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神様やめたい ! 〜万バズから始まるJK三人組の異世界勘違い神話  作者: タキ マサト
第七章 合わせ鏡の女神と三種の神器

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55話 六人と、犬


 ちゃぷちゃぷと小舟が近づいて来た。


「……早く、立ち去れ」


 その声にマカーベが長剣を向けた。

 巫女たちが薙刀を構える。

 ヒュドラが去った川に、再び緊張が走った。


「現代の日本語……転移者……?」


 千尋がつぶやいた。


「オロチを起こしたのは、おまえたちだな?」


 黒髪の長髪の男だった。

 ボロボロのコートを身に(まと)っている。

 後ろに櫂を持つ、別の男の姿が見えた。


「日本の……日本の方ですか?」


 私は思い切って聞いてみた。

 あれって、トレンチコートだよね?

 

 最近の人……?


 転移者の子孫じゃない、そんな予感がした。


 でも、その目だけが異様だった。

 日本でもここに来てからも、見たことのない目。


 刻まれた深い皺と日焼けした肌が、長い年月をここで過ごしている、そんな感覚があった。


「……あぁ? あんたたちも?」


 長髪の男は驚いた顔をした。

 

「やっぱり、この世界の各地に転移してたんだ……」


 千尋が納得したようにうなずいた。


「どのくらい、ここにいるんですかあ?!」


 勢い込んで思わず叫んでしまった。


「しっ!」


 男は指を口に立てた。


「騒ぐとオロチが、また来る……」


 男は川ではなく、私たちを見てそう言った。

 霧の奥で、まだ何かが動いている気がした。

 男は耳を澄ませた。


「ついて来い」


 船縁で小さな叫びが上がった。

 水中で暴れる音がする。

 樽に捕まった人影が、何人か見えた。


 二番船の生存者らしい。


 長髪の男が、眉間に皺を寄せた。


 霧の向こうに四番船のカンテラの灯りが近づいて来た。

 お互い合図をしているようだった。


「……ミヤビさん、ついていこうよ」


 ミヤビはうなずいて、船長になにやら話しかける。

 しばらくカンテラの灯りで合図を送り合い、やがて船は進み出した。


「早くしろ」


 小舟は霧の中に消えていく。

 マカーベは長剣の血を拭って鞘に収めた。


「……マカーベくん……ありがとう」


 マカーベは千尋をちらっと見て、片膝をついて頭を下げた。


 私たちの平底船を先頭に、小舟を追いかけて霧の中を分けいっていく。

 やがて両岸に木々が迫る狭い水路に小舟は入っていった。


 舷側(げんそく)に木々が(こす)れる嫌な音が響く。


 私たちは三人で身を寄せ合って震えていた。

 ヒュドラの脅威は、ゴブリンやキマイラとは全く違った。

 眷属のキマイラは、巫女と男衆で倒せる相手だった。


——でも、あれは……無理……


 そして、謎の日本語使いの男……


——立ち去れ?


 ここまで来て、立ち去れない。

 

 言いしれぬ不安が高まっていた。

 その緊張をほぐしたのはスザクだった。


「くうん」


 スザクが私たちを見上げる。


「スザク、ほんとに助かった。火を吐くなんて、すごいね、君は」

「ハッハッハ」

 私はスザクの頭を撫でた。


「キマイラの火をたくさん、食べてたからね」

「ハッハッハ」


 柚月はスザクの首筋を撫で回す。

 

「柚月も、あのとき神獣白虎の風を操ってた?」


 千尋が神殿のキマイラ戦のときのことを聞いた。


 その言葉に、あのとき草薙剣が風に乗って一瞬軽くなったことを思い出した。

 あれくらい軽かったら、自由に振り回せるのに。


「なんか、ビャッキーと意思が通じた? というか思った方向に風が吹いた」

「すごい! 手懐けてる」


 柚月は首に提げた巾着から勾玉を取り出した。


「なんか、この勾玉にビャッキーがいるような気がするんだよね……」

「私も! この勾玉、あのとき、玄武が助けてくれたように思った……」


 千尋もお守りから勾玉を出した。


「このベッコウの勾玉、タイマイって亀の甲羅なんだって。……命のお守り」

「そっか……あのとき、絶対にヤバいと思ったけど……」 


 キマイラの群れに飲み込まれた千尋を思い出して身震いした。


——でも、もしかして神獣が、私たちを助けてくれてる?


