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神様やめたい ! 〜万バズから始まるJK三人組の異世界勘違い神話  作者: タキ マサト
第一章 村の守り神

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7/84

7話 御親征と神廟

【Me Tube】急上昇ランク #1

『地図にないトンネル ⑥』(11:22)⚪︎HYC x 3jk 2.9万人加入

 再生回数: 1,429,623回視聴 2日前 1,491件のコメント 


 @jimnyo_shippu_roku 

 2日前最初から見直してきた。映るものがどんどん過去に遡ってる。

 good  159 bad

 36件の返信


 返信  ↑

 @ranebo_miku_12wb 1時間前

 最初は旧日本軍のトンネル→煉瓦→岩壁が一瞬映るね

   good 34 bad


 @dergra_vorno25 1時間前

 岩壁の和歌って、崇徳天皇のだよね?日本三大怨霊……gkbr


 @hanepi_hanesaru

 6:22 一つ目の鬼?ゴブリン?ぽいの映ってる……






  ***





 修学旅行で見た神社の拝殿を思わせる、荘厳な広間が目の前に広がっていた。

 太い石柱が等間隔に並び、御簾の向こうには人々が平伏している。


 向こうからは、こちらは見えないのだろう。


 顔を上げたアベーノとは目が合わない。


——舞台装置としては、完璧すぎる……


 なんで、こんなところにいるんだっけ、私たち。

 父に連れられて行った、古都の古い神社の空気感そのままだ。


 アベーノとカモーノ、ミワーノの三人が一番前にいる。

 その後ろに鎖帷子を着たモノノフが二十人ほど並び、その後ろにいかにもモブ的な農民が数十人平伏していた。


「我ら、御神殿に務むる百余名。いざ御神廟にて鬼退治に参りたまう! そふらふ!」


 アベーノの声が朗々と響く。

 私たちの知らないところで話が急速に進んでいた。

 拒否権なんて、最初からなかった。

 なにより、「秒で戻るつもり」と日向が言ってしまったのだ。


——秒と廟…… 


 この世界の神話と私たちの言葉が、絶妙、そして最悪な形でリンクしている。


 かつてこの地にいた「誰か」と私たちを強引に重ね合わせようとしている。

 アベーノたちは、その再来を狂おしいほど望んでいるのだ。


 幼少時より漫画と小説ばっかり読んできた私には、この先の展開がなんとなく予測がついた。

 いわゆる「巻き込まれ型」の主人公ムーブだ。

 いや、私は主人公じゃないんだけど。


 私はダース仮面の下でため息をついた。


「鬼、退治って……マジ?」

「聞いてないよ……」


 日向と柚月が困惑した声を漏らす。


「グルルル……」

 そのとき、スザクが警戒したように簾の外に顔を出した。

「スザク! ダメ!」

 気がついた柚月が声をかけたが、遅かった。


『おお…… 神獣…… まことに……』

 御簾の外で、さざなみのようなため息が広がった。

 どうやらスザクの存在が、私たちの「神格化」をさらに後押ししてしまったらしい。


