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神様やめたい ! 〜万バズから始まるJK三人組の異世界勘違い神話  作者: タキ マサト
第七章 合わせ鏡の女神と三種の神器

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63話 脱出


 祭壇の部屋に私たちは立ち尽くしていた。

 草薙剣はまだ光り輝いている。


 だけど、また光が消えたら……


 光が消えた瞬間、全員ヒュドラに喰われる。


 頼みのスザクも尻尾を巻き、喉の奥で怯えた声を漏らしている。


 八咫鏡を向けて進む……?

 そしたらヒュドラも吸い込まれる?

 でも、私たちみたいに吸い込まれなかったら……


 賭け……


「女神さまがた……ご無事で何よりでございます」


 ミヤビが頭を下げた。


「マカーベくん、怪我してる?」


 千尋がつぶやいた。

 マカーベの頭からは血が流れていた。

 千尋は慌てて自分の巫女の袖を裂き、背伸びをして頭に当てた。


「……チヒロ……女神さま」


 マカーベはチラとミヤビを見た。


「感謝いたす」


 マカーベは自分で布を頭に縛った。

 ミヤビが息を吐いて首を振った。


「朱雀様の炎が無くなりましたゆえ。我々で防いでおりました……」

「スザク……大変だったな」

「わん、わん……」

「どのくらい、私たちは鏡の中にいたか分かりますか?」


 千尋の質問にミヤビは首を振った。


「無我夢中でおりましたゆえ……」

「午後には雨が降るって……昼過ぎたら、ナガノさん来ないし」


 柚月が苛立ったように言う。


「他に外に出られるところってある?」

「ここまで水が来ておりますれば、船がなければ……」

「そうだよね……外はヒュドラがいるしね」


 どうしよう……詰んだ?


「でも、ここにいても死ぬだけ」


 柚月がきっぱりと言った。

 

「そうだね……」


 千尋の声が震えた。


「タイラー!」


 私はタイラーに向かって言った。


「女神として命じる! 前に出なさい!」

「は? はー!」

「八咫鏡を持って前に立ちなさい!」

「は?」


 タイラーとイシカーワは重そうな木箱を二人で抱えていた。


「私も前に立つから」

「は?」


 光り輝く草薙剣を掲げた。

 この剣と青竜の勾玉と八咫鏡があれば、ヒュドラは来ない気がする。


 もし来たら、八咫鏡に吸い込んでもらおう……


「日向……それは危険……」

「大丈夫! ヒュドラが来たら、この剣で追い払うから!」


 もうやけくそだった。

 なんとかなる、それしかない。


 帰るためには……


「女神さま……何卒……ご自愛を……」

 ミヤビの顔が青ざめた。

「だって、ミヤビさん、そんなに疲れててもう鉄扇、振れないでしょ?」


 ミヤビの薙刀も血まみれだった。

 遠距離攻撃ができる鉄扇のほうが威力がありそうなのに。


「帰れなかったら、死んでるのと一緒」


 柚月がミヤビをかばうように前に出た。


「私も、きっと玄武さまが守ってくれるから……」


 千尋がお守りを胸から出した。


「女神様がた……」

 ミヤビは片膝をついた。

「必ずや、我とマカーベがお守りいたしまする」

「チヒロ……俺が、守る」


 マカーベが言った。


「タイラー! 早く!」

「はっ!」


 タイラーとイシカーワは木箱を降ろして布に包まれた鏡を取り出した。


「り、竜に、く、喰われるで、ございます……」

「イシカーワさん大丈夫。多分、竜が出てきたのは、タイラーが勾玉を持ってたからだよ」

「あの最後に見えた湖……あれ、きっと鏡……」


 千尋が考えながら言った。


「青竜は、何者かに昔、鏡の中に閉じ込められた……」

「……誰に?」

「分からないけど……」


——もしかして、現地民に? 


 ここに来るまでの間に感じた視線を思い出した。

 私は首を振った。

 考えても分からないことは考えない。


「じゃ! 行くよ!」

「イシカーワさん、松明に火をつけといて」

「は、はー」


 柚月が冷静に言う。

 確かに今は剣が光ってるけど、突然消えたりしたら、真っ暗……


「スザク、この火、食べられる?」

「くうん」


 スザクは首を傾げて鳴いた。


「ダメか……」

「タイラー! 前、行って!」


 私はタイラーを急かした。


「は! はー!」


 慌ててタイラーは鏡を持って前に出た。

 そして鏡の布を取る。


「気をつけてね、裏表逆だったら、笑えないから……」

「は! はー!」


 タイラーはパシリ属性があると、悪い顔になっているのに気がついた。


「大丈夫だから! モノノーベにぎゃふんと言わせるんでしょ?」

「ぎゃ、ぎゃふん?」

「タイラーがぎゃふんて言ってどうする!」

「女神様がた……我とマカーベが左右をお守りいたしまする」


 私たちは通路に足を踏み入れた。

 血と焦げ臭い匂いが鼻をつく。

 足元で水が、じゃぶじゃぶと音を立てる。


 先頭に鏡を持ったタイラー、その横にミヤビとマカーベが並んでゆっくりと歩く。

 その後ろに私たち、後ろからイシカーワが松明を持って続いた。


 前も後ろも関係ないし……

 ヒュドラの大口が来たら、みんな一飲みだ……


「ヴゥオオオオ……」


 ヒュドラの唸り声が響いて、皆びくっと足を止めた。

 前方で、ばしゃっと水が跳ねる音が聞こえる。


——でも、行くしかない……


 だけど、あの広場に戻れたとしても、どうやってヒュドラを退ける?


