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神様やめたい ! 〜万バズから始まるJK三人組の異世界勘違い神話  作者: タキ マサト
第七章 合わせ鏡の女神と三種の神器

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60話 草薙、抜く  

 

 ぬっと頭を突き出したヒュドラの頭は三本あった。

 そのヒュドラの口が大きく開いて、私たちの頭上に鎌首をもたげた。

 逃げ場は前の簾の奥の部屋だけ。


「きゃっ!」

「日向! 千尋! 行くよ!」

「分かった!」

「バウバウバウ!!」

 スザクが暴れて柚月の腕から飛び降りた。

「スザクも着いてきて!」

 私たちは(すだれ)に向かって駆け出す。


 ミヤビが鉄扇を取り出し、マカーベが長剣を構えた。

 イシカーワが持つ松明が震えた。


「神獣青龍! 出てこーい!!」


 私たちは簾の向こうに飛び込んだ。

 一段上がったそこには水は入り込んでなかった。


「奥の部屋だねっ!」

「バウバウバウ!!」

 

 千尋の持つライトが奥の部屋を照らした。

 そこに私たちは駆け込んだ。


「あれ?」

「鏡は! どこ?」

「……ない?!」


 その暗い部屋には、なにもなかった。

 八畳間ほどのがらんとしたカビ臭い空間。

 千尋がライトを隅々まで照らす。


「……ないじゃん!!」

 柚月が絶望の声を上げた。

「掛け軸もない!!」

「イシカーワさーん!! 鏡ないよッ!!」


 私は怒鳴りながら駆け戻った。


「きゃッ!!」

 簾から顔を覗かせると、目の前にヒュドラの切断された首があった。


「女神様がた! 奥に!」

 水飛沫が上がる。

 ミヤビとマカーベはヒュドラの首と戦っていた。


 鉄扇を振り回すミヤビは風を巻き起こし、ヒュドラの顔を切り裂く。

 マカーベが長剣を振るう。

 イシカーワは壁際で松明を持って震えていた。


「イシカーワさん!!」

 私は簾を出てイシカーワさんの腕を掴んだ。

「鏡ないよ!! どこにあるの?!」

「キエエエエッ!!」


 イシカーワが叫んだ。

 振り向くと、ヒュドラの大口が目の前に迫っていた。


 逃げられない……!


 そう思った瞬間、背中の草薙剣から何かを訴えるかのようにドクンと脈打った。

 背中が熱を持ち始める。


「きゃっ」

「あ、危ない!」


 イシカーワが私を突き飛ばし、一緒に倒れ込んだ。

 直後、私たちがいた場所にヒュドラの口が突っ込み、壁を激しく砕いた。


「あっぶな! イシカーワさん! ありがと!」


 ヒュドラの黄色い目が、私を見た。


 背中の草薙剣が焼けるように熱くなっている。

 私は濡れた床に膝をついたまま草薙剣を前に回した。


「マジかッ! 抜けってか!?」


 私は渾身の力で柄を引いた。

 柄が、わずかに動いた。


「抜ける……ッ!」


 そのまま抜き放った。

 その瞬間、刀身からまばゆい光がほとばしった。


 三つの頭が一斉に草薙剣を見た。


「「ヴォオオオオオオッ……ォォォ!!」」


 光が満ちた瞬間、水が震えた。

 ヒュドラの動きが止まった。


 次の瞬間、咆哮が歪む。

 一斉に水の中に潜り込んでいく。


 逃げた?


 違う……恐れてる……

 

 水面が泡立ち、やがて波紋を残して静かになっていく。


「……行っちゃった?」


 私は腰が抜けるようにしゃがみ込んだ。


「蛙神の女神さま! 早く奥へ」

「日向! 鏡やっぱりないよ!! って、まぶしい」


 千尋が叫んで簾から顔を出して目を閉じた。


 草薙剣はまだ光り、神殿内を照らす光源となっていた。

 その光で、ヒュドラの切り落とされた頭が何個か見えた。


「……首、また生えてきたんだよね?」

「その剣の光で、追っ払ったの?」

 柚月も顔を出した。


「囲まれておる……」


 ミヤビが耳を澄ませて言った。

 水中に黒い影が蠢いているのが見えた。


「……出られない?」

「やば……」


 マカーベもミヤビも肩で息をしていた。

 武器を構えて鋭い目を水面に向けている。


「イシカーワさん、助けてくれてありがとう」


 立ち上がった私は、へたり込んでいるイシカーワの手を引っ張った。


「どうしよう……日向……」

「イシカーワさん、鏡がないんだけど、知らない?」


 イシカーワは首を振った。


「そうだよね。二十年前じゃ、覚えてないよね……」

「あ、あ、あ、あのときは、こ、こんなに、み、水、なかった……」

「何? 何か、思い出した?」

「タ、タ、タ、タ……」

「タ? タキってやつ?」


 イシカーワは勢いよく首を横に振った。


「タ? あ! タイラー!」

 千尋が言うとイシカーワが激しくうなずいた。

 そして、震える指で右の通路を指差した。


「マジ……か?」

「あっちに、あるの?」


 私たちの顔が曇る。


「あ、あ、あそこに」

「絶対に、右側にあるのね?」

 

