5話 逆さ鳥居と死罪
動画タイトル:『地図にないトンネル②』(7:12)再生回数:1,797,356回視聴
4週間前 2,750件のコメント
@tokutei_han 4週間前
背景の建物、北関東の〇〇付近じゃないか? 特定班、急げ。
good 312 bad
98件の返信 ↓
@massuru_mattyo_master 4週間前
3:37 なんか、鬼みたいなのいる
good 1124 bad
256件の返信 ↓
@puriuri_punipuni_uni 4週間前
ここは過去の呪いの記憶を留め置くトンネル
今ならまだ、引き返せる
手遅れにならないうちに
……
続きを読む
good 478 bad
178件の返信 ↓
@daily_news_v 4週間前
はよ続き
good 98 bad
45件の返信 ↓
***
ヨシーノを残して、アベーノたちが立ち去った八畳間の部屋。
窓はない。
正面の掛け軸がおぼろげに燭台の明かりに浮かぶ。
「くうん」
スザクが鳴いた。
私たちは、呆然と立ち尽くしていた。
「これより、夕餉の、支度に、参りたく、ごじゃりまする」
ヨシーノは平伏したまま下がろうとした。
「待って!」
日向が呼び止める。
「ちょっと、ここってどこなの? どうやったら帰れるの?」
矢継ぎ早に問いかけるが、ヨシーノは固まったまま動かない。
「ケロッパ、いい加減外すね」
日向が軽い調子で仮面に手をかけた。
ゴムがパチンと外れる音が、静まり返ったそこに響いた。
『ひいっ……』
その瞬間、ヨシーノが、この世の終わりを見たような悲鳴を上げた。
ガタガタと震え、後ずさる。
『そ、それは、い、いけませぬ……』
ヨシーノが怯えたような声を出した。
「御面を、お脱ぎなさるは、叶ひませぬ! 神の御真顔を、直に仰ぎし者は、即座に死罪に、処せられ、ごじゃりまする……」
「……は?」
「……死罪?」
ヨシーノは平伏したまま、後ずさって簾の向こうに消えた。
空気が凍りついた。
日向の手が止まる。
「このダース仮面のせいだよ……」
私は呻いて、ダース仮面のヘルメットを外した。
「千尋? どういうこと?」
柚月も能面を外して言った。
私は混乱する頭で整理してみた。
「尊すぎて直視できない設定がついちゃってる……」
「?」
「昔の偉い人の素顔は見たらダメって、見た人は死罪って、誰かがそう決めた……」
——それにしても、死罪って……
このふざけたお面が、今や唯一の生命線だった。
神さまじゃないってバレたら、今度こそ殺されるかも……?
「だから、たまたまお面をつけてて、勘違いされたのか……」
柚月が納得したようにつぶやいた。
「死罪って? 死刑?」
「まさかね……」
「わんわんわん!」
素顔を見たスザクが吠えた。
——犬はいいんか?
「よしよし。驚かなくていいんだよ」
柚月がスザクを撫でた。すぐに匂いを嗅いで落ち着いたようだった。
「それにこのスザク君。先週の動画で犬が映ってたんだけど。きっとこの子だね」
「お前も迷い込んだのか? おー大変だったな」
柚月はスザクの頭を撫で回した。
「動画編集をしてる時は、全然気づかなかったけど……」
私は家のパソコンで、日向に送ってもらった動画の編集をしていたのだ。
個人が特定されないようピー音入れて、モザイクかけて、テロップ入れて、音源探して、サムネ作って…… あの徹夜の編集作業の日々。
日向が無編集で動画を投稿しようとしたのを止めた結果だった。
——おかげで、全教科、追試……
だから、何かが映ってるとか気にしてる余裕なんてなかった。
あとで、視聴者さんのコメントを読むうちに、だんだん怖くなっていた。
最近では、Me Tube Studioのアプリを開くこともしなくなっていた。
私はため息をついた。
「この子も勘違いされた原因だね」
「じゃー、視聴者さんのコメント読んだら、何か分かるの?」
「ちょっと! バッテリーはどのくらい残ってる?」
三人はスマホを確認した。
日向、18%
柚月、32%
私、46%
「まじ、やばい……」
「トンネルでアンテナ、立ってたって?」
私は首を振った。
「ギガがもうない……」
「マジか!」
「私も今月はもう、ないよ……」
日向も俯いた。
「低速で、見るしかない?」
「動画は見れないよ?」
「コメントだけなら、読めるかも」
