3話 スザクと神託
動画タイトル:『地図にないトンネル④』(9:34)
再生回数:1,281,005回視聴 2週間前 1,643件のコメント
@bandana_hoso_mattyo 14日前
1:22のとこ、コンクリじゃない。
なんか字が書いてある?
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@hanepi_dm11 20時間前
@bandana_hoso_mattyo 拡大してみた。くずし字?赤い字でなんか書いてある。
@bandana_hoso_mattyo
百人一首だね。瀬をはやみ、ってやつ
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@pepe_chan 14日前
この動画、やばい。いろんなもんがうつってる……gkbr……
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@puriuri_punipuni_uni 14日前
ここは現世と過去をつなぐトンネル
かつての怨霊が立ち込める地図にはない坑道……
そこには、
……
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@taki_hubin_sugi 7日前
逃げてえ!!
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@daily_news_v
14日前はよ続き。
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***
『こちらにおわします御三方は、まことある慈しみの心でもって、この地を繁栄させると申しておる!』
老人が早口の巻き舌で興奮しながら絶叫した。
『マジヤバええ!!』
煉瓦作りの薄暗い通路に、男たちの野太い巻き舌の声が響き渡った。
老人が杖を高く掲げ、叫んだ。
「マジヤバヱィィ!!」
男たちの目も血走っている。狂信者の目だった。
後ろで日向が小刻みに震えているのが分かった。
意味が分からない。
嫌な汗が背中を伝った。
——でも…… 殺される雰囲気じゃなくなってる……?
そう思った瞬間、張り詰めていた糸がぷつんと切れた。
さっきまで、極限の緊張と恐怖の連続だった。
冷静になってみると、このシュールすぎる展開に、頬が自然とぴくついてくる。
——笑っちゃダメ。笑ったらダメだ……、でも……
そっと日向を振り返る。
『マジャヴァー!!』
その大柄の鎖帷子の男の叫び声が最後の一押しとなった。
「ぷっ!」
次の瞬間、日向が吹き出した。
「あーっはっはっはっ!」
「ひゃーっひゃっひゃっ!」
「まじゃばーって!!」
堪えきれなかった。
柚月も耐え切れずに笑い出す。
一度決壊したダムは止まらない。
「マジやばいって! まじゃば…… ぷぷ」
その笑い声に、その場が静まり返った。
「なあに? なんの冗談?」
日向がケロッパを揺らす。
「視聴者さん? ドッキリ?」
「……違うと思う」
私は首を振った。
「お嗤いに…… なれり……」
老人の目が見開かれた。
「ガチのやつ?」
「ガチっぽい」
小声でささやき合う。
「……しっ!」
私は二人を制した。
ゆっくりと振り向き、老人の反応を見る。
「我らの祈りを…… 嗤いに変えて、受け入れ給うた……!」
——あ、これまた誤解された。
私はハッと我に返った。
笑ってる場合じゃない。
——早く帰って、追試の勉強しないと……
その時、通路の奥から低い唸り声が響いた。
「グルルル……」
空気が凍りつく。
——なんか来た!
