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神様やめたい ! 〜万バズから始まるJK三人組の異世界勘違い神話  作者: タキ マサト
第五章 裏切りの女神

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44話 分断の朝と火の海の記憶


 私はミヤビの手に引かれて、夜の森を走っていた。

 気がつくと巫女が数人、後ろを追ってきていた。


 後ろからキマイラの咆哮が轟く。


 ミヤビは大木の前で立ち止まると、その幹に手をかけた。

 巫女が松明の火をかざす。


「登れるか?」

「なんとか……」


 巫女が二人で私の体を持ち上げた。

 肩車されて巫女の肩に立つと、ミヤビの手が届いた。

 力強く手を引かれ、太い枝に誘導される。

 別の巫女がスザクを背負って登ってくる。


「今宵は、ここで夜を明かす」

「……千尋は? 無事なの……? ねえ!?」


 巫女の一人が上の枝から、その問いに答えた。


「ビャッコの男衆が、間に合いました故……」

「マカーベさんの仲間も……?」


 ほどなくして、眼下に松明の火が近づいてきた。

 枝の上にいる巫女の松明と合図を交わし合っているようだった。


「黒神の女神さまは、マカーベと男衆にて、運ばれていった由……」


 ミヤビが報告を受けて、ほっとしたようにそうつぶやいた。


「無事なのね! 怪我は? ねえ、まさか、死んでは、ないよね……?」

「眷属は、巫女と男衆で退けた、と」

「……分からない?」


 月明かりの中、ミヤビは首を振った。


「くうん」

 スザクが私の足の間で鳴いた。

 枝に爪を立てて震えている。

 私はその小さな頭を強く抱きしめた。


「マカーベに担がれ、森の奥へ入ったそうでございます……」

「そう……」


 お願いだから、無事でいて。

 私の目から涙がこぼれてくる。

 スザクが私を見上げた。


「日向は?」

「蛙神の女神さまは、フォーゲルらと夜を過ごしておりましょう。巫女が付き従っておりますれば……」


 また、バラバラになった……

 でも、あの都の時とは状況が違う。


 相手は容赦のない、言葉の通じない無慈悲な獣……

 死の危険は、これまでとは比べ物にならない。


「眷属は、木の上にまでは、登ってこれませぬ」


 ミヤビは両肩の襷を解いた。

 襷を枝の幹と私にくくりつける。


「これで、落ちませぬ。できるだけお休みになられるよう……」

 ミヤビは私を抱き抱えるように背中から手を回した。


「明日は、神殿に。昼のうちならば、眷属にも出会わぬ故……」


 香と血と獣の臭いが混ざる。

 背中にミヤビの体温が伝わった。


「ミヤビさん……ありがとう」


 神獣白虎……


 あなたの美しい土地が、あの醜悪な獣に踏みにじられている。


 裏切りの女神の、呪い……?

 草薙剣の、祟り……?


 私は女神なの……?

 いや、女神じゃない。違う……ただの女子高生…… 


 でも、女神にならなければ、千尋を、日向を、みんなを救えない。

 見知らぬ土地の、私とは、関係ないはずの、この世界の人が、たくさん死んだ。


 神獣白虎、お願い。

 みんなを救って……


 神獣白虎……

 どこにいるの?


 その瞬間、森を抜ける風が、私の髪だけを揺らした。

 不思議と、枝の葉は一枚も揺れてはいなかった。


 ふくろうが鳴いている。


 下弦の月が雲間に隠れた。

 

 私はスザクとミヤビの温かさに包まれて、浅い眠りに落ちていった。




  *




 まだ薄暗い中、私はミヤビに起こされた。


「白面の女神さま……眷属どもはいない様子……」

「……え? なに?」


 寝ぼけ眼で、木の枝でひっくり返りそうになる。

 スザクが驚いて吠えた。

 巫女が木の下で松明を振っていた。


「ここから、神殿までは、あと半日……」


 その言葉に目が覚めた。


「……また日が暮れたら、あいつらが来るんでしょ?」

「くうん」


 スザクが鳴いた。

 木から降りる時、足を滑らせてずり落ちる。

 巫女が受け止めた。


「いたた……」


 木の下で焚き火を起こし、簡単な食事とお茶を飲む。


 スザクも巫女に抱えられて地面に降りた。

 獣の生肉をもらって、がっつくように食べ始めた。


「……日向たちとは、連絡、取れた……?」


 フォーゲルに抱えられた日向のことを思う。


 千尋は……?