「ちょっと! 早くトンネルに戻ろうよ! アンテナ立ってるんなら、帰れるよ!」
日向が方向性を決めた。
私たちは顔を見合わせた。
またお面を被り直す。
重たい鞄を肩にかけた。
日向が簾をそっとめくって周りを見回す。
「……誰もいないよ」
日向が後ろを向いた。
「スザク! ……静かにね」
「行くよ……」
私たちは入ってきた通路まで、小走りに背をかがめて向かった。
スザクも走って後を追ってきた。
「あれ? 扉が三つあるよ」
柚月がライトを照らした。
広間に通じる廊下の先の突き当たりに二つの扉が並び、左側の壁にも扉があった。
「どれ? どっちから来たっけ?」
「どうしよう……」
その時、ヨシーノの悲鳴が響き渡った。
カモーノ家のモノノフたちの鎖帷子のガチャガチャした音が響いた。
「やばっ。逃げたのがバレた」
「どうしよう? どっち行こう?」
「こっちは開かないよ!」
「こっちもダメ」
突き当たりの扉は二つとも、鍵がかかっていた。
「じゃあ、こっち」
左側の重たい木の扉を押し開ける。
途端、びゅうっと冷たい夜気が私たちに吹き付けた。
そこは小高い丘の上だった。
「ここ…… どこよ。本当に……」
私たちの目の前に、月が浮かんでいた。
月明かりに照らされて、丘の下に湖面が揺れていた。
巨大な赤い鳥居が湖面から突き出し、反射して映っていた。
下りの斜面に段々畑が広がり、湖の辺りに民家が暗い影となって建っているのが見えた。
「日本じゃないね…… でも、鳥居って……」
私がそう呟いたときだった。
スザクが吠える暇もなかった。
音もなく、気配もなく。
「御方がた……」
耳元で囁かれたかのような近さで、低い音が響いた。
「夜明けののち、しかと、御案内、つかまつらん」
ひぃっ……
私の背中が硬直した。
いつの間に?
鼻が効くはずのスザクさえ、全く反応していなかった。
恐る恐る、後ろを振り帰る。
アベーノが仁王立ちしていた。
能面のような無表情。
それが逆に怖い。
「あの鳥居こそ、いにしへの、現人神、 御手づから、築き給ひし、神の御しるしにて、そふらふ」
アベーノが目を閉じた。
そして険しい顔を私たちに向ける。
——やばい、怒ってる。
アベーノの目がカッと見開かれた。
「御方がた…… いかなる、御心にて、此の地へ、お渡りなされ、たるや?」
ぞっとするような低い声音は、担当教師を彷彿とさせた。
その鋭い視線は、私たちを凍り付かせた。
「いや、……秒で、戻る、つもり、だったん……です」
日向がそう言い訳してしまったのも無理はなかった。
「廟……?」
アベーノが固まったようにつぶやいた。
「出……
戻る……
おつもり……」
アベーノは目を閉じた。
「廟…… 廟と、仰られ、たもふ……」
その瞳から一筋の涙がこぼれ落ちる。
『ああっ! なんたる浅はかな! 神の降臨を疑うなどと!!』
突然、アベーノが絶叫し、私たちはビクッとした。
そして、その声は一転、穏やかなものになった。
「廟にて…… お眠り、あそばれし、神の御霊……
今、ふたたび、巡りて、給わりたいと、欲す……」
肩が震え、やがて嗚咽になった。
『ものども! 神廟への巡礼の儀の支度じゃあ!!』
アベーノは感極まって絶叫した。
カモーノ家のモノノフ達も頭を垂れた。
「……御方がた、此の地は寒う、そふらふ。
夕餉の支度、すでに調い、そうらえば、どうぞ、お渡り、あそばされませ……」
アベーノの言動はうやうやしいものに変わっていた。
まるで、疑ったことを恥じ入るような、叱られたわんこのような目になった。
——また、なにか、とんでもない勘違いをされた……
私はダース仮面の下で、引きつった笑みを浮かべるしかなかった。
「秒ですぐ戻る」が、「神の霊廟へ巡礼する」になっちゃってる。
どんどん、あのレンガの通路から遠ざかっていく。
どのような展開になるか、全く予測がつかない。
この物語のプロット、どうなってるの?
伏線が全部、斜め上に回収されていく。
私は創作の神様に祈らずにはいられなかった。
どうか、どうか、この物語が……
エタらず、ハッピーエンドで終わりますように……
読んでくれてありがとう!
このお話は、毎朝6時に更新していく予定です。
通学・通勤前のひとときや、寝る前のリラックスタイムにでも、
気軽に読んでもらえたら嬉しいな。
よかったらブックマークして、また遊びに来てね!




