7話 御親征と神廟
【Me Tube】急上昇ランク #1
『地図にないトンネル ⑥』(11:22)⚪︎HYC x 3jk 2.9万人加入
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@jimnyo_shippu_roku
2日前最初から見直してきた。映るものがどんどん過去に遡ってる。
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@ranebo_miku_12wb 1時間前
最初は旧日本軍のトンネル→煉瓦→岩壁が一瞬映るね
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@dergra_vorno25 1時間前
岩壁の和歌って、崇徳天皇のだよね?日本三大怨霊……gkbr
@hanepi_hanesaru
6:22 一つ目の鬼?ゴブリン?ぽいの映ってる……
***
修学旅行で見た神社の拝殿を思わせる、荘厳な広間が目の前に広がっていた。
太い石柱が等間隔に並び、御簾の向こうには人々が平伏している。
向こうからは、こちらは見えないのだろう。
顔を上げたアベーノとは目が合わない。
——舞台装置としては、完璧すぎる……
なんで、こんなところにいるんだっけ、私たち。
父に連れられて行った、古都の古い神社の空気感そのままだ。
アベーノとカモーノ、ミワーノの三人が一番前にいる。
その後ろに鎖帷子を着たモノノフが二十人ほど並び、その後ろにいかにもモブ的な農民が数十人平伏していた。
「我ら、御神殿に務むる百余名。いざ御神廟にて鬼退治に参りたまう! そふらふ!」
アベーノの声が朗々と響く。
私たちの知らないところで話が急速に進んでいた。
拒否権なんて、最初からなかった。
なにより、「秒で戻るつもり」と日向が言ってしまったのだ。
——秒と廟……
この世界の神話と私たちの言葉が、絶妙、そして最悪な形でリンクしている。
かつてこの地にいた「誰か」と私たちを強引に重ね合わせようとしている。
アベーノたちは、その再来を狂おしいほど望んでいるのだ。
幼少時より漫画と小説ばっかり読んできた私には、この先の展開がなんとなく予測がついた。
いわゆる「巻き込まれ型」の主人公ムーブだ。
いや、私は主人公じゃないんだけど。
私はダース仮面の下でため息をついた。
「鬼、退治って……マジ?」
「聞いてないよ……」
日向と柚月が困惑した声を漏らす。
「グルルル……」
そのとき、スザクが警戒したように簾の外に顔を出した。
「スザク! ダメ!」
気がついた柚月が声をかけたが、遅かった。
『おお…… 神獣…… まことに……』
御簾の外で、さざなみのようなため息が広がった。
どうやらスザクの存在が、私たちの「神格化」をさらに後押ししてしまったらしい。
「ヨシーノ!」
アベーノが勝ち誇ったようにヨシーノに声をかけた。
「御面をば、おつけ、くださいまし」
ヨシーノが御簾の傍から、緊張した声で言った。
「御簾を、お上げ、つかまつり、御姿をば、御覧じたく、ごじゃりまする」
「え? もう? 心の準備が……」
私たちが声を上げたとき、簾がするすると上げられた。
視界が開ける。
初夏の強い日差しが差し込んだ。
『おおお……』
地鳴りのような歓声と、どよめきが起こる。
『神蛙の化身!』
『白面の御神!』
『黒神の御兜!』
興奮した声が上がった。
「まことに…… まことに……」
ミワーノがおよよと顔を覆って平伏した。
白くまぶしい光の中、すべての人間が平伏している。
高い梁と石屋根の間に、突き抜けるような青空が見えた。
人々の体は震えている。
複数の嗚咽の声が漏れていた。
異様な光景だった。
ただの女子高生三人と一匹に、百人以上の大人が涙を流して祈っている。
「こちらへ、わたらせ、たまへ……」
アベーノが立ち上がり、私たちを誘導する。
スザクも柚月を見上げながら続いた。
「……鞄、持ってく?」
「持って行った方が良いよ……」
いつ帰れるチャンスがあるかわからない。
教科書を置き忘れたら、と思うとぞっとする。
それが、私の日常と繋がる最後のよすがだった。
私たちは平伏している農民の真ん中を、花道のように開けられた空間を通っていく。
モノノフたちが、ガチャリと音を立てて立ち上がる気配がした。
広間を抜けると、下りの階段があり、石造りの大きな門をくぐると眼下に湖が見えた。
湖面に光が当たって煌めいている。
巨大な朱色の鳥居が湖面から聳えていた。
——厳山神社……? いや、ちょっと違う。
外の長い階段を降りるとそこには、二頭の牛に引かれた雅な客車があった。
源氏物語絵巻でしか見たことのないような、本物の「牛車」だ。
「ご覧、あそばせ……たもう。神がお戻り、なさるのを、いく百年、お待ち申して、そふらふ……」
アベーノは感極まったようにその古びた、しかし手入れされた牛車に目を向けた。
「もー」
牛が答えるように鳴いた。
その鳴き声だけが、妙にリアルで牧歌的だった。
客車の中は見た目よりも狭かった。
日向、柚月、私の順番で乗り込む。
乗ってきたスザクがその狭い空間に「ブルル」と不満の声を上げた。
「これ、サスないよね?」
「ケツが死ぬ予感しかしない」
日向と柚月が的確な懸念を口にした。
「こちらに、見えまするのは、ストーク御神より、賜りし、御畑にて、そふらふ」
アベーノは神殿の丘の段々畑を指し示した。
「ストーク…… おんかみ?」
私はその響きに引っかかりを覚えた。
ストーク…… ストク…… 崇徳?