「ヨシーノ!」

 アベーノが勝ち誇ったようにヨシーノに声をかけた。


「御面をば、おつけ、くださいまし」


 ヨシーノが御簾の傍から、緊張した声で言った。


「御簾を、お上げ、つかまつり、御姿をば、御覧じたく、ごじゃりまする」

「え? もう? 心の準備が……」

 私たちが声を上げたとき、簾がするすると上げられた。


 視界が開ける。

 初夏の強い日差しが差し込んだ。


『おおお……』

 地鳴りのような歓声と、どよめきが起こる。


『神蛙の化身!』

『白面の御神!』

『黒神の御兜!』


 興奮した声が上がった。


「まことに…… まことに……」


 ミワーノがおよよと顔を覆って平伏した。


 白くまぶしい光の中、すべての人間が平伏している。

 高い梁と石屋根の間に、突き抜けるような青空が見えた。

 人々の体は震えている。

 複数の嗚咽の声が漏れていた。


 異様な光景だった。

 ただの女子高生三人と一匹に、百人以上の大人が涙を流して祈っている。


「こちらへ、わたらせ、たまへ……」


 アベーノが立ち上がり、私たちを誘導する。

 スザクも柚月を見上げながら続いた。


「……鞄、持ってく?」

「持って行った方が良いよ……」

 いつ帰れるチャンスがあるかわからない。

 教科書を置き忘れたら、と思うとぞっとする。

 それが、私の日常と繋がる最後のよすがだった。


 私たちは平伏している農民の真ん中を、花道のように開けられた空間を通っていく。

 モノノフたちが、ガチャリと音を立てて立ち上がる気配がした。


 広間を抜けると、下りの階段があり、石造りの大きな門をくぐると眼下に湖が見えた。

 湖面に光が当たって煌めいている。


 巨大な朱色の鳥居が湖面から(そび)えていた。


——厳山神社……? いや、ちょっと違う。


 外の長い階段を降りるとそこには、二頭の牛に引かれた雅な客車があった。

 源氏物語絵巻でしか見たことのないような、本物の「牛車」だ。


「ご覧、あそばせ……たもう。神がお戻り、なさるのを、いく百年、お待ち申して、そふらふ……」


 アベーノは感極まったようにその古びた、しかし手入れされた牛車に目を向けた。


「もー」


 牛が答えるように鳴いた。

 その鳴き声だけが、妙にリアルで牧歌的だった。


 客車の中は見た目よりも狭かった。

 日向、柚月、私の順番で乗り込む。

 乗ってきたスザクがその狭い空間に「ブルル」と不満の声を上げた。


「これ、サスないよね?」

「ケツが死ぬ予感しかしない」


 日向と柚月が的確な懸念を口にした。


「こちらに、見えまするのは、ストーク御神より、賜りし、御畑にて、そふらふ」


 アベーノは神殿の丘の段々畑を指し示した。


「ストーク…… おんかみ?」


 私はその響きに引っかかりを覚えた。

 ストーク…… ストク…… 崇徳?


「さよう…… ストーク御神は、八百五十余年前、此の地を、平定したまいし、現人神(あらひとがみ)にて、そふらふ……」


 八百五十年前…… 保元の乱の頃……?

 父の書斎で見た年表が頭をよぎる。

 まさか、崇徳上皇もここに?

 