老人が血相を変えて叫んだ。
『ものども! 神獣じゃ! 傷をつけてはならぬ!』
老人が現地語で叫ぶと、男たちが一歩退いた。
その中を、黒い影がよぎった。
「なに? なんか来るよ……」
柚月が持っていたライトを照らす。
「おお…… 神の獣の……
まさか、お召し寄せ給ひしにや……?」
「ハスキーじゃん」
柚月が声を上げた。
松明の明かりに照らされて寄ってきたのは、ガリガリに痩せたシベリアンハスキーだった。柚月のライトが赤い首輪についたリングに、キラリと反射した。
「あっ! うちのイタグレのオヤツ持ってる!」
柚月は背負っていたリュックを下ろして中を探り出した。
柚月ご自慢のイタリアングレーハウンドのジョジョくんだ。
スマホの待ち受けにもなっている。
この状況でも、マイペースなのが柚月なのだ。
「うちの空常承太郎に買ってきたんだけど……」
——こんな時でも、犬優先なんだ……
「いつも、オラついてるから、切らすなって、お父さんが……」
ビーフジャーキーの袋を開けるとシベリアンハスキーが力なく近寄ってくる。
警戒は解かないまま歯を剥き出し、唸り声を上げた。
鎖帷子がびくっとして後ずさった。
「可哀想に、こんなに痩せちゃって……」
柚月は悲しそうな顔をして手を出した。
「いい子だね、お食べ」
ジャーキーを差し出す。
「グルル……」
「ほら、怖くない」
ハスキーは能面を見上げて警戒していたようだが、ジャーキーをひったくるようにして噛みついた。
「お腹空いてたんだね……」
ハスキーはガツガツと貪り食った。
柚月はもう一本ジャーキーを取り出す。
ハスキーは期待した目で、柚月を見上げた。
「まだ、だめ! ステイ!」
柚月が手のひらを見せると、ハスキーは腹ばいになった。
「いい子だね」
そう声を掛けると、ハスキーは柚月の手のジャーキーを舐めた。
「よし!」
柚月はジャーキーを食べるハスキーの頭を、撫で回した。
その光景を見て、周囲がざわめいた。
『おおお!! 誰にも懐かなかった神獣が!! 一言で封じるとは!!』
鎖帷子の人々から興奮した言葉が飛び交った。
「おお……神獣を、手懐づけ給ひぬ……」
——いや、ジャーキーで釣っただけだから……
私は頭が痛くなって来た。
「首輪に名前、書いてある」
柚月はハスキーの頭を撫でながら首輪にライトを当てた。
SUZAKU
「スザク…… きみはスザク君というのか……」
その柚月の言葉に、男たちの目が驚愕に見開かれた。
『スザク……』
『……スザク!!』
ざわめきが広がる。
どうやら「スザク」という言葉に聞き覚えがあるようだった。
『おお……! 古来より伝わる、スザクの名を言い当て、給うた!』
——いや、ローマ字で書いてあるだけです。
「これぞ奇跡! まさしく、まさしく神の御業なり!!」
『マジヤヴァエーーッ!!』
男たちのボルテージが最高潮に達した。
「おお……げに、神の遣わし給へる、神獣なれば……」
老人がガタガタと震え出し、その場に平伏した。
「数日前より、主を求めて、吠える神獣の声を、聞くたびに、もしや、もしやと……夜の門を、仰ぎ見ておりました」
「バウッ!」
「違う」というようにスザクが吠えた。
『皆のもの…… 御神託が下された。このお方たちは、まさしく神である!』
現地語で叫んだと思うと、私たちに振り返った。
厳かに語り出す。
「御方がた…… こちらへ、渡らせ、給え」
もうダメだ、私は首を振った。
完全に「神さまルート」に入ってしまった。
私たちは訳も分からず、熱狂する男たちに奥へと導かれていく。
ハスキーのスザクも柚月の後を追うようについて来た。
老人を先頭に、導かれるままそこを後にする。
私は現実逃避するように、ポケットの中のスマホを取り出した。
19:35 バッテリー52%
アンテナが一本だけ立っていた。
——え? 電波、つながってる?
私はスマホを握りしめ、立ち止まった。
ここは、異世界じゃないの?
もしかしたら、帰れる……?
ピロン……
厳かな空気の中、私のスマホが能天気な通知音を鳴らした。
全員の視線が私に集まる。
老人がごくりと喉を鳴らした。
「……まさしく、神の国からの、聖なる調べ…… 啓示にあらずんや……」
私は恐る恐る画面を見た。
『【Me Tube】あなたの動画が急上昇ランク1位になりました』
——今じゃない!!
私は心の中で絶叫し、そっとスマホをポケットに戻した。
これを「神託」だと勘違いされたら、もう後戻りできない気がしたからだ。