 ヒュドラがいるうちは、ナガノさんはこっちに来れない。

 本当にナガノさんが、この場を離れていて良かったと思った。


 もし残っていたら、あんな小船は即座に潰されて、帰る手段を失っていた。


「ビュシュウウウウウ……」


 ヒュドラが水を吐くような音を立てている。

 水面の奥で、巨大な影が蠢いた。


 やがて、通路が終わり広場の入り口に出た。

 草薙剣が水面を照らす。

 大きな波紋がいくつも立ち、大きな泡が浮かんだ。


「ビョオウウウゥゥ!!」


 そのとき、水面が盛り上がった。

 巨大な顔が牙を向いた。


「きゃっ!」

 私は草薙剣を突き出した。


 同時に、閃光が走る。


 光が一直線にヒュドラの顔面に突き刺さった。


「マジ、か……これ、すご……」

「グワアアアッ!!」


 ヒュドラは苦痛の叫び声を上げ、勢いよく壁に激突した。

 神殿が揺れ、千尋が尻餅をついた。


 再び水面が盛り上がった。


「突っ込んでくる……?」

「きゃっ!」


 水飛沫を上げて、マカーベが千尋を肩に担ぎ上げた。

 ヒュドラの頭が複数、水面から突き出す。


「なんで? 草薙剣、光ってるのに!」

「きゃあ!」

「早く! 簾の奥の部屋に行こう!」


 じゃぶじゃぶと小走りに向かう。

 私たちを追うように、ロケットのようにヒュドラの頭が飛んできた。


「うわ!」


 イシカーワがヒュドラの頭に前方に吹き飛ばされ、松明の火が消えた。


「イシカーワさん! そのまま奥の部屋に入って!」


 イシカーワは水の中で起き上がると部屋に駆け込んでいく。


「なんで! 来れるの!」

「目をつぶってる!」


 ヒュドラは盲滅法(めくらめっぽう)に突っ込んでくる。

 壁に激突し、そのたびに神殿が揺れた。


「タイラー! 鏡を伏せて走って!」

「は、はぁーっ!」

 タイラーは八咫鏡を抱え込んだまま、悲鳴を上げて簾の奥へと走り込んだ。


「こっち来んな!!」


 ヒュドラの口が真後ろに迫った時、マカーベの手が私を掴んで引っ張った。

 間一髪、部屋の奥に転がり込む。

 ヒュドラの頭は、部屋の入り口にぶつかって止まった。


「はあはあはあ……」

「……助かった」


 私たちは床に崩れ落ちた。

 ヒュドラは諦めたのか、後退していく。

 しばらくすると、ちゃぽんと水音を残し広場が静かになった。


「……日向? ここから、どうするの?」


 部屋の隅でマカーベから下ろされた千尋が、荒い息を吐きながら聞いてきた。


「青竜を解放するしかないけど……」


 言っていて、私はひらめいた。


「もう一度、鏡の中に入って青竜に聞いてくる!」

「は? マジで?」

「大丈夫! 勾玉と剣、持ってるんだから」

「剣も鏡に入ったら、ヒュドラを防げないでしょ!」

「あ! そうか……」


 でも、そこでまた、ピンときてしまった。


「じゃ、鏡でさ、湖を映したら、水が鏡に吸い込まれない?」

「……日向。だったら、鏡に映るもの、すべてが吸い込まれてるハズでしょ?」


 柚月がため息をついてツッコミを入れた。


「そっか。そうだよね……」

「でも、いい考えかも……」


 千尋が考え込んだ。


「最後に見た湖の青竜……青竜の本体は湖にいるとしたら……」

「ん? それで?」

「あの湖の水面、鏡みたいだった……どこか上から、八咫鏡で湖を映したら……」

「映したら?」

「多分、湖の鏡とこの八咫鏡。合わせ鏡で青竜が湖に映ったら、引っ張り出せるかも……」

「……あ」


 私の目が見開いた。

 ぞくりと背中が震えた。


「そっか! そしたら、鏡に入らなくてもいいのか!」

「女神さまがた……屋根の塔に登る梯子がござりまする……」


 タイラーが口を開いた。


「マジか!」

「本当!?」

「神殿の造りは、どこも同じ故……」

「あれ! 登れるのか……」


 私たちは顔を見合わせた。

 ビャッコの神殿で崖の上から見た塔は、頼りなげに見えたのを思い出した。


「行こう!!」


 そしてタイラーは、祭壇とは逆の通路を指差した。


 その先で再び水面が激しく揺れた。

 複数の赤い目がその下で光った。


「でも、行くしかないっしょ!」


 柚月の言葉に、全員がうなずいた。


——青竜を解放する。


 それしか、生きる道はない。


 

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