 

「蛙神の女神は、洞窟で一晩を過ごすと……」

「無事なのね!?」

「昨晩までは……それぞれで神殿を目指すことになり申した」


 私は手にした、木のお椀を地面に置いた。


「……千尋、は?」


 ミヤビは顔を背けた。


「男衆は、単独行動にて……居場所は掴めませぬ……」

「無事、だよね……?」 

「……」


 眉が寄る。

 眷属のキマイラの群れに飲み込まれた千尋の姿が、フラッシュバックする。


「白面の女神さま……神獣白虎の加護があらんことを、祈るばかりにござりまする」 


——神獣白虎の力が得られないと、千尋はもちろん、私たちも助からない……


 もう誰もこんなことで、死なせたくない。


「……神獣白虎、絶対に見つける」


 裏切りの女神とは、違う道を見つける。


 日が後ろから昇り始める。

 

 風が強く吹いた。


 荒涼とした石灰棚が目の前に広がった。


 窪地から地下水脈が溢れるように噴き出し、水が段差を流れ落ちる。


 雲ひとつない空に水が反射し、青と白の世界が広がっていた。


「この下には広大な洞窟が、広がっておりまする」


 ミヤビはごつごつとした岩場を歩きながら、薙刀を前方に差した。


「眷属の住処にて……」


 私たちは森を抜けて、ごつごつとした石灰棚を歩いていく。

 道はない。

 クロカンスキーで鍛えた私の足は、着実に岩場を捉える。

 全身を使ってよじ登り、しっかりと降る。

 その様子にミヤビが目を細めたのが見えた。


 巫女たち十名が付き従っている。


 残りの巫女は日向たちと行動を共にしているらしい。


 モノノフと騎士の生き残りも神殿に向かっているとのこと。

 昨夜の襲撃でどのくらいの死人が出たかは、聞かなかった。


 スザクは段差で巫女にその都度抱えられて進んだ。


 太陽が頂点を指す頃、谷底に神殿が姿を現した。

 神殿の周りはオアシスのようになっており、青々とした泉が陽の光を受けて輝いた。

 

 泉の真ん中に朱色の鳥居が見える。


 風が強く吹いた。

 あそこに火を吹くキマイラがいる。


 そして、勾玉がある。

 そして、きっと日本に繋がるトンネルがある。


 小休止となった。

 岩陰で火を起こしお茶を飲む。


「ミヤビさん。……あそこでピーコさんが、戦ったの?」


 ミヤビは遠い目をした。


「ピーコは、偉大なる母の血統……誰よりも女神の力が強く、誰よりも腕が立ちもうした……」


 ミヤビはピーコについて、初めて語り出した。

 

「ピーコは、そなたたちが来ることを予言していた……」


 神殿は光を受けて輝いていた。


「死の予兆……裏切りの予兆……そして、解放の予兆……」


 ミヤビは私を見つめた。


「……ピーコは、あやつは、幼き頃より、神の国に行きたがっていた」


 神の国……って、日本?


「あやつは、この地を捨ててでも、先祖の地を見たがっていた……それが魔を呼び寄せたのかもしれぬ……」


 ミヤビは、私たちがピーコに似ているって言ってた。

 そういうこと?

 裏切りの予兆って、私たちが裏切るって、バレてる……?


「血脈の婚姻の夜……魔の獣が襲ってきた……」


 ミヤビの顔が暗く沈んだ。


「……魔の獣って、神殿にいるって、火を吹くやつ?」


 私のつぶやきは聞こえていないようだった。


「魔の獣は空を裂き、炎を吐いた。屋根が燃えた。人が燃えた……ビャッコの都は、一夜で火の海になった……」

「……」

「ピーコは、一人(おとり)となり、魔の獣を都から引き離し……」

「……」

「我らも、マカーべら男衆も、ともに戦った……だが……」


 ミヤビの声が詰まった。


「……婚姻って、相手は、マカーべさん?」

 

 聞くべきかどうか、迷った。

 だけど、あのトンネルで千尋を見てピーコと言ったマカーべの顔を思い出した。

 聞かずにはいられなかった。


「……そうだ」

「……」

 

 あそこにピーコさんの仇がいる。

 ビャッコの都を焼いた魔の獣……


 『裏切りの女神』が作り出した魔の獣……

 ミヤビさんの『裏切りの女神』への強い憎悪……の理由。


 だけど、ピーコさんも裏切って、日本に行こうとしていた……?

 それで、魔の獣が襲ってきた……?

 喰われたという『裏切りの女神』の恨み……?


「あそこに、その魔の獣が、いる?」

「……ピーコの最後の打撃は、まだ癒えていないはず……」

「今、だったら……?」


 私の言葉にミヤビの目に力がこもった。


「今しかない」


 強い風が私たちの背後から吹いた。


——ビャッコの風、神獣白虎……


 お願い、私たちのもとに姿を現して……


 その時だった。


 神殿の方角から、風が唸った。



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