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神様やめたい ! 〜万バズから始まるJK三人組の異世界勘違い神話  作者: タキ マサト
第五章 裏切りの女神

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41話 裏切りの女神

 

 白い岩が塔のように林立していた。

 風と水と緑に浸食された大地。


 岩山にへばりつくように森林が広がる。

 スザク山脈の峠を越えると、眼下に絶景が広がった。


 それは美しさよりも、自然の厳しさ、いや、何か悪い予感として私の目に映った。


 風が吹く。

 馬車の(すだれ)越しに、私たちの白装束が揺れた。


 六百騎の騎馬を先頭に輜重(しちょう)の馬車、従者が歩いて続く。

 フォーゲルが先頭部隊で指揮をしていた。

 紹介された都の将軍の名前は忘れた。


 私たちの周りは、巫女たちとそれを囲むようにカモーノのモノノフが進んでいた。

 馬車の側では、常にミヤビが乗馬で付き添っている。

 時折、厳しい視線を周りに向けた。


「女神さまがた、ビャッコの土地にて、ござりまする」


 その雄大な景色を、楽しむ余裕はなかった。


「……ここに、ビャッコの眷属が……いる?」

「女神さまがたのお力にて、何卒、我がビャッコ神殿の解放を、お願い(たてまつ)る」


 人を襲うというビャッコの眷属……

 そして、神獣白虎……


「でも、私たちへの信仰が深まれば、ビャッコの眷属たちもいなくなるんじゃないの?」 

 私は冷静に指摘した。


 ミヤビは目を伏せた。


「ビャッコの眷属は、忌まわしき魔物にて、ござりまする……」

「どんな、魔物……?」

「ビャッコ神殿に巣食う魔物は、『裏切りの女神』の手で作り上げられし、魔の獣」

「……う、裏切りの、……女神?」


 ミヤビの目に憎悪の炎が灯った。

 私たち誰もが、その言葉に衝撃が走った。


——私たちも、裏切るつもり……


 いや、違う。

 もう裏切ってる……

 セイリューのあと、ビャッコに戻るつもりは微塵もない。


「マジ、やば……」

「う、裏切ったって、ど、どうして……?」


 千尋の声は、動揺を隠しきれない。


「神の国に、帰ろうとしたので、ござりまする」


 ミヤビの声はすべてを凍らすような冷たさを持っていた。


「ど、どうやって、帰るの?」


 日向がカマをかけるように聞いた。


「勾玉でござりまする」

「ま、勾玉?!」


 私たちは震え上がった。


 ここで、その単語が出てくるとは夢にも思わなかった。

 帰還条件を、ミヤビたちは、知ってる?


 その、勾玉で私たちもミヤビを裏切るのだ。

 しかし、ミヤビは私たちの思いを知ってか知らずか、話を続けた。


「それと、草薙剣(くさなぎのつるぎ)でござりまする……」

「草薙…… 剣?」

「……千尋? 知ってるの?」

「知ってるも何も…… 三種の神器の、一つ……」


 その言葉にミヤビがため息をついた。


「草薙の剣は、抜いてはならぬと、されるもの」

「女神であって、も?」


 千尋が聞いた。


「抜いたならば、祟りや疫病などの『神罰』をその地に与えると、されております……」

「祟り…… それで魔物が、生まれた?」

 