「いいなあ、私も勾玉ほしい……」


 私が両膝に顔をうずめると、千尋が言った。


「その草薙剣があるよ」


 草薙剣は背中に背負ったままだった。

 手放したら何か不吉なことがあると思って、寝る時も抱えていた。

 

「その剣に日向が、新しい女神として宿ったんだと思う」


——でもどうせ、またすぐ何かに取り憑かれたりする剣だよ、こいつ……


 嫌な考えが頭をもたげ、私は首を振った。


「草薙剣に認められるなんて、そうそう、ないよ?」

 柚月が冷静に指摘した。


 そう言われて気がついた。

 ゲーム的に言えば草薙剣といえば、最強に近い剣だ。

 そうだよ! 最強の剣じゃん!


「そうだね! 最強の剣。スザクにヌッシーとビャッキーと、この草薙剣があれば、私たち最強じゃん!」

「しーっ!」

「ごめん……」


 思わず立ち上がって叫び、柚月にたしなめられた。

 しゅんとしゃがむ。

 私はこの草薙剣を振り回して、ヒュドラをやっつける想像をした。


 でも、本当は分かってる。

 いざとなると、震える。

 さっきまで、震えてたし……


 恐怖の正体……


「斬っても、また首が生えてきた……」


 そこに思い至る。

 マカーベの長剣が切り裂いた首。


「……ヒュドラってやっぱ、首生えてくるんだ……」

「……」


 私たちの沈黙を破ったのは千尋だった。


「多分、なんだけど、勾玉、草薙剣ときたら……」


 千尋が意味ありげに言った。


「おそらく、八咫鏡(やたのかがみ)もある」

「やた? のかがみって、なに?」

「分からないけど……三種の神器の最後の一個」

「三種の神器!?」


 千尋が考えながら続けた。


「もしかしたら、青竜をそれで呼び出す……でも、真実を写す鏡的なもの……なはず」

 柚月が顔をあげた。


「青竜か……どこにいるんだろ?」

 

——青竜が仲間になれば、ヒュドラなんて目じゃない、きっと……


「じゃ! セイリューの神殿で、まず青竜に会って仲間にしよう!」


 私の単純なゲーム脳がわくわくしてくるのを感じる。


「そのあと勾玉と八咫鏡探し!」


 ミヤビさん、マカーベ、巫女たち最強の護衛もいる。

 そして、朱雀、玄武、白虎も私たちを守ってくれてる。


 さらに最強の草薙剣……!


 私は立ち上がった。

 

「なんとかなる!!」


 我ながら単純だと思う。

 でも、そう思わないとやってられない。

 さっきまで二番船の人たちが、ヒュドラに食べられてた……


「……なるようになるし、なってる」

 柚月も立ち上がって、手を出した。

「そうだね、絶対に勾玉を集めて帰ろう」

 千尋も立ち上がり、手を重ねる。


 私もその上に手を置いた。


「よしッ! セイリュー編ッ!! スタートだねッ!!!」

「しーっ!!」


 私たちは声を出さずに笑い合った。


 謎の日本語使いも、なんか助けてくれそうな気がする。

 なんとかなる、絶対。


 前をゆく小舟はやがて、砂地に乗り上げた。

 私たちの平底船も手前で止まった。


 船乗りが一斉に降りて、ロープで船を引っ張っていく。


 舷側から階段状の梯子が下されると、私たちは三日振りに地面に降り立った。


「まだ体が揺れてる」

「ふらふら」

「ゆらゆらする」


 長髪の男は私たちが全員降りるのを待っていた。


「そんなには、連れてはいけない」

 

 男は指を広げた。


「五人だ」

「犬も入れていい?」


 柚月が聞いた。


「犬か、久しぶりに見た。……犬は人じゃない」

 男はオーケーサインを出した。


 アベーノたちを交えて、船長とミヤビで話し合いが行われた。

 ほどなくして、結論が出たらしい。


「我とマカーベが護衛として付く」


 アベーノが悔しそうな顔をしている。


 千尋の顔がそれを聞いて輝いた。

 あんな嬉しそうな顔を見るのは久しぶりだった。


「きええええええッ!!」


 そのとき、奇声が霧を切り裂いた。

 髪を振り乱したイシカーワが走って来るのが見えた。


「あ?! イシカーワ……さん?」


 長髪の男が言った。

 イシカーワは走ってくると、何かを言いたげに長髪の男を見た。


「確かに、……イシカーワさんだ」

「きえぇぇぇ……ナ、ナ……」


 イシカーワは長髪の男に抱きついた。

 私たちは顔を見合わせる。


——知り合い?


「生きてたのか……」


 長髪の男がつぶやいた。


「六人と、犬で、ついて来い」


 私たちは、長髪の男に連れられて霧の中に入っていった。

 


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