「さよう…… ストーク御神は、八百五十余年前、此の地を、平定したまいし、現人神にて、そふらふ……」
八百五十年前…… 保元の乱の頃……?
父の書斎で見た年表が頭をよぎる。
まさか、崇徳上皇もここに?
私の思考を遮るように、外が慌ただしくなってきた。
『これより! 鬼の蔓延る御神廟へと御親征となる!』
カモーノの声が響き渡った。
『皆のもの! マジヤヴァエ!!』
『マジヤヴァエエエ!!』
気合いの入った謎の掛け声が、空気をビリビリと震わせた。
「アベーノさん? 鬼って、強いの?」
日向が不安げに後席のアベーノに声をかけた。
「さよう、身の丈八尺、怪力にて、近辺の農村に、数百年に渡り、多大なる被害が、出ており、そふらふ……」
「そんなのがいるとこに行くの?」
「一尺って、三十センチだったよね……?」
「……マジか」
客車に重たい沈黙が降りた。
アベーノが御者に早口の巻き舌で声をかける。
ゴトンと、重たい音を立てて、牛車は動き出した。
予想通り、振動がダイレクトにお尻に伝わってくる。
そのときだった。
一陣の風が吹き、御簾がめくれた。
外を一人のモノノフが走り抜けて行った。
「あ……」
銀色に輝く鎖帷子、その上に黒いマント。
風になびく黒髪の長髪。
その横顔が見えた瞬間、私の心臓がドクンと跳ねた。
切れ長の目、通った鼻筋、どこか憂いを帯びた瞳。
「……真壁、くん?」
思わず声が出た。
クラスのサッカー部、真壁くん。
遠くから見ているだけだった、憧れの人。
「ほらっ千尋! 今の!」
「真壁くんに似てない? てか、激似じゃない?!」
日向が私の肩をバシバシ叩く。
「千尋…… 顔、赤いんじゃない」
柚月がニヤニヤしながら仮面の下を覗き込んでくる。
「や、やめてよ! そんな場合じゃないでしょ?」
私はダース仮面の下で、顔が沸騰しそうなのを感じた。
「あのモノノフはカモーノ家の家臣にてマカーべと申すもので、ごじゃりまする」
ヨシーノがうわずる声で、早口で言った。
「あの方だけは…… 特別にて……」
——あ、これ。恋する乙女の反応だ。
「ぶッ! マカーべって」
「ひゃっひゃっひゃっひゃ!」
柚月がツボに入ったように笑い転げた。
——マカーべって、名前まで……? 本当に真壁くんじゃないよね……
胸のドキドキが止まらない。
不安と、場違いなときめきが入り混じる。
牛車はガタゴトと、尻にダメージを与えながら進んでいく。
しばらくして小休止があり、ヨシーノが雑穀のパンと木の実を差し出した。
「お腹空いた」
「このパン硬いけど、この桃みたいなの乗せれば、まあまあかな」
「トイレどうすんの?」
「おまるか……」
「マジで?」
ファンタジーな世界観とは裏腹に、生理現象と空腹は現実的だった。
お腹が落ち着くと、改めてこの異常な状況に恐怖が込み上げてくる。
——私たち、どうなっちゃうの?
現実逃避するように、私は鞄から国語の教科書を取り出し古文の単語ページを開いた。
お父さんの言ってた「境界」の話を思い出す。
「でも、なんで、この人たち、昔の日本語話せるの?」
「ここって異世界だよね……? 転生したらアメーバだった的な?」
日向と柚月がひそひそと話している。
「たぶん、昔の日本人が転移して、日本語を広めたんだと思う……」
「その人って、帰れたの?」
「分からない……」
わかるわけがない。
私はため息をついた。
「携帯がつながればなあ……」
柚月がスマホを取り出した。
「言葉、調べられるよね」
「もう私のケータイ、充電ないよ」
「ケータイ、あの通路まで持たせないと」
私たちが「ケータイ」と言った瞬間、アベーノがびくりと反応した。
「おお……! 千五百年前に去りし、天を統べ、国を興しし、その真の御名を、今、ここに……」
アベーノが震える手で拝み始めた。
「ケータイ祖神の…… 御名さえも、ご存知、あらせられる……」
アベーノが涙ぐみながら、何かとてつもない勘違いをしている。
——ケータイ祖神?
千五百年前……?
五世紀から六世紀……
まさか、「継体天皇」のこと?!
お父さんが研究していた、謎多き天皇。
携帯と…… 継体……
もう迂闊に何も話せない……
アベーノのすすり泣く声が、客車に暗い影を落とした。
牛車は山道を登り始めていた。
森の木々が深くなり、空気がひんやりと変わっていく。
「どこまで、行くの? アベーノさん?」
日向が不安な声で聞いた。
「まもなくで、そふらふ」
「……」
午後の日差しが強くなったころ、山道は下りになった。
簾の向こうに広々とした緑が広がる。
山あいに、人工的に作られた巨大な丘が見えた。
「あれって…… 前方後円墳?」
「あれが、廟?」
教科書で見た古墳が、そこにあった。
そのときだった。
獣とも人ともつかない、地底から響くような低い唸りが森の奥から聞こえた。
空気がびりびりと震える。
「何? ……今の?」
「……まさか、鬼?」
スザクが「グルル……」と低く唸り、毛を逆立てた。
ただの野生動物じゃない。
殺意の塊のような気配。
——本当に、鬼退治……?
桃太郎じゃないんだから……
「もう、帰ろう……」
私の声が震えていた。
後ろのアベーノを振り向いた。
「ご親征に…… つきますれば……」
アベーノが私の願いを打ち砕くように、静かに、しかし冷酷の宣告した。




