6話 鬼の棲家と巡礼の儀
動画タイトル:『地図にないトンネル①』(6:47)
再生回数:2,012,079回視聴 5週間前 3,186件のコメント
@hasami_nori 5週間前
このコンクリ、旧日本軍のものじゃないか?
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@taki_masato_sn 4週間前
AI? CG? 6:15 一瞬光ったとこ止めてみて、前方後円墳が映ってないか???
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@tonneru_suki 4週間前
逃げてえ!!good 267 bad
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@daily_news_v 4週間前
はよ、続き
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***
私たちはまた簾の向こうに隔離された。
燭台の蝋燭が薄暗い八畳間を照らす。
ヨシーノがお膳を次々と運んでくる。
三人分はないのだろう。陶器の茶碗はバラバラだった。
湯気を出す、雑穀っぽいお粥が入った器。
謎の肉が浮かんだお吸い物。
焼き魚の切り身。
「御方がた…… 夕餉にて、ごじゃります。私は、これにて」
ヨシーノが簾の外に消えたけど、私たちは黙ったままだった。
「あの娘、まだ、そこにいるよ……」
「見張ってるんだ……」
私たちはひそひそと言葉を交わした。
「……食べる?」
「お腹は空いてるけど……」
日向のお腹がぐうと鳴った。
スザクにも生肉っぽいものを与えられたが、匂いを嗅いでそっぽを向いた。
「食べよ…… 腹が減ってはゲームはできぬってね」
「いくさでしょ?」
私たちは箸を手に取った。
ずず…… お吸い物をすする。
「……これ、何の肉? ……醤油はないよね?」
「このお粥も少な…… マズ……」
「魚…… 嫌いなんだよね……」
私たちは半分も食べられなかった。
「あとで、口直しにお菓子食べよ。スザクもこっちの方がいいよね?」
柚月はリュックからジャーキーを取り出してスザクの器に置いた。
「わんわんわん!」
「おーよしよし。カリカリの方がいいか、お前は」
柚月はスザクを撫でながら、ため息をついた。
「トイレ行きたいんだけど……」
「トイレって何て言うの?」
私は鞄に国語の参考書が入っていたのを思い出した。
「古文! 教科書に載ってるかも!」
参考書を開いたけど、載ってない。
「もういいよ。ヨシーノさんに聞く」
「あ! 待って! お面つけるから」
ほどなくしてヨシーノが簾を開けた。
食べ残しの器を見て、一瞬、顔が曇ったヨシーノを私は見逃さなかった。
「トイレ、行きたいんだけど」
日向が立ち上がって、もじもじする仕草をした。
「あ! 厠だ! かわや!」
ヨシーノはあっと言う顔をした。
「御方がた……もしや御手洗所にて、御用をば、果たされとう、御座いますか。
お忍び所へ、御案内、つかまつらん」
「みたらい…… どころ?」
「おしのび…… どころ?」
ヨシーノが立ち上がった。
私たちはヨシーノについていく。
スザクも柚月の後を追ってきた。
トンネルと反対側の通路を抜け、外に出ると石造りの立派なお堂のような建物があった。
「こちらにて、ごじゃります」
「すごい、立派……」
反対側からも、月明かりに浮かぶ湖面が見えた。
湖に浮かぶ巨大な鳥居が非現実的に聳えていた。
「やっぱり、日本じゃないね……」
幻想的なその光景に、私は目を奪われる。
「ここなら、ヨシーノにも聞かれない……」
「なんとかして、あのトンネルに戻ろう……」
「アンテナ立ってたし、連絡だけでも出来れば……」
蔵の奥でヒソヒソ声で相談していると、ヨシーノが帰りを催促してきた。
「仕方ないね……」
「あとで……」
御手洗所から帰ると、お膳は下げられていた。
そこに布団のようなものが敷かれている。
ヨシーノは三人を簾の内側に案内すると、またすっといなくなった。
「……絶対、見張ってるよね?」
