。
首のないサイクロプスの隣を通りすぎる。
マカーべは片膝をつき頭を下げて、私たちを見送った。
前方の牛車を一頭立てにするべく、御者が震える手で綱を外していた。
ミワーノがその間、客車の外に出て、嘔吐をしているのが見えた。
分かる。私も限界だ。
沈黙。
誰も何も話さなかった。
揺れる車内で私たちは言葉を失っていた。
牛車はゆっくりと進み、目前に前方後円墳が近づいてくる。
農民、モノノフが血を流して倒れ、無事だった農民が手当てをしている。
倒れたゴブリンは農民が森の中に運んでいた。
しばらくしてアベーノが口を開いた。
「御方がた…… 鬼は、すべて、討ち果たしたとのこと……」
「マカーべがすべて仕留めまして、ごじゃりまする。ツワモノの中のツワモノにて……」
ヨシーノが自慢するように言う。
「……」
私は震える拳を握りしめた。
「だからなんなの?!」
私はイラつく気持ちを抑えられなかった。
これが、異世界?
私が憧れていた世界?
ふざけないでよ。
こんなのただの地獄じゃん!
「こんなの…… 違う! こんなの違うよ……!」
声が震えた。
涙が出そうになった。
——帰りたい! こんな危険なところ! 神様なんて知らない!
私はアベーノとヨシーノに、そしてこんな世界に憧れていた自分自身に、強烈な怒りを覚えていた。
ダース仮面の下で、涙が一筋、頬を伝った。