 私の思考を遮るように、外が慌ただしくなってきた。


『これより! 鬼の蔓延(はびこ)る御神廟へと御親征となる!』


 カモーノの声が響き渡った。


『皆のもの! マジヤヴァエ!!』

『マジヤヴァエエエ!!』


 気合いの入った謎の掛け声が、空気をビリビリと震わせた。


「アベーノさん? 鬼って、強いの?」

 日向が不安げに後席のアベーノに声をかけた。


「さよう、身の丈八尺、怪力にて、近辺の農村に、数百年に渡り、多大なる被害が、出ており、そふらふ……」


「そんなのがいるとこに行くの?」

「一尺って、三十センチだったよね……?」

「……マジか」


 客車に重たい沈黙が降りた。


 アベーノが御者に早口の巻き舌で声をかける。

 ゴトンと、重たい音を立てて、牛車は動き出した。

 予想通り、振動がダイレクトにお尻に伝わってくる。


 そのときだった。

 一陣の風が吹き、御簾がめくれた。


 外を一人のモノノフが走り抜けて行った。


「あ……」


 銀色に輝く鎖帷子、その上に黒いマント。

 風になびく黒髪の長髪。


 その横顔が見えた瞬間、私の心臓がドクンと跳ねた。


 切れ長の目、通った鼻筋、どこか憂いを帯びた瞳。


「……真壁、くん?」


 思わず声が出た。

 クラスのサッカー部、真壁くん。

 遠くから見ているだけだった、憧れの人。


「ほらっ千尋! 今の!」

「真壁くんに似てない? てか、激似じゃない?!」

 日向が私の肩をバシバシ叩く。


「千尋…… 顔、赤いんじゃない」

 柚月がニヤニヤしながら仮面の下を覗き込んでくる。


「や、やめてよ! そんな場合じゃないでしょ?」

 私はダース仮面の下で、顔が沸騰しそうなのを感じた。


「あのモノノフはカモーノ家の家臣にてマカーべと申すもので、ごじゃりまする」


 ヨシーノがうわずる声で、早口で言った。


「あの方だけは…… 特別にて……」


 ——あ、これ。恋する乙女の反応だ。


「ぶッ! マカーべって」

「ひゃっひゃっひゃっひゃ!」

 柚月がツボに入ったように笑い転げた。

 

——マカーべって、名前まで……? 本当に真壁くんじゃないよね……


 胸のドキドキが止まらない。

 不安と、場違いなときめきが入り混じる。

 

 牛車はガタゴトと、尻にダメージを与えながら進んでいく。


 しばらくして小休止があり、ヨシーノが雑穀のパンと木の実を差し出した。

「お腹空いた」

「このパン硬いけど、この桃みたいなの乗せれば、まあまあかな」

「トイレどうすんの?」

「おまるか……」

「マジで?」


 ファンタジーな世界観とは裏腹に、生理現象と空腹は現実的だった。

 お腹が落ち着くと、改めてこの異常な状況に恐怖が込み上げてくる。


——私たち、どうなっちゃうの?


 現実逃避するように、私は鞄から国語の教科書を取り出し古文の単語ページを開いた。

 お父さんの言ってた「境界」の話を思い出す。


「でも、なんで、この人たち、昔の日本語話せるの?」

「ここって異世界だよね……? 転生したらアメーバだった的な?」

 日向と柚月がひそひそと話している。

 

「たぶん、昔の日本人が転移して、日本語を広めたんだと思う……」

「その人って、帰れたの?」

「分からない……」


 わかるわけがない。

 私はため息をついた。


「携帯がつながればなあ……」

 柚月がスマホを取り出した。

「言葉、調べられるよね」

「もう私のケータイ、充電ないよ」

「ケータイ、あの通路まで持たせないと」

 

 私たちが「ケータイ」と言った瞬間、アベーノがびくりと反応した。


「おお……! 千五百年前に去りし、天を統べ、国を興しし、その真の御名を、今、ここに……」


 アベーノが震える手で拝み始めた。


「ケータイ祖神の…… 御名さえも、ご存知、あらせられる……」


 アベーノが涙ぐみながら、何かとてつもない勘違いをしている。


——ケータイ祖神?

 千五百年前……?

 五世紀から六世紀……


 まさか、「継体(けいたい)天皇」のこと?!


 お父さんが研究していた、謎多き天皇。

 携帯と…… 継体……


 もう迂闊に何も話せない……

 アベーノのすすり泣く声が、客車に暗い影を落とした。


 牛車は山道を登り始めていた。

 森の木々が深くなり、空気がひんやりと変わっていく。


「どこまで、行くの? アベーノさん?」


 日向が不安な声で聞いた。


「まもなくで、そふらふ」


「……」


 午後の日差しが強くなったころ、山道は下りになった。

 簾の向こうに広々とした緑が広がる。

 山あいに、人工的に作られた巨大な丘が見えた。


「あれって…… 前方後円墳?」

「あれが、廟?」


 教科書で見た古墳が、そこにあった。


 そのときだった。

 獣とも人ともつかない、地底から響くような低い唸りが森の奥から聞こえた。

 空気がびりびりと震える。


「何? ……今の?」

「……まさか、鬼?」

 

 スザクが「グルル……」と低く唸り、毛を逆立てた。

 ただの野生動物じゃない。

 殺意の塊のような気配。


——本当に、鬼退治……?

 

 桃太郎じゃないんだから……


「もう、帰ろう……」


 私の声が震えていた。

 後ろのアベーノを振り向いた。


「ご親征に…… つきますれば……」


 アベーノが私の願いを打ち砕くように、静かに、しかし冷酷の宣告した。


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