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神様やめたい ! 〜万バズから始まるJK三人組の異世界勘違い神話  作者: タキ マサト
第五章 裏切りの女神

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42話 血の森、戻れない道


 夜明け前には魔の獣の眷属は森に姿を消したらしい。

 私たちは三人で寄り添ったまま、うつらうつらとしていた。


 私は寝ている二人を置いて起き上がった。


「くうん」

 スザクが不安そうに私を見上げてついてくる。

「もう大丈夫だと、思う、スザク……」


 仮面をつけ、天幕の簾を開けて外を覗いた。


「うっ……」

 鼻が曲がりそうな血の匂いと獣臭が立ち込めていた。

 柵は壊れ、篝火台は崩れ、獣、倒れた騎士、従者の姿が見えた。

 青白い早朝の冷たい空気の中、呻き声が上がっている。


「マジ、か……」

「白面の女神さま……ご無事で、何より」


 ミヤビが片膝をついた。

 巫女たちが薙刀を地面に突き刺し、同じようにひざまずく。


 白装束は土と(すす)と血にまみれ、ところどころ破けていた。

 顔にも血が流れた跡があった。

 みな、疲労の色が濃い。


「無事って……そっちは、無事じゃない……」

 私は目の前の光景を呆然と見ていた。

 

「こんなに、危険なの……ここ?」

「眷属は、単独行動……このような群れになることは、今までになく……」

 ミヤビの声が震えた。

「なんで……?」

「眷属の数が、増えておりまする……」

「……」


「大勢の人が、死んだ……? フォーゲルさんは? アベーノは無事?」


 私の声は知らずに潤んでいた。


「この大軍に、我とした事が油断し申した……」


 ミヤビは悔しそうな顔をした。


 私は周りを見渡す。怪我をしているものは疲れきり、うずくまっている。

 死者には布が、かけられつつあった。


『女神さま! ご無事で!』


 フォーゲルが血だらけの姿を現した。

 宝物庫から持ってきたという大剣を腰に()いている。


「フォーゲルさん! アベーノたちは無事なの?」

「アベーノ、ミワーノ、ヨシーノともに無事、今は怪我人の手当てに当たっておりまする。カモーノは怪我を負い、部隊を退却させる所存」


 フォーゲルの説明をミヤビが訳した。

 フォーゲルは話を続ける。


 被害は甚大だった。

 騎士、モノノフの半数死亡、生き残りのほとんどが傷を負い、部隊としては壊滅状態。


「半分……になったの……?」


 あれだけの大軍が、私たちを讃える掛け声を上げていた人たちが……


「私たちを、守るため……に」


 巫女部隊三十名は死者こそ出なかったが、やはり皆、傷を負っていると聞いた。


「こんなの! 無理だよ! もう帰ろう!」


 後ろから声が聞こえた。

 日向のケロッパが簾から覗いた。

 その細い腕が震えていた。


「女神さまがた……これが……今の、ビャッコの現状にて……」

「だって、あんなのと戦ってるんでしょ!!」


 日向が指差す先には、斬り倒された獣の死骸があった。


 白い虎の胴体。

 だがその肩口から、山羊の頭が突き出していた。

 尻尾から生えた大蛇が、地面の上でまだ痙攣している。


 ツギハギだらけの不気味な体。


「キマイラ……」


  後から起きてきた千尋が、呆然とつぶやいた。


 スザクが唸り声を上げている。

 聞いたことのない声だった。

 毛を逆立て、後ずさる。


「眷属にて。まだ小さい方でございます……神殿にいるものは火を吐きまする」

「っ!」


 私たちは言葉を失った。


草薙剣(くさなぎのつるぎ)の呪いが強くなっているので、ございましょう」


 その言葉に私の背中が凍った。

 これだけの数の騎士、戦士たちが一晩で壊滅になったのだ。


「今も産み出されて、おりまする……」

「……今も?」


 思わず聞き返していた。

 ミヤビは、静かに頷いた。


 野営地を見回すと、同じキマイラの死骸が、いくつも転がっていた。


「あの、魔の獣を討たぬ限り、眷属は増え続けまする」


 私は喉が渇くのを感じた。


——どれだけ……いるの?


