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神様やめたい ! 〜万バズから始まるJK三人組の異世界勘違い神話  作者: タキ マサト
第七章 合わせ鏡の女神と三種の神器

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56話 長野


 霧の中から鳥の鳴く声がする。

 後ろで千尋が喘いでいる声が聞こえる。


 森の中の登り道。


 濡れた草と泥でスニーカーが滑る。


 私の前は柚月とスザク。

 その前に長髪の男とミヤビ。

 男は重そうなリュックを背負っていた。

 後ろに、船の櫂を漕いでいた男とマカーベ、イシカーワが続く。


 霧が突然晴れた。


 登りが終わると、日本の農村のような風景が広がっていた。

 錆びた軽トラック、傾いた電柱。

 畑、ニワトリ、梅の木、その奥に黒々とした森。


 青い空が見えた。


「あれって、古民家?」

「マジか……」

「……なんで?」


 目の前には日本の民家が数軒建っていた。

 長髪の男は、そのうちの一軒の家の縁側に入っていく。

 門扉に「長野」と表札がかかっていた。


「オロチがまた出たぞ」

「あら、……お客?」

 出てきた初老の女性が困惑した顔を私たちに向けた。

「あそこに出たのは、初めてだ」

 ナガノは荷物を下ろすと座布団に腰を下ろした。


「こんにちわ」

 私は笑顔で声をかけた。

「私、秋田日向です。この子は宮城柚月、こっちは山形千尋」

「……どうして? どうやって、ここに来れたの?」


 初老の女性は警戒した様子を見せた。


「それをこれから聞く」


 長髪の男は奥に入っていった。


「まあ、お上がりなさい」

「……お邪魔します」

 私たちは靴を脱いで縁側から部屋に上がった。

「あら? イシカーワさん? 久しぶりね……」

「あ、あ、あのときは、お世話になり申した……」


 イシカーワは頭を下げ、靴を脱いで上がった。

 奇声はもう上げていなかった。

 マカーベとミヤビは庭に立ちつくしていた。


「ミヤビさんたちも……」


 私は二人に声をかけると、ためらいがちに靴を脱いで渡り廊下に座った。


 畳の部屋の真ん中に囲炉裏。

 そこに鉄瓶が湯気を上げている。

 長髪の男が茶葉のようなものを鉄瓶に入れて、湯呑みに注いでくれた。


「何しに来た? どうやって、ここに来た?」


 男はお茶をすすって聞いた。

 出された座布団に、落ち着かなげに座る。


「……何人、死んだ?」


 その声に私たちの開きかけた口が、閉じた。

 子孫ではない転移者の出現に、浮かれかけていた私の心臓がきゅっとなった。


 目が閉じられる。


 ビャッコでキマイラに襲われた人たち。

 二番船の人たち。

 何人かは、四番船に救助されたみたいだけど……

 でも、でも、誰も、頼んでなんかない。


「たくさん……」


 千尋がぽつりと答えた。

 男の視線が、さらに厳しくなった。


「だけど、いかなくちゃ、いけないんです……」

「この先は、死ぬぞ……大勢、犠牲者が出る……」


 男はお茶を飲み干した。

 

