表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様やめたい ! 〜万バズから始まるJK三人組の異世界勘違い神話  作者: タキ マサト
第六章 三女神、覚醒

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

53/84

51話 三個目の勾玉


 キマイラは倒れた。


 だけど、神獣白虎の力を借りても、キマイラは硬すぎた。

 スザクは犬の姿で、キマイラの炎をその身に飲み込んでいった。


 ミヤビもマカーベもフォーゲルも、キマイラの圧倒的な力の前に手出しができなかった。


——本気を出したら、この神殿ごと吹き飛ばしてしまう……


 戦いの最中、ヤキモキする私に風がそう語りかけた。

 私は神獣白虎に問いかけた。


——契りって、なにをすればいいの?


 風が笑った。


——フ、フフ……


 汝らの力で魔の獣を屠ること……


 その身をもって、神の(ことわり)に連なること……


 一度結べば、もはや人には戻れぬ……


 神の剣も、汝らに力を与えた……


「日向? 千尋?」


 そのとき、簾の奥で光がほとばしった。

 やがて、光る剣を掲げた二人の影が浮かび上がった。


「草薙剣?」


 私はミヤビを見た。

 ミヤビの膝が崩れるのを初めて見た。

 誰も動かなかった。


 その瞬間、日向と千尋が振り下ろした光る剣が、キマイラの炎を両断した。

 キマイラの体は、呪縛から解き放たれたように、急速に風化して崩れていく。


 静寂が神殿を覆っていく。


——あのキマイラを、作り出した……


 裏切りの女神が振るった剣……


 風が神殿の出口に流れていく。


「神獣白虎! ビャッキー!」


——フフ……



「ありがとう!」


 風が笑って、吹き抜けた。


——見届けようぞ。汝らが切り拓く『道』を……


 白面の女神よ、また風の中で会おう……

 

 キマイラの体は、風化するように崩れていった。


 あの裏切りの女神に斬られてから無理やり生かされてきた長い長い時間が、一気に押し寄せたようだった。


 私は、その亡骸へと足を歩み寄った。


——日向……ありがとう……


 千尋……本当に無事で良かった……


 ほんとにあなたたちは、……神!


 キマイラの皮はミイラ化し、そこから骨が突き出していた。

 その中心で、一つの勾玉が静かに光っていた。


 足元でミイラ化した体がさくっと崩れた。

 骨にヒビが入り、砂となっていく。


 私はキラキラした勾玉を拾い上げた。


——あと一つ……


 気がつくと、日向と千尋が走ってこちらに向かってきている。


「「柚月ッ!」」

「千尋ッ! 日向ッ!」


 私も駆け出した。


「うええええん」

「良かった……」

「分かったから、泣くな」


 そういう私も涙が溢れていた。


 二人の力が抜け、重い草薙剣が乾いた音をたてて石畳に転がった。

 私たちは剣のことも忘れ、三人でしがみつくように泣いた。


「勾玉……三つ目だね、ずび」

「うん。あとは、……セイリュー……」

「その剣、重そうだな……」


 私は床に転がっている草薙剣をちらと眺めた。

 猛るような光が、穏やかな白銀の輝きに変わった気がした。

 

 ミヤビが私たちの前に出てきて平伏した。


「女神さまがた……」


 見上げたその目には、確かな信仰の光があった。


「我ら、ビャッコの民……女神さまがたを、永遠に(あが)め奉ります……」


 ミヤビの声が神殿内に響き渡った。

 その声はどこまでも深い崇敬の響きがあった。

 その場の全員が、音もなく平伏した。


「やば……」

「信仰が、広がる……」

「ミヤビさん、やめて……いつも通りでいいよ」


 私たちは何とも言えない恐怖に身をすくませた。


「御主女神さまがた……かしこみかしこみ、申し上げ、そふらふ」


 アベーノが膝でにじり寄り、額を床に(こす)り付けた。

 その声は涙交じりになっていた。


「このアベーノ、女神さまがた御身に生涯を御心のままに奉仕いたしまする……」

「……アベーノ」


 日向が困惑した顔でつぶやいた。

 神レベルが上がってる?


