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神様やめたい ! 〜万バズから始まるJK三人組の異世界勘違い神話  作者: タキ マサト
第九章 神、還る

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75話 扉

 

「勾玉……多分、嵌める順序があるはず……」


 窪みは横一列より、少しはみ出して彫られていた。


「トンナンシャーペー?」

「そうだと思う……」


 柚月が家族麻雀で仕入れてきた言葉を使う。


「東だったら、青竜……」


 私は日向を見た。

 日向はうなずいた。


「嵌めてもいい……?」

「嵌めなきゃ、始まらない」


 柚月が言う。

 能面の下で表情は読めないが、反対していた柚月も諦めたようだった。


 ここに来るまで強制転移はなかった。

 強制転移をされたら、スミレとはさようならだった。


 でも、あの時とは状況は異なる。


 ひとつに、今は三種の神器がある。

 もうひとつは、今は電波を探していない。


「日向、嵌めてみて……」


 日向は勾玉を、落とさないように窪みに押し付けた。


「わっ! 吸い込まれた……磁石みたい……」


 勾玉は窪みにぴたりと嵌まった。

 日向はほっとしたような顔をした。

 

「呪いの影響はない?」

「分からない。……だるいのは同じ」

「次は、マカーベだけど……」


 柚月がちらっとマカーベを振り向いた。


「先に、柚月が行って」


 もしマカーベの勾玉がスザクのものでなかったら……

 結局、マカーベの勾玉について聞く機会はなかった。


「ほんとだ。吸い込まれた……」

「でしょ?」

「じゃ、私……」


 私はお守りから勾玉を取り出した。

 熱はないが、怪しく光っている。


「お願い……」


 ゲンブの勾玉は、窪みに吸い込まれてぴたっと嵌まった。


「最後……マカーベくん」

「……俺は」


 マカーベは躊躇した。

 最後の勾玉を嵌めたら、何が起きるか分からない。

 ひょっとしたら、とんでもないことになるかも……


「もし、違ってたら、嵌まらないと思う」


 もし嵌まらなかったら?

 そうしたら、スザクの神殿に行って取ってこないといけない。


——そっか、アベーノに聞いておけば良かった。


 本当にスザクの神殿に勾玉はあるの?


 後悔、先に立たず。


 どうする?


 戻る?


 振り向いた私にみんなの視線が刺さった。


「違ってたら、どうするの?」


 スミレが腕を組んだ。


「アベーノさん。スザクの神殿の祭壇に勾玉はある?」


 セイリューの神殿で八咫鏡があったあのピラミッドの祭壇。

 そこにある?

 もう、聞いてみるしかない。

 しかし、アベーノは片膝をついたまま首を振った。


「あの祭壇の扉は開きませぬ。代々『開けるな』と言われているものゆえ……」

「……!」


 誰かの息を呑む音が響いた。


「開けるな?!」


 扉を開けるな。


 夢の中での父の言葉……

 記憶の底……でも、あのときはあの扉を開けて外に出たはず。


「千尋……? どうするの?」


 ここまで来て引き返せない。


——開けるな……


 開けるんじゃない。


 帰る。


「マカーベくん、お願い!!」


 マカーベは首を縦に振って、懐から勾玉を引っ張り出した。

 視界の端で、ミヤビの目が見開いたのが見えた。


 マカーベは勾玉を窪みに嵌めた。


「……は、嵌まった?」

「バウバウバウ!!」

「スザク……?」


 そのとき、スザクが狂ったように吠え出した。

 スザクの首輪のGPSリングから赤い光があふれた。

 その光はマカーベの勾玉に吸い込まれていく。


 そして残りの全ての勾玉が光った。

 二つの石棺の上にある勾玉も一瞬だけ輝いた。


「きゃ……」

「なに……」

「え……」

「わ」


 次の瞬間、視界が黒く塗りつぶされた。

 一人、暗闇の中に立っている。


 目の前に光り輝く巨大な扉が見えた。


「……とびら?」


 声に出したはずなのに、その言葉は自分の耳に届かなかった。

 

「マカーベくん!! ……カイくんッ!!」


 叫び声すら、聞こえない。


——な、なに、あれ……


 扉についている巨大な前方後円墳。

 

 いや、違う。


 あれは鍵穴……


——開けるな……って、あれのこと?


 考えると、頭にずきんと痛みが走った。


 扉についている前方後円墳が光った。

 同時に扉が開いていく。


 光が隙間から漏れ出す。


 その光はこの場にいる全員を照らし出した。

 皆、光を受けて、なすすべもなく立っていた。


「日向ッ! 柚月ッ!」


 二人は呆然としていた。

 振り向く。


「マカーベくん……」


 マカーベも前方に釘付けになっていた。


「お、お、お、原初の神……」


 タイラーがつぶやいた。


「千尋……あれは、なに?」


 日向がその細くなった手で指差した。


「あ、あ、あれは……」


 扉が全て開いた。

 光の中から巨大な生き物が姿を現した。


「まさか……」


 光り輝くタテガミ。

 凶暴そうな牙。

 知的な瞳。

 

「マジ、やばい……」


 神々しいまでの圧倒的存在感だった。


「あれは、なに?」


 日向の声が震えた。


「あれは、麒麟……!」

「は?」

「キリン?」

「きりんて、……麒麟自動車の?」


 世界有数の自動車メーカーのエンブレム。

 その麒麟の周りに四神が飛び交った。


「玄武様!」

「ビャッキーも!」

「セーリュー!」

「……ザッキーは?」


 神獣朱雀の姿は小さかった。

 その炎はやがて、かき消されるように薄れていく。


「朱雀の本尊がおらぬ?!」


 モノノーベが叫んだ。


「やはり、三女神は偽神だったか!!」


 その言葉に呼応するように麒麟の姿が崩れていく。

 光が崩れ、麒麟の輪郭が歪む。

 その姿が裂けていく。


「……我を……呼び覚まし……」


 低い声が、空間に滲んだ。


「……足りぬ」


 四神が、一斉に退いた。


 青竜が苦しげにうねる。

 白虎の姿が揺らぐ。

 玄武が潰されていく。

 朱雀の炎は、消えた。


「きゃあああぁぁああ!!」


 日向が耳を押さえてしゃがみ込んだ。


「日向っ!?」

「どうした?!」


 日向の体から黒い影が湧き上がる。

 そしてその影は麒麟だったものに吸収されていく。


「日向っ! 日向っ!」

「やばい……」


 日向は目を閉じ、ぐったりと座り込んだ。

 真っ青な顔で荒い呼吸を繰り返していた。


「これは……神じゃない……」


 タイラーがつぶやいた。


「神になり損ねたもの……」


 光の中心で、人を形づくる。


 それは、子どもの姿だった。


 そして、その瞳には、何もなかった。


「……空っぽ」


 私はごくりと唾を飲み込んだ。


 そして、それが顔を上げた。


「器」


 その言葉だけが、暗闇に落ちた。

 そしてその指が、日向を指した。


「アントーク?」

「なんで!?」

「もう! いやッ!!」


——なんで? なんで!? なんでーッ!!!


 私は頭を抱えて膝から崩れ落ちた。


「神様ーッ!!」


 私は叫んだ。


「いるんでしょっ! 神様! いるなら神様! 助けてよッ!!」


 その声は、どこにも届かなかった。


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