「でも、私たち、セイリューの神殿に行かないと、いけないんです……」


 言いたいこと、聞きたいことはたくさんあった。

 でも、一番の目的はそれだ。

 私は真っ先に言った。


「セイリューの神殿?」

「……場所、知ってますか?」

「……」


 男が深いため息をついた。

 沈黙が降りる。


「なんで、日本の家が、この世界にあるんですか?」


 千尋が部屋を見回して聞いた。

 ブラウン管のテレビ、扇風機、壁掛け時計、昭和の趣き。


 男はため息をついた。


「三十年前……」


 男は木製の組み替え式カレンダーに目をやった。

 壁にかかったカレンダーは三十年前のものだった。


「台風の時だ……」


 ゼンマイ式壁掛け時計の秒針を刻む音が響いた。


「真夜中、集落ごと土石流に流された……らしい」


 千尋がはっと、息を飲む音が聞こえた。


「……それで、境界に集落ごと、越えた?」


 男はお茶を鉄瓶から注ぎ足した。


「いつしか誰も”帰る”と言わなくなった……」

「……」

「……おまえたちは?」

「わたしたちも一緒です。トンネルが崩れたみたいで……」


 初老の女性が目を閉じて首を振った。


「それで、神殿に何をしにいく?」


 男の目が険しくなった。

 イシカーワがビクッと震えた。


 私たちは沈黙した。

 ここにはミヤビがいる。

 帰るためなんて、言えない。


「ヒュドラを……オロチを倒すためです」


 千尋が男を見据えて言った。


「……あ?」


 男の湯呑みを持つ手が止まった。

 男は明らかに馬鹿にするように下目遣いで見回した。


「私たち、神廟で鬼とスケルトンを、玄武の神殿で首なし騎士を、白虎の神殿で、キマイラを倒したんです!!」

「わんわんわん!!」

「本当です! 信じてください!」


 男は目を閉じて、お茶を啜った。

 私たちもお茶を飲んだ。

 独特な苦味が口の中に広がった。


——まずい……


「……オロチを倒して、どうする?」

「神獣青竜を解放します」

「神獣? 青竜?」

「ゲンブで神獣玄武。ビャッコで神獣白虎、魔物からその土地を守ってくれます」


 千尋が考えながら答えていく。


「これを見てください」


 千尋は私が背負う草薙剣を指差した。


「これは、三種の神器、草薙剣……日本神話では、ヤマタノオロチの尾から出てきた剣と言われてます」

「……」

「キマイラがいるビャッコの神殿で、見つけました」

「……」


 沈黙が降りた。


「……山形さん? あなたたち、なんで、そんな危険なことをするの? まだ高校生くらいじゃない?」


 初老の女性が眉を寄せて聞いてきた。


「あんたらも、見たろう……オロチを。あれは、まだ小さいほうだ……」


 男はお茶を飲み干して私たちに向き直った。


「イシカーワさん? あんたも知ってるよな?」

「ナ、ナ、ナガ……さん」

「あれはいつだったか? あんたたち、大軍勢で来たよな?」

「あ、あ、あ……」


 そのとき、ミヤビが口を開いた。


「二十年前じゃ。古い盟約じゃ。スザクとビャッコで、セイリューとゲンブの地の解放を目指した」


 その声に、男が目を細めた。


「我はまだ子どもじゃったが、首なし騎士に負けたのをこの目で見た。スザクは……全滅したと聞く……」

「あ、あ、あそこは、ヂ、ヂ、地獄……」

 イシカーワが頭を押さえた。


「そう、オロチは大量にいる……神殿には、それこそウジャウジャとな」

「……」

「マジか……」

「でも……でも、行かないといけないんです!」


 千尋が立ち上がった。


「なぜだ?」

「……それは」

 千尋が言い淀む。

「帰るためです!」


 私は思わず立ち上がった。


「ちょ……」

 柚月がシャツを引っ張った。

 でも止められなかった。


「日本に! 家族のもとに! 戻るためです!!」


 ミヤビがいる。でも、関係なかった。

 帰りたいのは、もうバレてる。

 もう開き直った。

 

「絶対に! 家に! 帰るんです!!」


 私は叫んだ。

 後ろでミヤビが息を飲む音が聞こえた。

 振り返る勇気はなかった。

 でも、ミヤビが握る薙刀の柄が、かすかに震えているのが分かった。


「……日向」

「私たちには、神獣がついてる」


 柚月も立ち上がった。


「柚月……」


 イシカーワが目を見開いた。


「……帰りたい、……か」

 男は深いため息をついた。


「だから、神殿の場所を教えてください!」

「死ぬぞ」

「日本に帰れなかったら、死んでるのと同じ……」

 柚月が冷静に言った。

「ここで生きても、私たちじゃなくなる」

「勾玉と八咫鏡(やたのかがみ)。その二つがあれば、神獣青竜は必ず顕現します」


 千尋も立ち上がり、きっぱりと言い切った。


「あなたも、帰りたくはないですか?」


 私は男に聞いた。


「ナガノだ。ナガノ・ゼンだ。ここで三十年生きてる」

「……三十年」

「ナガノさん……」

「この集落には、年寄りも多い……」


 男は首を振った。


「幸いというか、帰る家がここだ。俺たちは……」

 男は家の外を眺めた。

「コメの種籾も、野菜の種も、ニワトリも一緒にこっちに来た」


 男は立ち上がった。


「コージ!」

 男は声をかけた。

「コージ! この集落を頼む」


 男は私たちを向いた。


「……一度だけだ」


 その声はさらに低くなった。


「危険なら、すぐ引き返す。それでもいいなら、連れていく」

 

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