「これから、どうすれば……」

「早急に、神獣白虎をお出まし、あそばせなねば……」


 ミヤビは顔を上げた。


「すでに我らは、奴らの獲物になっておりまする」

「……」


 ミヤビの声が一瞬、詰まった。

 目を伏せる。


 私たちは不安げに周りを見渡した。


「……行くは地獄ながら……逃げるは、さらに悪手」

「……」

「神獣白虎は、道を示さぬものには、現れませぬ」


 ミヤビの瞳が陰を帯びた。


「行くしか、ない……?」


 私たちは顔を見合わせた。


「ここからは、徒歩にて」

「歩き……?」

「もたもたしていると、血の匂いを嗅ぎつけた獣が寄ってきましょう」


 森の奥から、獣の嘲笑(あざわら)うような鳴き声が聞こえてきた。

 ふと見ると、乗ってきた馬車は車輪が壊れていた。


「これだけの数の移動は、無理にて」


 ミヤビは周りを見渡した。


「怪我人は退却、我ら巫女と戦える騎士にて、この先はお供いたしまする」


 フォーゲルが部下からの報告を聞いて叫んだ。


「女神さまがた! カモーノが怪我人と護衛部隊を率い、退却いたしまする」


 ミヤビが訳していく。


「このフォーゲル! どこまでもお供いたしますぞ!」

「御主女神さまがた……このアベーノもお供いたし、そふらふ……」


 アベーノがフォーゲルの後ろから顔を出した。


「このミワーノ、医術の心得がある故、同行お願いいたし、そうろう……」

「このヨシーノも女神さまがた専属の書記官。同行、お許しくださいまし……」


 ミワーノもヨシーノも疲れた顔をしていた。

 私たちは顔を見合わせた。


「女神さまがたは、ご出発のご用意を……」

「さあ、御主女神さまがた、天幕の中へ」


 ヨシーノが簾をあげ、私たちを中に招き入れる。


「……いくしか、ない?」

 日向が言った。

「そう、だね……」

 千尋が我に返ったようにつぶやくが、ぼーっと立ち尽くしていた。


 その間、ミヤビは腹心の部下になにやら声をかけていた。

 部下の巫女は頷くと一隊を率いて森の中に入っていく。


 フォーゲルも部下に命令を下していた。

 そのフォーゲルとミヤビが現地語で言葉を交わし合っている。


「……出発の準備、するか」


 私はため息をついて天幕の中に入った。

 ここに突っ立っていても、何も事態は変わらない。

 二人も慌てて、天幕の中に入ってきた。


 動きにくい白装束を脱ぎ捨て、スキニーと薄手のパーカーを羽織った。

 それを見た二人も、着てきた服に着替える。


 リュックを背負う。

 千尋の重たい鞄は、ヨシーノが手に持った。


「この鞄は、ヨシーノが大事に持ち運びまする」

「お願いします。ヨシーノさん……」


 天幕を出ると、慌ただしい出発の準備がされていた。

 生き残った馬に食糧を背負わせる者。

 傷の手当てをしている者。

 退却部隊と出発部隊とにカモーノとフォーゲルがそれぞれ指示を出していた。


「女神さまがた……部隊を三つに分けまする」

 ほどなくして、ミヤビが声をかけた。


「先程、偵察として巫女を十名出発させてございます」


 ミヤビは西の方角を指差す。

 朝の太陽が昇り始めていた。


「本隊は、女神さまを我ら巫女隊とフォーゲル殿とでお守りいたす」


 キビキビと概略を伝えていく。


殿(しんがり)は、アベーノどのミワーノどののモノノフと騎士で兵糧を持参いたします」


 私たちはごくりと喉を鳴らした。


 今までは牛車、馬車の中でぬくぬくとしていたのだ。


 でも、もう戻れない。

 逃げたい、あのスミレさんがいる安全な都の宮殿に……


 だけど、ここから先は自分の足で進まなければならない。


 道を切り開く。


 そうしなければ、白虎には会えない。


 そんな気がする。


 そうじゃないと、誰も家に帰れないから……


 そのとき、森の奥から、冷たい風が吹き抜けた。


 私たちは森の中へと一歩を踏み出す。


 もう戻れない……



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