2話 白い人と煉瓦作りの通路
動画タイトル:『地図にないトンネル⑤』(11:24)
再生回数:1,066,482回視聴 7日前 1,145件のコメント
@maru_sankaku_sikaku 7日前
35秒のとこ、イッヌ?狼?なにあれ……
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@jimnyo_shippu_roku
@maru_sankaku_sikaku 犬?の影がズレてる。はいAI。
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@pepe_chan 7日前
この子たち、いつか、なんかやらかす
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@puriuri_punipuni_uni 7日前
ここは現世と異世界とをつなぐトンネル
ある郊外都市に残された地図にない場所……
そこには、
……
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@daily_news_v 7日前
続きはよ
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***
手に持つフォースセイバーが重い気がする。
——こんな、ただのプラスチックの棒なのに……
松明を持つ人々の顔が、その炎で照らされる。
前後からジャラジャラと鎖帷子を鳴らしながら、六人の背の高い人たちに囲まれた。
もう一歩踏み出せば、その手に持つ長剣が届きそうだった。
「ひっ……」
私たちは煉瓦の壁際で硬直したまま固まった。
私の後ろで日向と柚月が震えている。
切っ先が、喉元に向けられた。
——死ぬ……
こんな、わけのわからない場所で。
みるからに怪しい格好をしているからだ。
『…r…rr! …r…r』
馴染みのない言語が、早口の巻き舌で話されているのが聞こえる。
柚月がLEDライトを向けると、数人がまぶしそうに顔を手で覆った。
その手には金具のついた、ごつい手袋をはめている。
——ガイジンだ……
「どうしよう、わたし英語わかんないよ……」
日向が困惑した声でつぶやいた。
——そこじゃない、と思う。
なんで日本のトンネルに、こんな金髪碧眼の人たちがいるの?
しかも、持ってるのって本物の剣……?
「フォースセイバーなんて、持ってるからだよ……」
柚月がひそひそと話しかけてくる。
——持ってきたのは、柚月でしょ……
ヴン…… 柚月にそう突っ込もうとして振り向くと、フォースセイバーが音を立てた。
鎖帷子が、その音を聞いて後ずさった。
剣はこちらに向けたまま。
——ロード・オブ・ザ・リンクで見たやつ……
「ヤバくない……?」
柚月が能面の下で現状を確認する。
「ヤバい…… けど……」
ケロッパの日向が意を決したようにうなずいた。
「ハロー!」
突然、日向が片手を上げて声をかけた。
『……!』
ざわりと私たちを取り囲む鎖帷子の空気が揺れた。
「アイアム・ア↓・ジョシコーセー↑」
日向が努めて明るく、変な抑揚で話しかけた。
「バカっ! ジョシコーセーじゃ、通じない!」
柚月がひそひそと突っ込むが、私はそれも違うと思った。
その言語は、洋画で聞いた英語の響きではなかった。
取り囲んだ白い服の人々がざわめく。
「お面、取った方がいいよ」
「あと、スマホの撮影もやめた方がいいかも……」
「……そうだね」
日向が震える手でスマホの電源を落として、リュックのポケットにしまった。
私がダース仮面のヘルメットに手をかけた時、一斉に剣の切っ先が私に向いた。
「取らない方がいいかも……」
日向が制止する。
私は鞄を抱きしめ、震えながらうなずいた。
『…rr…r! …r…!!』
男たちが一斉に何かを叫んだ。
鎖帷子の兵の包囲が近づいてくる。
剣が松明の明かりで光った。
「な、何、言ってるの?」
「どうなっちゃうの……」
——この人たち、ガチで殺しに来てる?
こんなところで死にたくない!
私の膝が震える。
そのとき——
こつこつと杖が石畳をつく音が響いた。
小さな影が伸びる。
暗がりから小柄な人影が現れた。
鎖帷子の人たちが、がちゃりと音を立ててかしこまり、剣を下ろした。
「……おお…… 何処より来ませるか」
低い、よく通る声だった。
「かくも夜の門を開き……境を踏み越え、影を従えし御方たちよ……」
その小柄な人影は髭を生やし、白い分厚いカーテンみたいな服を着ていた。
「は?」
「……なんか、日本語っぽくない?」
いや、イントネーションがおかしい。
まるで、古文の教科書を読んでいるときみたいに、聞いたことのない単語が混じる。
「……境を ……踏み越え?」
古風な日本語だった。
思わず、ぽつりと反復する。
「……おお…… まさしく…… 黒き御面、光を宿す御手……」
老人の目が、私のダース仮面と柚月のライトに釘つけになる。
「古き書に記されし、“門をひらくしるし”に似たり……」
白い服を着た老人は歌うように話し、目を閉じた。
「……?」
鎖帷子からざわめきが起こる。
「門を開く……? しるし……?」
その私の声に老人は目を見開いた。
「おお……八百余年…… 夜の門を越ゆる御影、来たらんと書に記されし……」
老人の目に涙が浮かんだ。
「……帰るには、どうしたらいいの」
ぽつりと日向が独り言のようにつぶやいたのを、老人は聞き逃さなかった。
「……かへる ……と ……?」
一筋の涙が光った。
「おお……”かへる”とは、ものを“あらたむ”る言の葉……」
「は?」
——帰るって、そういう意味じゃない……
老人は一人で納得したようにうなずいた。
「御方たち、この地を変え給わんと宣ひしや……」
——いや、そうは言ってない。絶対言ってない。
「マジ、ヤバい……」
柚月が青ざめて後ずさる。
「……マ、ジ?
……真、慈(ま、じ)弥、
……栄え」
老人は目を閉じた。
「お、お、ぉ……」
老人は震えながら、両膝をつく。
「真ことの、
慈しみを、
弥あまねく、
栄えさせん……と」
「……?」
時が、止まった。
——え? 今なんて?
意味が、まったく分からない。
なんで、泣いてるの?
老人の両の目から涙がこぼれ落ちた。
「声を荒げず、ただ見つめ給ふ……まこと、古き神々のふるまいなり……」
老人は、私たちを真っ直ぐな瞳で見つめた。
「この御方たち、名を告げず、位を誇らず、ただ、“真慈や栄え”と願ひ給ふ……」
違う、絶対に違う。
私たちはただ、現状がヤバいと言っただけ。
けれど、訂正を求める空気ではなかった。
「……」
私たちは顔を見合わせた。
何かを話したら、また何か誤解をされてしまいそうだった。
「言少なきは、高き御位のしるし……」
「違っ……」
私は日向を小突いた。
「されどそれは、この地を 改むる御心……」
老人は後ろを振り返った。
『剣を収めよ!』
老人が一喝する。
「これらは、夜の門より来ませる…… 高き御影にてましますぞ……」
現地語でも同じことを言ったらしい。
その言葉を聞くと、鎖帷子の人たちは剣を鞘に収め一斉に膝をついた。
「……」
「真慈や栄え!!」
老人が拳を上げて叫んだ。
『マジ…… ヤヴァェ!!』
鎖帷子の人たちも片膝をつき唱和する。
——空耳だけでここまで勘違いできる?
「マジヤバい……」
私たちは、そうつぶやかざるを得なかった。
——私たち、どうなっちゃうの……
早く帰らないと、追試の勉強ができない……
私は重たい鞄を抱きしめて、仮面の下で荒い呼吸音を繰り返していた。




