表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様やめたい ! 〜万バズから始まるJK三人組の異世界勘違い神話  作者: タキ マサト
第九章 神、還る

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

76/84

74話 奉納


「あ、マガタマ、落としちゃった……お父さん……」


 発掘現場は山の上だった。

 私は父に背負われて山道を降りていく途中だった。


——懐かしい……これは夢?


 でも、記憶の底をたどっても記憶はぼんやりとしている。


「ねえ? お父さん、ベッコウのマガタマ……」

「あの斜面に落ちたな……」


 父は私を背負ったまま緩やかな斜面に分け入った。

 父の両足が、がさりと枯葉を踏み締めたとき、地面が消えた。

 ふっと落下する感覚。


「きゃあッ!」


 私は父とともに、暗闇の中に落ちていく。

 どすんと土の上に落ちる音が響いた。


「うわあああああん!! こわいー!!」

 私は泣き叫んだ。

「千尋! 大丈夫か? 痛いところはないか?」

「……うわあああん、ひっくひっく」

「どこか、ぶつけたか?」

「……だ、だいじょうぶ。ひっくひっく、……マガタマは?」

「これじゃ、探せないな……」


 私は父の背中に馬乗りになっていた。

 父はうつ伏せに倒れていたが、その下は柔らかい土と湿った枯れ葉だった。


 土の匂いとカビ臭さが漂う。

 父は胸ポケットからジッポーライターを取り出した。


 かしゃん、ちゃ、しゅぽ……


 私はタバコの匂いは嫌いだったけど、ジッポーライターの音と匂いは好きだった。

 ジッポーライターの明かりが空間を照らす。


「通風口の網が脆くなってたんだな……」


 父が独りごちて、足元の堆積した土を蹴った。


「……ここ、どこなの? こわいよ……」

「おそらく、旧日本軍のなにかの施設か、防空壕かな?」


 見上げるとうっすらと木々が見えた。

 大人一人が通れそうな縦穴が開いていた。

 とても登れそうになかった。

 剥き出しの汚れたコンクリートの壁がライターの火に照らされた。


「扉があるな……」


 父はライターの光を向けた。


「とびら……? って、あの扉?!」


 私は目を見開いた。


「あれは、開けるな……」

「開けるな?」





  ・・・





「開けるな……?」

  

 目が覚めたとき、まだ薄暗かった。

 すでに日向と柚月は起きていた。


——開けるなって、何を?


「なに? また夢?」

「うん……なんの夢だったか忘れちゃった……」


 起きる前まで、覚えてたのに。

 なにかずっと忘れていたこと。


 頭を振って起き上がる。

 

「おはよう……」

「いよいよ、だね……」

「わんわん!」

「日向……大丈夫?」

「ヤバいかも……昨日より、悪くなってる……」


 日向の顔色は昨日よりさらに青白くなっていた。


「なんか、神廟に近づいたからかな……もう時間ないかも……」

「大丈夫。絶対に呪いを解くから」


 私は枕元を見る。

 畳んだキュロットスカートとブラウスを手に取った。


「すごい……綺麗になってる……」


 巫女の衣装を脱いで、洗濯してくれたブラウスに袖を通す。

 傷だらけのダース仮面を手に取る。


 デュラハンに斬られた跡、石畳に落とした時のひび割れ。

 長かったような短かったような。


——よく死なずに、ここまで来れた……


 朝の支度を済ませると、盲目の巫女が呼びにきた。

 味はほとんど、覚えていない。

 朝食の席でスミレは言った。


「ごめんなさいね……」


 スミレは眉を曇らせた。


「マカーベくんは来るけど、大巫女もモノノーベもアベーノもタイラーも来るって……」

「ミヤビさんも?」

「タイラーも?」

「三人しかいない上神官だからね」


 スミレはため息をついた。


「日の出とともに、出発」


 スミレは腕時計をチラリと見た。


「あと三十分しかない。朝ごはんを済ませましょう」

 言っている間にも盲目の巫女たちが食事を並べていく。

「本当に見えないの?」

「目を閉じてて、よく分かるね」

「宮殿の部屋と同じ間取りにしてるから……」


 私たちは無言で朝食を食べる。

 誰もが緊張していた。


「そろそろね」


 食後のお茶を飲み干して、スミレはガスマスクを手に取った。


 ずっと旅を共にしてきた鞄を肩にかける。

 ずっしりと重く、汚れている。

 中の教科書も水に濡れて縮れていた。

 

「みんなも仮面つけてね」


 スミレは手を叩き、現地語で盲目の巫女に何かを伝えた。


「行きましょう」


 私たちはうなずいて、仮面をつけた。


「御主女神さまがた……御儀式の御用意が整いまして、そふらふ……」


 アベーノが入り口の外から声をかけた。

 