ひそひそと言葉を交わす。
「この枕って、木?」
「敷き布団、ぺったんこ」
「かけ布団って、これ着物?」
柚月がお菓子の袋を開けた。
「まあ、食べよ」
「本当に…… 帰れるのかな?」
チョコとクッキーの味が郷愁を誘う。
「あのトンネルに戻れば、帰れると思う」
「明日は土日だし、月曜までには戻りたいよね」
なんだか、トンネルでアンテナが立っていたという記憶が曖昧になってくる。
「明日、アベーノさんに鍵を開けてもらお!」
「開けて、くれるかな……」
「千尋? だーいじょうぶッだって!」
日向の「大丈夫」ほど当てにならないものはない。
幼稚園からの付き合いなのだ。
今までさんざん振り回されてきたけれど、今回の出来事ほど強烈なものはなかった。
「じゃあ、蝋燭を消すね……」
「お休み……」
日向と柚月はすぐに寝息を立てはじめた。
「……よく眠れる、こんな状況で……」
私は何度も寝返りを打ちながら、硬い敷物の上で眠れない夜を過ごした。
*
「千尋! 起きて!」
「……あと五分。 わッ!」
私は日向の声に、がばっと起きた。
「夢じゃない……」
「夢なぁらば……って歌ってる場合じゃない!」
マイペースな柚月が慌てながら言った。
「……もう、十時半?」
私はスマホの電源を入れた。
変わらず圏外のまま、バッテリーだけが無常にも減っている。
「早く、お面被って!」
日向の声が緊張を帯びた。
二人はすでにお面をつけていた。
スザクが唸り声を上げている。
簾の外に大勢の人の気配がしていた。
「な、なに?」
「御方がた……、巡礼の儀の、御用意が、調いまして、そふらふ……」
アベーノの声が簾の向こうから聞こえた。
馬のいななきが、かすかに聞こえる。
簾の向こうの明るい日差しの中、大勢の人が平伏しているのが見えた。
日向と柚月がうなずきあった。
「おもてをあげーい!」
日向が突然、時代劇みたいなセリフを発した。
「はっ? はー!!」
アベーノの声がうわずった。
「我らは、トンネルに戻るのじゃ! 扉の鍵を、開けよ!」
柚月も調子に乗って日向に続く。
何かのアニメで見たのだろう。
真面目くさって重々しく告げた。
「トン……ネル……?
おお…… 御神廟の、鍵を、お開けしろと、仰せに、そふらふ……」
アベーノは、きょとんとした声を出した。
「御方がた…… 此のスザクの地より、夜を徹し、我が神に、拝謁を、賜ろうと、
神に仕えし、同胞が、駆け参じて、そふらふ……」
アベーノの隣に平伏していたモノノフが顔を上げた。
「それがしは、ミワーノ家、アヒーロと、申しまする……」
アヒーロはおよよと流暢な古語で泣きながら言った。
「此度、鬼の棲家となり申した、御神廟…… 昨夜、夢見に立ちし黒き影…… ああ、祟りでごじゃりまする…… 神の怒りでごじゃりまする…… このアヒーロ、御親征、感に、堪えませぬ」
日向と柚月は動揺を隠せなかった。
「え? なんなの?」
「どういうこと?」
この展開に、日向と柚月の目論見は崩れ去った。
神の威光を振りかざして、言うことを聞かせようとしていたのだろう。
私は首を振った。
——ミワーノ? 三輪? アヒーロ?
鬼の棲家……?
ごしんせいって? 御神性? 御神聖?
あっ、親征……
私の読書好きが、こんなところで役に立つなんて……
情報量が多すぎる。
私はダース仮面のヘルメットを抱えた。
「……ごしんせいって何?」
日向がぼそっと聞いた。
「……多分、一番偉い人が、一緒に、戦争に行くことだと、思う……」
これまでの話の流れで、そう結論づけざるを得なかった。
「戦争……?」
「遠足みたいなのじゃ……ないの?」
日向がごくりと唾を飲み込んだ。
「お食事は、牛車の中にて、御用意、たてまつり、そふらふ」
アベーノは立ち上がった。
『ものども! なんとしても、御神廟を取り戻すのじゃあ!!』
「真慈や栄え!!」
『マジヤヴァエエ!!』
マジヤヴァエエがこだまする中、私たちは困惑した顔を見合わせた。
——これは、帰るどころじゃない……
何かに利用されてる……
しかも、鬼退治って……
どうなってるの?
全力で逃げたい、これ以上、関わりたくない。
私の胃がきりきりと痛んだ。




