表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様やめたい ! 〜万バズから始まるJK三人組の異世界勘違い神話  作者: タキ マサト
第八章 世界統一神、爆誕

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

70/84

68話 二体の神

 

「船はこの先にある」


 水が引いた水路は、小川になっていた。

 とても、船は入ってこられない。

 両側は水に削られ、谷を成している。


「あやうく、船が流されるところだった……」

 ナガノが低く息を吐いた。


「どのくらい歩くの?」

「三十分だ」


 ナガノは腕時計を見た。


「お腹すいた」

「でも、船で食べたい」


 日向が言い出して、柚月がため息をついた。


「早く着替えもしたいし……」

「うん、早く帰ろう」


 巫女の衣装は、まだ冷たい水を吸って肌に張りついていた。


「……ところで、現地民だな?」


 ナガノの視線が鋭くなる。

 その視線に老人が居心地悪げにうつむいた。


「ナガノ殿……この者らは、二十年前の親征の折の被害者にございます」


 ミヤビが静かに補足する。


「神の祟りを鎮めるため、日々石碑に祈りを捧げていたと……」

「……昨日、オロチを起こしたのは、あいつらではないのか?」


 空気が一瞬で冷えた。

 昨日の朝、ヒュドラに襲われた原因?

 そういえば、あの場所ではオロチは出ないと言ってた。


『四神の女神さまとは露知らず、ご無礼を……』


 老人は深く頭を垂れた。

 だが、その目の奥は暗く沈んでいる。


「ね、もういいから、早く帰ろ」

「聞きたいことがある。船まで来てくれないか?」


 ナガノは譲らない。


『すべて、お話しいたしましょう……』


 老人はうなずいて、日向を意味ありげに見た。


「な、なに?」


 私もピンときた。


「日向? 草薙剣に変わったことない?」

「……疲れてるせいと、思ったけど、どんどん重くなってる気がする……」

「やっぱり……」

「なに、また、呪われたの? この剣? あいつに?」


 私は首を振った。

 まだ憶測。

 思い過ごしならいいけど……

 

「分からない……でも」


 胸の奥がざわつく。


「スガワーラさんに聞くしかない」

「行くぞ」


 ナガノが声をかけた。

 スガワーラ一族は老人と若者を残して、その場で別れた。


 タイラーと老人がなにやら話をしている。

 濡れた岩と石、泥だらけの川の跡を歩いていく。


「靴が泥まみれ……」

「いや、もう、足の指ふやけてるから……」

「疲れた……お腹すいた……」


 私たちの足取りは重い。


「ミヤビさん。何を話しているの?」

「スガワーラ一族は、昔この地に追放されてきた者どもの様子」

「追放?」

「そう……ストーク御神の時代。アントーク御神が降臨された……のでございます」


 タイラーが口をはさんだ。


「同じ時代に、神が二人?!」


 アントークが邪神化した理由……って?

 唯一の正当なる神って言ってた……


 神争いをして、負けた……?


 二人の神が同じ時代に、同じ世界に……

 それは、今の私たちと同じ状況……?


「そう。スガワーラ一族は、スザクを裏切り、アントーク御神につきまして、ございます」

「なんで?」

「八咫鏡を守護する一族のゆえでございます……」

「八咫鏡……安徳天皇は、壇ノ浦で八咫鏡と一緒に沈んだ」

「神の国のことは、分かりませぬ」


 私は『平家物語』で幼帝が平家の船で、海に沈んだことを思い出した。


「最後、アントーク御神が、八咫鏡に吸い込まれたけど、それで鏡が呪われるってことはない?」


 私はそれが気になった。


「私たちが、御霊を鎮めたって言ってたけど、怨念は強かった……」


 まだ、終わってない……

 アントークの最後の声……


 間違ってまた八咫鏡に吸い込まれたら、アントークと対決することになる?

 八咫鏡は布に包まれてミヤビが懐に入れていた。


 あの神殿に放置しては、とても帰れなかった。

 タイラーは首を振った。


「スガワーラは申しております。セイリュー神殿がまた元の姿を取り戻したのは、呪いが解けたからだと……今、鏡はアントーク御神の御霊を鎮めておりましょう」

「そっか……」


 その解釈に辻褄は合うけど、なんか釈然としなかった。


「……八咫鏡って、アントーク御神と一緒にきたんじゃないの?」


 壇ノ浦で一緒に沈んだなら、一緒に転移している可能性がある。

 再び、タイラーは首を振った。


「八咫鏡は、アントーク御神以前より、セイリューに祀られておりました」

「この世界にも、もともと存在している……?」


 私は考え込んだ。

 無理にアントーク御神と八咫鏡を結びつけようとしてる?


