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神様やめたい ! 〜万バズから始まるJK三人組の異世界勘違い神話  作者: タキ マサト
第一章 村の守り神

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1話 万バズりと地図にないトンネル

【Me Tube】急上昇ランク #3


『地図にないトンネル ⑥』(11:22)

 ⚪︎HYC x 3jk 2.4万人加入

 再生回数: 948,902回視聴 20時間前 965件のコメント 


 @user_ghost_hunter 30秒前

 9:15のところ、よく見ると一瞬だけ白い人が映ってるんだが……((((;゜Д゜)))))))

 good  5 bad


 @tazaki_kobito_densetsu 1分前

 複数の解析アプリで検証した。合成・AIの確率は5%以下。マジで何かいる。

 good 32 bad  5件の返信↓


 @croquette_love 3分前

 能面とケロッパが並んで歩いてるのシュールすぎて草。でも空気感怖すぎ。

 good 64 bad


 @daily_news_v 5分前

 続きはよ。これガチならテレビ局動くレベルだろ。

 good 102 bad  2件の返信 ↓






   ***






 全教科追試。

 そんな絶望的な通知を受けたのは、私たち三人だけだった。


——小説家デビューする夏休みのはずだったんだけどな……


「人生、詰んだわ」

 夕方の倦怠(けだる)い校舎の廊下で、面談室から最初に出た日向は深いため息をついた。


「詰んだのは、点数」

 柚月が無造作に短い髪を触りながらスマホを取り出す。

 担当教師の叱責(しっせき)の言葉は、彼女にとってはどこ吹く風だった。


——両方、詰んでる……


「全科目、再追試なんてなったら、夏休みが補習づけ……」


 私は最悪な可能性の高い未来を予測してブルーになる。


「ちょっと、千尋! そんな不吉なこと言わない!」

 日向がペシっと私のお尻を叩いてくる。 

 私の成績はこの二人と違って、中の上くらいだったはずなのに。


——「はず」だった。


「……あ。また、バズってる」

 柚月がスマホの画面を二人に見せた。


「マジか! また万バズ……」


 これが、私たちが全教科追試になった理由だった。


 ミーチューブに三人で上げた短い動画。


 コメントの通知が、今もスマホを震わせ続けている。


 この三人で動画を撮ると、編集もしていないのに必ず「何か」が映り込む。

 いたるところに映り込む何かが、再生回数を爆発させていた。


「今日も日向のうちで、勉強会するでしょ?」

「週明けだからね、追試……」

「千尋! 勉強教えて!」


 日向に笑顔でそう言われて、断れるはずがなかった。


「しょうがないな……」

「千尋、マジ神!」

「やめて! そういうの。神様の安売りだよ」


 私たちが夕方の校門を並んで出た時に、日向が突然立ち止まって言った。


「今日もさ、勉強会の前にちょっと撮ってこようよ」


 日向が言い出すと、それはもう決定事項だった。


「コンビニでおやつ買っていくよ」

 柚月も同意する。


「もう、やめようよ」

 私の健気な抵抗はスルーされた。


 夕暮れ時、私は渋々勉強道具を鞄に詰め込み、あの場所で二人と落ち合った。


 結局、一人きりのあの広い家にいるのが寂しくて、嫌でたまらないのだ。

 父のいない家は、夜になるとひどく静かだった。

 

