4話 和歌とアベーノ
動画タイトル:『地図にないトンネル③』(8:34)
再生回数:1,491,899回視聴 3週間前 2,098件のコメント
@guran_hank_lv 3週間前
ここどこよ? 特定班はよ
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@omka_moi 3週間前
1:13 トンネルの入り口に上下逆さまの鳥居が一瞬映ったんですけど……
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@puriuri_punipuni_uni 3週間前
ここは現世とあちらの世界とをつなぐトンネル
行ってしまったものは、帰ってこられない
ある方法を除いては、
……
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@daily_news_v 3週間前
はよ続き。
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***
私たちは老人に先導されて、半ば 拉致されるように煉瓦造りの通路を進んだ。
煉瓦の壁はすぐに途切れ、石段が現れた。
湿った空気が、少しずつ乾いていく。
暗く狭い階段を登ると、重厚な木製の扉が立ちはだかった。
そこを開けると、ひんやりとした広い石造りの通路に出た。
薄暗い中、松明の明かりと柚月のライトが空間を照らした。
私はフォースセイバーのスイッチを切った。
「ここ、どこ?」
日向がキョロキョロと見回す。
「……異世界ってやつ?」
柚月が冷静につぶやいた。
——異世界…… 憧れてた異世界。でも、この展開は全然思ってたのと違う……
「さっき、トンネルでスマホのアンテナが立ってた」
「うそっ? ダメ、圏外だよ」
日向が慌ててスマホを取り出すが、圏外の表示を見てため息をついた。
「おかしい……」
さっきの場所はアンテナ一本立ってたはず。
「あのトンネルじゃないと、繋がらない?」
「御方がた…… 此方をば、ご覧じ給え」
老人が空間の一角に手を向けた。
老人の呼び声に応えるように、奥の暗がりから鈴の音が響いた。
ちりん、ちりん……
現れたのは紅白の装束に身を包んだ、小柄な若い女性だった。
ぱっちりとした金髪碧眼と巫女の姿には違和感があった。
「可愛い……」
ぼそっと日向がつぶやいた。
その巫女はスザクを見て、後ずさりした。
老人と巫女は何かを話している。
巫女の目がやがて大きく見開かれる。
三人を見るその目に畏敬の光が宿った。
「遅まきながら名乗りをば仕らせ、そふらふ。
我が名は、アベーノ・ヒコマーロと、申す者にて、そふらふ」
「ヒコマーロ?」
「宝石箱だーの人?」
日向と柚月が小声で反応した。
——違うと思う。絶対に違うと思う。
阿倍仲麻呂の系譜……?
そして隣の巫女のような格好の女性を指し示した。
「こちらに控えしは、孫にて、そふらふ。ヨシーノと申すなり」
「ヨシーノ、で、ごじゃります」
ヨシーノは巻き舌で挨拶して、ぺこりと頭を下げた。
「また、此方に控えしは、カモーノ家の、モノノフにて、そふらふ」
「今、モノノフって言った?」
「モノノフって武士?」
老人が鎖帷子の大柄な男に声をかけると、年長の一人が跪いた。
「あ、マジャバーの人だ」
「マジャバーだね」
日向と柚月がひそひそと確認し合う。
『カモーノ・メーチョーでござる』
「……」
私たちの困惑はどんどん深まっていく。
明らかに西洋風の武具に身を固めた騎士が、モノノフ?
みるからに西洋ファンタジーの住人が、アベーノとカモーノ?
仮面の下で、この茶番を早く終わらせたいと強く願い、顔が強張っていく。
「ヨシーノさん? ここはどこ?」
日向が焦った口調で質問した。
ヨシーノは困った顔をして、アベーノを見た。
「御方がた……此方のヨシーノ、やまとことばに、習い浅く、そうらえども、いかなるお沙汰も、承り、そうらふ……」
「早く、帰りたいんだけど……」
柚月が圏外となったスマホを見て、悲しそうな声を出した。
アベーノとヨシーノは困った顔をした。
「御方がた、神の御国に、帰らまほしと、仰せられしか……」
アベーノが目を閉じて、首を振った。
「御方がた…… 此方をば、ご覧じ給え」
アベーノは簾がかかった一角へ三人を誘導していく。
簾をうやうやしく寄せて、三人を手招きする。
三方に簾がかかったその場所は、四畳半ほどの板の間が一段高く設置されていた。
その奥に小部屋へと続く、八畳ほどの部屋があった。
アベーノが松明の火で燭台に明かりをつける。
正面にぼんやりと掛け軸が浮かんだ。
「昔の字だね……」
「国語の教科書に載ってた」
ひそひそと柚月と言葉を交わす。
「せ、を、は、やま~」
え?
「い~わにせ、か~るる」
そのイントネーションの悪さに私の眉がぴくりと動いた。
「た、きが、わぁの」
ヨシーノがつっかえながらも簾の外から読み上げる。
「これって?」
「百人一首?」
私はあの名作アニメ「ちはや」を何度も見返していた。
イライラする。
リズムが違う。
句切れが悪い。
百人一首オタクの私の血が騒ぐ。
訂正したい。
喉元まで出かかった正しいリズムを、抑えきれない。
「……岩にせかるる 滝川のぉ」
私は無意識に、途中から口ずさんでいた。
「われても末に あはむとぞ思ふ~」
気づくと、その場が静まり返っていた。
アベーノとヨシーノが雷に打たれたように硬直している。
「あ……」
やっちゃった、と思ったがもう遅かった。
「お、おおお……!!」
アベーノが膝から崩れ落ちるように平伏した。
その時、ほんの一瞬、かすかに気がつく程度に、掛け軸が光ったような気がした。
『本物だ……』
『完全なる詠唱!!』
カモーノ家の、モノノフからも感嘆の声が上がった。
「かつて、この地に、降臨したまい、御神の、残した歌で、ごじゃります」
ヨシーノが感極まったようにそう話し、簾の外で三人に平伏した。
「ちょ、ちょっとヨシーノさん、やめてよ……」
「我ら、アベーノ家と、カモーノ家が、この御社にて、神の御降臨を、幾星霜、待ち侍りし、そふらふ……」
アベーノの目に涙が滲む。
平伏したまま顔を上げた。
カモーノ家の、モノノフも同じく平伏している。
「どう、なってるの?」
「まじやばえええ!!」
アベーノが叫び、一同が唱和した。
『マジヤヴァエエエィ!!』
その叫びは熱を帯び、崇拝の響きに変わった。
ダース仮面の下で、強張る顔が引きつっていくのが分かった。
——終わった。完全に終わった。
トンネルに入ったことを猛烈に後悔した。
——詰んだ。
テストも詰んだけど、異世界でも詰んだ。
肩に食い込む鞄の重さだけが、遠のいていく日常との唯一の繋がりだった。
もう毎日、補習でもいいから、日本に帰りたい!