「ミヤビさん? もう眷属は出てこないの?」

 私ははっと気がついた。

 これから、ビャッコを出て、セイリューに行かないといけない。

 

 また、襲われるかも……


「恐れながら申し上げます……産み出された魔の獣は、そのままかと……」

 ミヤビは顔を伏せたまま続けた。

「しかしながら、神獣白虎の眷属が息を吹きかえますれば、駆逐も容易いかと……」


 それを聞いて私は安心した。


「私たちは、このままセイリューに行きます」


 私は言い切った。

 このまま、この地に留め置かれたら家に帰れない。


「おお……セイリューの地の、解放をも……」


 アベーノの震える声が響いた。


「ミヤビさん? 来てくれますね?」


 マカーベもできるなら来て欲しい。

 私は神殿内を見回した。


 西陽が差し込む神殿には、マカーベの姿だけが、なかった。


「女神さまがたの御心ならば、謹んでかしこみ申し上げまする」

「……マカーベさんは?」


 私の声に千尋がはっと息を飲んだ。

 そのとき、マカーベが通路から姿を表した。


 その手には、何かを持っていた。

 マカーベは素早く進みよると片膝をついて、剣の鞘を両手で差し出した。


「オンアルジメガミさまがた……草薙剣の鞘を」


 草薙剣は床に転がっていた。

 ミヤビがマカーベにうなずく。

 マカーベは立ち上がり、草薙剣を鞘に収め日向に差し出した。


「これって、抜いちゃったから、祟られるんじゃないの?」

 剣を受け取った日向の疑問にミヤビが答えた。

「この剣に巣くった亡霊は、消えうせますれば……」


 ミヤビの声が震えた。


「この剣に、女神さまがたの御心が宿りまして、ございます」

「じゃ、もう呪われない?」

「裏切りの女神と、その他、有象無象の恨みは、もう感じませぬ……」

「かえりたし、かえさないって言ってた……」


 日向がぞっとしたようにつぶやいた。

 私はミヤビから聞いた話を思い出していた。


 このキマイラが都を襲ったという、あの夜のこと。


「マカーベさん……あなたたちは、あの剣を抜きに来たの?」

「柚月……?」


 千尋が私に訴えかける目をして、口ごもる。

 その私の問いに、ミヤビが静かに口を開いた。


「マカーベ。あの日のことを、女神さまがたに……」


 マカーベは口を開き、閉じた。

 一瞬の間。

 目を閉じ、片膝をついたまま話し出した。

 

「あの日、あの夜の、朝……俺たち、私と姫は、この神殿に向かった、向い申した……」

「マカーベ、普通に話していいから……」

 日向が声をかけた。

「俺たちは、婚姻の前に、父祖の地に、行こうとしていた……」


 マカーベの顔が陰る。


「姫の予兆があった。草薙剣の解放……魔の獣の死……」


 その予兆って、私たちのこと?


「俺たちは、早朝、神殿に忍び込み、草薙剣に手をかけた」


 そうか、自分たちのことだと思ったんだ……


「だが、草薙剣は、抜けなかった……」


 マカーベさんでも? 最強のピーコさんでも?


「魔の獣が、目覚めた。俺たちは命からがら、逃げ出した」


 それで、都が襲われた……?


「姫の予兆が、そのとき、また降りてきた」

「……」

「スザクの神殿に、女神が降臨する……と……」


 それが、私たち……?


「そのとき姫は、自分が死ぬのが分かった……」

「……」

「姫は言った。その女神たちをビャッコに導けと……」


 それで、マカーベはカモーノさんのところに来たのか……


「ピーコ姫って、千尋と似てるの?」


 日向が思わずといった感じで言葉を発した。


「……」

「そっくりじゃ」


 ミヤビが思わず普通に答えた。


「その小さな細い体とは思えないほど、誰よりも怪力、誰よりも薙刀の腕が立ち、誰よりも女神の力を持っていた……」

「真逆じゃん……」


 日向が少し笑って言った。


「マカーベも驚いたろう……最強の姫が、こんなにもか弱い娘の姿になって、再び現れたのじゃから……」


 ミヤビも口元を緩めた。


「じゃが、その勇気の質は同じじゃった……あのゲンブの神殿での勇気……そして、ここでも……」

「マカーベくんは、ピーコ姫のことを、その……愛していたの?」

「……」


 千尋がマカーベを見つめた。


「マカーベくんも、日本に来たかった……?」

「……」

「ピーコ姫と一緒に……?」


 マカーベの握った拳が、わずかに震えていた。


 神殿に沈黙が降りた。


 だけど、その沈黙が肯定の答えだと、誰もが察した。


 最強の戦士であるマカーベも、ただ好きな人と一緒に、誰も自分たちを知らない遠い世界へ逃げたかっただけなのかもしれない。


 夕日が地平線に最後の輝きを残して、沈んでいく。


「女神さまがた……魔の獣は倒したといえども、眷属どもは、まだ蔓延(はびこ)っておりまする」


 ミヤビが再び平伏した。


「今宵は、この場所にてお休みいただき、今日中には使いを集落に送りますれば、明朝にはビャッコの軍とともに出発できましょう……」


 長い一日がこうして終わった。


 私の手の中で、勾玉は冷たく光っていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