 場所は、廃墟旅館の裏手の山にある暗いトンネル。


 坂道を登って、自転車を停める。

 すでに汗だくで、息も絶え絶えだった。


 地図アプリには載っていないけれど、廃旅館の細い路地を抜けると現れる。

 通行禁止の看板もない。


 どこに抜けるのか、誰も知らない。

 日が暮れてからは、一度も来たことはなかった。


 廃れた旅館の横からは、遠くの街の明かりがキラキラと光って見えた。

 裏手には、無人の工場の跡地が不気味な影になっていた。 


「千尋! そのブラウス真面目すぎ!」

 日向が私の格好を見て笑った。


「だって、身バレしたくないし……」


 私は紺色のキュロットとブラウスを見下ろした。


「私はこれ!」

 日向はド派手なTシャツにハーフパンツ。


「目立ちすぎでしょ……」

「ケロッパ被れば、へーきへーき」


 柚月はいつも通り黒のスキニーに薄手のパーカー。


「動きやすさ重視」


 柚月はリュックから、能面を取り出した。


「やっぱ、帰ろうよ」

 その路地に入る時、あまりの不気味さに私は怖気(おじけ)づいた。


 だけど、二人は収益の額と増え続ける登録者の数に夢中だった。


「ねぇ、待って!」

 二人はどんどん先に行く。


「ウケる!」

 トンネルの前で、日向は柚月の持ってきた衣装を見て、手を叩いて喜んでいた。


「兄貴から、借りてきた」

「これ、銀河帝国のやつでしょ?」

「フォースセイバーもある」


 ブォン…… と光る棒が音を立てた。

 ボタンを押すと「コー、ホー……」と不気味な呼吸音が鳴る胸当てと、黒いマントもセットだった。


「じゃ、これ千尋が被ろう」


——いつもの能面で良かったのに……


 視界が狭く、そして暑い。

 日向は青色のケロッパのお面を被り、柚月は能面を顔に付けた。


「じゃあ、いくよ」


 日向が声をかけてスマホの録画ボタンを押した。

 トンネル内は暗く、電灯は取り外され、錆びた配線が剥き出しになっていた。


「えー、今日はもっと奥まで行ってみようと思います。 ……ダース仮面、早くきて」

 私はため息をついて、胸のボタンを押した。


「コー、ホー……」

 フォースセイバーのスイッチを入れる。


「明かりにちょうどいいね……」


 フォースセイバーを持つ私が、なぜか先頭に立たされる。


——こんなおもちゃの剣なんて、なんの役にも立たないのに……


 その後ろから柚月がLEDライトで足元を照らし、最後にスマホを持つ日向が続いた。


「怖いよ、もう戻ろうよ」

「あと少しでこの前のところまで行くから、頑張れ」


 トンネルは湿度が高かった。どこからか水が滴る音がする。

 まとったマントが蒸し暑い。

 吹き出した汗がシャツにじっとりと貼り付いた。

 

「今、なんか映った! 白い人影!」

 スマホの画面を覗く日向が興奮した声を上げた。


「帰ろうよ!」

 私はもう我慢が出来なかった。


「小説家になるんでしょ? 何事も経験だよ」

 柚月が背中に手を当てて押してくる。


「ほら、あそこ。前にきたとこ」

 柚月がライトを向ける先には、割れた三角コーンが転がっていた。


 まるでここから先は、進んではならぬ、という何かの警告に思えた。

 足が(すく)んだ。

 手に持つフォースセイバーが震える。


 三角コーンを通り過ぎた。

 もう、車の音も何も聞こえない。

 ただ、私たちの息遣いと足音だけ。


 汗が急激に冷えていく。


 静かすぎる。


 私はごくりと唾を飲み込んだ。


——何か鳴らそう。


 胸元のボタンを押してみる。


 デーンデーンデーンデデ、デーデデデー


「きゃっ!」

「アハッ!」

「ウケる。何ならしてんの!」


 柚月と日向は噴き出した。


 プシュー…… フシュー……


 慌てて別のボタンを押すと、不気味な呼吸音が響いた。


「あーっはっはっはっは!!」

「ひゃーっひゃっひゃっ!!」


 日向がこらえきれずに笑い出し、柚月の独特な引き笑いがトンネルに響いた。


「あーおかしい! って、あれ? ここどこ?」


 真顔になった日向が辺りを見回す。


「あれ?」


 柚月がライトを向ける。

 照らし出されたのは、さっきまでの汚いコンクリートではなかった。


「なんで、レンガになってるの?」


 古びた、黒ずんだレンガ。

 そして肌を刺すような冷気。


 さっきまでの湿気った日本の夏の空気じゃない。

 もっと乾いていて、それでいて日本の冬でもない。


 古い地下の澱んだ空気。カビ臭さに、鉄錆の臭いが混じった。


 先週、来た時はずっとコンクリートだったはず。


——先週? あれ、いつだったっけ? 覚えてない……


 この場所に来るたび、記憶が曖昧になる気がする。


 頭がぼんやりとしてくる。


 思い出そうとすると頭に軽い痛みが走った。


——そもそも、このトンネルって誰が見つけたんだっけ? 思い出せない。

 なぜか、思い出せない。


「ちょっと、あれ何? 松明?」


 前方の闇に、ゆらりと赤い火が灯った。


 一つ、二つ、三つ……


 私は思わず鞄を取り落としそうになる。


 ヴオン…… 私が振り返るとフォースセイバーが間抜けな起動音を立てた。


「後ろからも、来るよ!」


 ケロッパのお面の下で日向の声が震えた。

 いつもの軽いノリは消えている。

 本当に怖がっている声だ。


 前後から松明の明かりが近寄って来る。

 複数の足音とガチャガチャした金属音が響いた。


「後ろからって、なんで……?」

 振り返った先、私たちが通ってきたはずの道は消えていた。


 あるのは、どこまでも続く暗いレンガの回廊だけ。

——やっぱり、帰れば良かった……


 私がこんなことに巻き込まれるなんて。


 松明の明かりが近づいてくる。


 何かを唱えているような声も聞こえてきた。


「な、なに?」

「誰?」


——私はただのモブ……


 チェンソーの悪魔のバトルに巻き込まれて、一番最初に死んじゃう一般市民だ、私は。


 この時は、そう思っていた。


 しかし。


 松明に照らされて、長い刃物がキラリと光った。


 私は震える手でフォースセイバーを握りしめた。

 

——このとき、このトンネルに入らなければ……


 私たちが、あっちの世界の「神様」として崇められることになるなんて。


 しかも、こんなふざけた格好のままで。


 そんなバカげた神話の始まりを、誰が想像できただろう。





読んでくれてありがとうございます!

このお話は、毎朝6時に更新していく予定です。

通学・通勤前のひとときや、寝る前のリラックスタイムにでも、

気軽に読んでもらえたら嬉しいです。

よかったらブックマークして、また遊びに来てね!

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