 イシカーワは何度も首を縦にふる。


 左右に通路があるのは、今までの神殿と同じ……

 でもあそこは、さっきまでいたヒュドラにめっちゃ近い……

 もしまた襲われたら、逃げ場はない……


「マカーベ? この剣、マカーベが持ってた方がいいかも……」


 私は握りしめている草薙剣をマカーベに見せた。

 この最強の剣を最強のマカーベに使ってもらえれば……

 でも、マカーベは悲しげに首を振った。


「女神さま……その剣は強い力を持っておりますれば、我らでは剣の力に飲み込まれてしまいましょう……」


 ミヤビも目を背けた。


「あ……論破しないと使えないんだっけ……」

「論破しなくても、使えると思うけど……」

「私が持つしかないか……」


 一応、女神として認めてもらえたのか、あれで……


「じゃ、行く?」

「わんわんわん!!」


 柚月がコンビニに行くような気楽さで言った。


「うん、鏡か勾玉を見つけないと始まらない……」

 千尋が同意した。

「よし! 行こう!!」


 お昼までにすべてを終わらせてナガノさんに来てもらって、船でお弁当を食べる。


 そう決めた。


「ちゃちゃっと終わらせて、船でお弁当、食べよ!」

「ぷっ……遠足じゃないんだから……」


 ミヤビとマカーベも苦笑した。


「イシカーワさん! 前、行ってね」

「ぎょ、ぎょ、ぎょ、御意……」


 松明を持つイシカーワが先頭を行く。

 スザクとミヤビがそれに続く。


 私たちも、そろりと水の中に一歩踏み出した。

 ゆっくりとなるべく音を立てないように進んでいく。


 水面が泡立ち、低い唸りが神殿内に響いた。

 ぴたっと足が止まり、皆が硬直した。

 緊張が走る。

 マカーベの長剣がわずかに揺れた。


「……」


 唸りが消え、波紋が静まる。

 誰かがため息をついた。


「……スザクの炎が使えればだけど、水に弱いよね……」


 柚月が沈黙に耐えきれないようにささやいた。


「ビャッキーの風も、効果なさそうだね……」


 火、風、水と来たら、土……

 土といえば、……玄武っぽい。


 私のゲーム脳がひらめく。


「……千尋の勾玉でヌッシー、呼べない?」

「分からない、守ってくれてるような気はするけど……」


 ひそひそ声で話す。

 通路もくるぶしまで水が来ていた。

 ちゃぷんと歩くたびに水音が立つ。


 ここでヒュドラに襲われたら、逃げ場はない。


 石造りの通路が草薙剣の光に照らされる。


 やがて通路の突き当たりに出た。

 扉が二つ並んでいる。

 もう一つの側面の扉は外にでる扉だ。


 マカーベとミヤビが後ろを警戒して並ぶ。


「これ、スザクの神殿で開かなかったヤツだ」

「うん、どっちかがトンネル……」


 イシカーワは左の扉のノブに手をかけた。

 ノブは回るが金具が錆びついていて開かない。


「来る!!」


 そのときミヤビが叫んだ。

 水が弾ける音ともに咆哮が響いた。


 通路にヒュドラの大口が開いた。


「早く! イシカーワ!」

「バウバウバウ!!」

「ぐぬぬぬ……」

「早く! 開けてえッ!!」


 ミヤビの鉄扇が翻り、風がヒュドラの頭を切り裂くが、巨大な体躯は止まらない。


「くッ……!」

「どけッ!!」


 そのとき、マカーベが水飛沫を上げながら走り込んできた。

 錆びついた扉に、肩から体当たりをする。

 凄まじい音と共に、マカーベごと扉は外れて奥へ倒れ込んだ。


「きゃあッ!!」


 ヒュドラが牙を向いた。

 通路を塞ぐような大口。

 私の目に、ヒュドラの口がミヤビを飲み込もうとしているのが映った。


「ミヤビさんーッ!!」


 千尋が絶叫した。


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