 ミヤビは首を振った。


「裏切りの女神は……」


 ミヤビはわずかに声を落とした。


「草薙剣を、振るったので、ござりまする」


「……え?」


「逃げる女神を追う当時の大巫女が呼び寄せた蛇と、山羊と、白虎を、断ち切り……」


 ミヤビの目が光った。


「そのとき、生まれたのでござりまする……」


 私たちはごくりと唾を飲み込んだ。


「……何が、生まれたの?」


「あの、魔物が」


 しかしミヤビはそれ以上語らなかった。


「……どんな、魔物?」


「草薙剣は、いまも、あの神殿にて……呪いを放っておりまする……」


「……」


「その、それで、裏切りの女神は、どうなったの?」


 千尋の手は震えていた。


「裏切りの女神は、勾玉を使って、神の国に帰ろうと……」


 もう、私たちは観念したように押し黙った。


「帰れなかった……」


 ミヤビが、はっきりと言った。


「勾玉ごと、喰われたのでござりまする」


「……!!」


 開いた口は、しばらく声にならなかった。


「……喰われた?」

「いやいやいや、無理でしょ……」

「そんなのと、戦う……?」


 日向と千尋の仮面の下の顔は、青ざめているのに違いなかった。


「でもでも、でも、昔の話でしょ?」


 日向の質問は、ミヤビによって打ち砕かれた。


「勾玉は、今も、その腹の中に」


 ミヤビは続けた。

 つまり、それを倒さない限り、私たちは帰れない。


「その忌まわしき魔物が産み落とした獣が、眷属にて……」

「そんなのと、どうやって、戦うの?」


 ミヤビが剣を西に向けた。


「女神さまがたのお力で、神獣白虎をお呼び立て、いただきたい……」

「……」

「神獣白虎の力を、女神さまがたとの契りで以って、回復さすれば……」

「……」

「鬼や魔性のものでは、ござりませぬ。信仰の力では、どうにもならぬもの故」


 そういってミヤビは厳しい目を石の林に向けた。


 ミヤビは、静かに言った。


「女神さまがたも…… その剣を、お振るいに、なられますか」

「……」


 簾の向こうから聞こえるその声は、それはさせぬ、という強い意志を感じさせた。


 もう倒すしかない……


 勾玉を集めるには……


 それしか、道はない……


 でも、帰るためには、裏切りの女神と同じことをするしかない?


——違う。


 なにか別の道が、必ず、ある。


 そう思おうとしていることに気がついた。

 そう思わないと、耐えられない。


 それには——


「……神獣白虎は、どこに行ったら会えるの?」


 私はかろうじてそれだけを言った。


「神獣白虎は、お怒りでございまする」


 ミヤビは淡々と語る。


「元来の眷属は、忌まわしき獣の眷属に駆逐され、力が弱まっております」

「……どうすれば?」

「神獣白虎は、ビャッコの風……道あるところに、顕現(けんげん)するのでござりまする」

「……?」

「女神さまがた……女神さまがたが、行く道が正しければ、その姿をあらわしましょう」

「……」


——過去一、厳しすぎる……


 でも、別の道があるはず。

 もし、それで神獣白虎が現れたなら、それは、正しい道……


「……なにか、ヒントになるもの、手がかりはないの?」

 千尋が深呼吸をして言った。


「過去の女神は、漏れなく神獣白虎と、契りを結んでおりまする」

「……契り?」

「裏切りの女神も?」

「裏切りの女神は、この地を守護する契りを破り、我ら巫女のみならず、神獣白虎をも裏切ったのでございまする」

「……」


 後席でヨシーノが筆を走らせる音だけが響いた。


 無言の馬車は、美しい石林の中に入っていく。

 スザク城を出てからすでに二日が経っていた。


 馬車は柵で二重に囲まれた野営地に入っていく。

 天幕に入っても、落ち着くことはなかった。


 天幕の周囲には、巫女たちが監視するように薙刀を持って囲んでいる。


「……マジか」

「ちょっと、どうなるの…… これ?」

「無理ゲーだな」

「くうん」


 私たちは小声で言葉を短く交わしあった。

 日が暮れた。

 遠くで獣が鳴く声が聞こえてくる。


 夕食のあと、天幕の外でミヤビの声がかかった。


「女神さまがた…… 夜は、眷属の時間にて、ござりますれば」

「……襲ってくる?」

「ご心配めさるな。我ら巫女衆。命をかけてお守りいたす」

「神殿には、いつ着くの?」

「二日後にて……」

「あと、二日で、神獣白虎に会わないといけない……?」


 スザクが唸り声を上げる。

 私はスザクを抱きしめた。

 そのまま毛布にくるまる。


 眠れなかった。


 モノノフの悲鳴が上がった。

 複数の蹄の音。

 思わず耳を塞いだ。


「ェェェェ……」

「ぎゃあ……」

「はッ!!」


 一晩中、眷属の襲撃が続いた。

 眷属の咆哮、モノノフ、巫女たちの怒声。

 叫び声は、夜明けまで止まなかった。

「マジヤバ……」

「これ、死んだ……」

「……」

 私はスザクの頭を強く抱きしめた。


 騎士の悲鳴、漂う獣臭、血の臭い。


 天幕のすぐそこで、獣の荒い鼻息が聞こえた。

 篝火(かがりび)の灯りが、巨大な四つ足の影を天幕に映し出す。

 長いツノ、蛇のような尻尾。


 風が吹き、天幕の簾が揺れ、白い姿が一瞬見えたように思えた。


 巫女の薙刀(なぎなた)が、風を切る音が聞こえる。


 私たちは恐怖の中、身を寄せ合って眠れぬ夜を過ごすしかなかった。


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