「ごくろう。アベーノ上神官」


 スミレが声をかけると、盲目の巫女たちが簾を上げた。

 朝の空気の中、大天幕の中は熱気に包まれていた。

 目の前に神官、モノノフ、ビャッコの巫女が数百人、平伏していた。


「フォーゲルもいる……」


 日向がつぶやいた。


——マカーベくん……


 マカーベはフォーゲルの後ろでひれ伏していた。


「皆の者。私たち四女神は、これより神廟にて、三種の神器の奉納を執り行う」

 スミレが朗々とした声で言った。


「はあーっ!!」


 私たちは駕籠に乗せられる。

 スザクは柚月と同じ駕籠に乗った。

 後ろを振り向くとアベーノたち神官も駕籠に乗って続く。


 先頭にミヤビとマカーベ、周囲に巫女とモノノフが護衛につく。


 大天幕の外もモノノフたちが平伏していた。

 その中の花道を駕籠は行く。


 物音一つしない中、神廟の入り口に駕籠はつく。

 誰一人、顔を上げようとしなかった。

 簾を上げる音さえ響く中、私はそろりと駕籠を降りた。


「四女神さま……」


 ミヤビが片膝をついた。


「ここからは我らビャッコの民とスザクの神官でお供いたしまする」

「せ、青竜の女神さま……」


 タイラーが駕籠から降りてきて額を地面に擦り付けた。


「どうか、どうか……アントーク御神の魂をお鎮めくだされ……」

「タイラー……」


 日向のケロッパの青い仮面の下の顔色は読み取れなかったが、黄色のTシャツとショートパンツから伸びる手足は見るからに痩せていた。

 

 神廟の入り口は綺麗に掃き清められ、香の匂いが漂っている。

 石材も磨いたのだろう、一ヶ月前に嗅いだ獣の臭さは一切なかった。


 私は深呼吸を一つした。


「みなさん。玄室では、私たちとマカーベ五人で入ります」


 私は最後の抵抗を試みた。


「この度の勾玉の奉納には、マカーベの持つ勾玉が必要になります」


 私は仮面越しのマカーベを見つめた。

 アベーノの眉がわずかに上がる。

 ミヤビの目が薄く細くなった。


「お言葉ですが、アントーク御神の呪いがある以上……またヒュドラのような異形が出ないとも限りませぬ……」


 ミヤビがちらりとマカーベを見た。


「護衛はマカーベだけだと厳しいかと……」

「恐れながら、申し上げそふらふ……八咫鏡は重うございまする……」


 アベーノが額を擦り付ける。

 

「是非ともこのアベーノに八咫鏡を持ち運ぶお役目をば……」

「……アベーノ」

「このモノノーベ。大世界神さまがたの御偉業を未来永劫に記録する役目がありますれば……」

 

「……」


 私たちは、黙り込んだ。


 それぞれ言うことに説得力があった。


——スミレさん、断って! お願い。


 しかしスミレは無言だった。

 私の祈りは通じない。

 ガスマスクの中の表情は窺い知れなかった。


 私はため息をついた。

 言い出しっぺは私だ。


 もう仕方がない。


「わかりました。アベーノさん、八咫鏡を頼みます。ミヤビさんも護衛をお願いします」


 マカーベが松明に火をともした。

 柚月がLEDライトを手に取る。


 マカーベとミヤビを先頭に神廟の中に足を踏み入れた。

 階段を降りていく。

 石造りの通路も掃除されていた。

 マカーベは、通路に設置された松明に火を移していく。

 ミヤビが薙刀を握りしめた。


 後ろから神官たちが続く。

 タイラーも杖をつき、おぼつかない足取りで追ってくる。


 掃き清められ、香が焚かれている。


——お願い、ここで勾玉、光らないで。


 私は、胸元のお守りの中の勾玉を握りしめた。


 まだ冷たいまま。

 やがて、玄室の扉につく。


 玄室も清められていた。


 ここでも松明に火を移すと玄室がオレンジ色に照らされた。

 二つの石棺の上にある大きな勾玉が、松明の火を反射した。


 その二つの石棺の間の壁。


 そこに勾玉を嵌める窪みがある。


「御主神女神さまがた……」


 アベーノが布に包まれた八咫鏡を取り出した。


「これって……?」


 私は窪みの下に別の窪みがあることに気がついた。

 二つ並んで凹凸があった。


「ここに鏡を嵌める。この出っ張りに草薙剣をかけるんじゃない……?」

「……そうだね」


 日向がごくりと唾を飲み、草薙剣のベルトを外した。


 奉納すると、何が起きるのか……皆固唾を呑んだ。


「じゃ、まずは鏡と剣から……」


 アベーノが鏡を嵌め、日向が剣を吊るした。

 

「……」

「日向……? 体に変化は?」

「何も、変わらない」


 日向は首を振った。

 玄室の様子も何も変わったことはなかった。


「じゃ、勾玉だね……」


 これを嵌めれば、何かが起こる。

 日本に帰れるのか、それとも何か別の恐ろしい事態を引き起こすのか。


 震える指先で、私はお守りを取り出した。


 そのとき、お守りの中の勾玉がかすかに脈打った。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