「ねえ、追放って裏切ったから、追放されたんでしょ?」


 柚月が話を戻した。


「当たり前じゃないの?」


 柚月が横からツッコミを入れた。


「……スザクにも忘れられたまま。スガワーラは八咫鏡を祀っておりました」


 かつては立派で、人もたくさん住んでいたであろう水没した街を思い出した。

 神争いに負けて、邪神化して、水没した……?


「じゃ、タイラーはなんで鏡の中に入ってたの?」


 日向が聞いた。

 その言葉を聞いてタイラーの顔がしゅんとなった。


「私は勾玉と八咫鏡をタキのもとに、持ち帰ろうとしておりました……」

「盗もうとしたんだ。そりゃ、スガワーラは怒るよ」


 日向は容赦なく責め立てた。


「それが、モノノーベからの……条件でした故……」

「あっ! モノノーベのせいにしてる!」

「今から思えば、モノノーベは古い盟約で、タキとビャッコ両方の力を削ごうとしたのでございます……」


 タイラーはため息をついた。


「もしタキが男神としてスザクの神になれば、大世界神さまは、ビャッコの女神に……」

「……でも、スザクも犠牲者をたくさん出した」


 タキの親征が成功すれば、モノノーベはスミレさんをビャッコに取られ、失脚していた……


「そう、モノノーベとしては、万が一タキがセイリューを解放したならば、セイリューの地に留め置き、ビャッコがゲンブ討伐で弱れば、盟約を破れると思ったのでしょう……」

「……」

「スザクの犠牲を言い訳に……」

「モノノーベはクソだな、やっぱり」


 日向が大きくうなずいた。

 

 私はミヤビの反応が気になった。

 ミヤビをこわごわと振り返る。

 その顔は憤怒の形相に染まっていた。


「ちょ……ミヤビさん……」

「喧嘩はダメだからね……」

「……女神さまがたの、御意に……」


 ミヤビは深く息を吸った。


「ついたぞ」


 ナガノは立ち止まった。

 いつの間にか小川は、茶色く濁る幅の広い川になっていた。


「やっと、ついた……」

「もう、足、がくがく」

「おべん……とう……」


 私たちは船に倒れ込むように乗り込んだ。


「タイラーなに、まったりしてんの?」


 日向はイライラしていた。


「あんたも漕ぐのにきまってるでしょ!」

「はーっ!」

 タイラーは慌てて櫂を握った。


「さっ! 早くお弁当、食べよ!」

「楽しみ」

「わんわんわん!」

「ごめんね。スザクのはないの」

「くうん……」

「ナガノさん家についたら、鞄にあるから」

「わん!」


 私たちはびしょびしょとなった革の肩掛けカバンからお弁当を出した。

 手拭いの包みをほどく。


「かわいい!」

「ナガノ・ゼン。三年五組」

「私のはお姉ちゃんのだ」


「キャンデーキャンデー」のイラストの入ったアルマイトのお弁当の蓋を開けると、小ぶりなおにぎりと鶏肉のチューリップ、卵焼き、菜葉のお浸しが入っていた。


「やばっ。おいしそう」

「このおにぎりの具、梅干し!」

「この甘辛のチューリップ、美味しい!」


 小舟は水かさを減らした川を遡っていく。

 鳥が鳴き、水面で魚が跳ねた。

 あんなに立ち込めていた霧は、もうなかった。


 タイラーもスガワーラのついてきた若者も櫂を漕いでいる。


 午後の太陽が、西に傾き始めていた。


 勾玉三個、揃った。

 あとは、マカーベくんの勾玉を使えば、スミレさんも帰れる。


 マカーベくん……


 もうすぐ、お別れ……?


 でも、このまま何事もなく神廟から帰れるとは思えなかった。


 そのとき、老スガワーラが振り向いて頭を下げた。


『おそれながら、申し上げます』


 伏せられた眉間には、深い皺が刻まれていた。


『……その剣を、後程、見せていただけますか』


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