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神様やめたい ! 〜万バズから始まるJK三人組の異世界勘違い神話  作者: タキ マサト
第五章 裏切りの女神

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38話 古い盟約


「やっぱり……」

「ドラゴンって乗れる?」

「乗れる訳ないよ……」


 ラスボスは、ドラゴン……か


 千尋だったら、そう言いそうだと思った。


「ドラゴンが、ラスボス……」


 千尋がぼんやりとつぶやき、私は心の中で大きく頷いた。


「あの、古い盟約って知ってますか?」


 千尋が聞いた。

 私も聞いた言葉だった。

 古い盟約でゲンブの時みたいに巫女が助けてくれたら、ドラゴンも何とかなるかも……


「古い盟約ね……」


 スミレは話し始めた。


「私たちみたいに、神様にされた人って、今までにたくさんいるの」

「やっぱり……」

「それで、この世界が発展してきたのは事実なの」


 スミレはふかふかのパンを手に取った。


「私はこの世界で農業を変えたのよ。米は流石になかったけど、小麦は品種改良した」


 スミレさんもこの世界で貢献していた。

 だから、神様と(あが)められるに至った。

 日本からきただけで、誰でも神様になれるわけではないんだ……


「男の神、男神(おがみ)はスザク。女神はビャッコ。そういう取り決めがあったのよ」

「古い盟約…… それで私たちをビャッコに、それでミヤビさんが……?」

 千尋の顔が青ざめた。

「少し違う。ビャッコは偉大なる母の血脈を守るために、日本から来た男も必要としているの」


 マカーべとピーコ?


 私は千尋を見た。

 千尋は偉大なる母については詳しくは知らない。


 おそらくマカーべは、迷い人の子孫。

 ピーコは偉大なる母の子孫。

 迷い人だけで婚姻を結んできた人たち。


「なので、神候補を巡って古くから、取り合いで争いが起きたのよ……」


 かへりたし……

 私たちの頭の中には、その言葉が渦巻いていたに違いない。


「私は最初、男と間違えられたのね。ショートカットだったし」

 スミレは苦笑した。

「でも、女なのに神様にして、既成事実にして、ビャッコを騙したのよ」


 ビャッコの巫女たちが怒っている理由が、なんとなく想像ついた。


「迷い人ってビャッコは言ってるわね。神じゃない男はビャッコ、女神もビャッコ。男神はスザク。そういう取り決め。それが古い盟約。だけど、男神は、現れない……」

 

「つまり、どの神を、どこに取らせるかを決めたのが、古い盟約ってことか」

 私はうんざりした。

 そんなものに巻き込まれるなんて。


 私たちは、申し合わせたようにお茶を飲んだ。

 フローラルな香りが口に広がる。


「ストーク御神(おんかみ)の、子孫っていないの……?」


 千尋が、ためらいがちに聞いた。

 そうだ、子孫がいれば神の家系は続くはず。

 どこかに、いれば。


 しかし——


「神は、子を成さない……」

「……」


 そう言ってスミレはお腹をさすった。

 その行動に、ミヤビの言葉を思い出した。


 偉大なる母は、神になることよりも、母になることを選んだ。

 スミレさんは、母になる前に、神にされた……?


 私は隣で丸まっているスザクの頭をなでた。

 スザクは心配そうに私を見上げた。


「でも、どうしたら本物の神って認定されるの? 誰に? 玄武? 朱雀?」

 私は混乱した頭で問いかけた。


——勝手に神と祭り上げられても、子どもが作れなくなるという変化が起きるなら……

 人間じゃ、なくなるなら……?

 どういう理由?


「神っていっても、レベルがあるみたいなのよ」

 スミレはため息をついた。

「私がきたとき、スザクの国も鬼で溢れてた」

「……」


 あの神廟のサイクロプスを思い出して、ゾッとした。


 スミレは続ける。


「神がいることで、鬼がいなくなるのよ……」


 私は思わずつぶやいた。


「でも、ゲンブには魔性のものがいたし、ビャッコには眷属がいるし……?」


 大世界神がいるのに……?

 そして、セイリューには、ドラゴン……


「そう、人々の信仰の力で、その土地の鬼が鎮まる……」


——つまり、この世界には、神が必要?


「だから、大世界神って祭り上げられても、私が集められる信仰、神のレベルはその程度」


 ビャッコの巫女は、スミレさんを認めていない。


「ストーク御神みたいなカリスマがあれば、この世はおさまる……」

 千尋がつぶやいた。

 この世界の仕組みが、(おぼろ)げにわかってきた。


「そう、だから神にされた。そして、鬼がいなくなった。農業の貢献もあるけどね」

「……」

「でも、神廟には、鬼がいたよ?」

「神廟は、どこにも属してない…… この世界の中心」

「……」


 私たちは神廟を開放して、ゲンブの魔性のものを鎮めた。

 スミレさんより、神レベルは上になる気がする。

 ゲンブの住民の崇拝の目を思い出して、寒気がした。


 モノノーベが焦った理由が分かった気がする。

 アベーノが興奮した理由も……


「厳しいなあ。……誰でも神になれるわけじゃないんだね」


 日向が口に運びかけたパンを止めて、うんざりした顔をした。


 いや、それよりも——


 私たち、女神として信仰されたら、強制的に神にされて子どもを産めなくなっちゃう?

 私はその嫌な想像を口にすることができなかった。


——でも、もう遅い……?


 ゲンブではきっと、もう私たちを信仰の対象としているはず……


「他にも、転移してきた人がいるって話は?」

 千尋が聞いた。

「そう…… 私が知る人は、二十年前、タキさんって男の人だけ。無職のプー太郎……」

「死んだっていう人……?」


 ミヤビの話と符合(ふごう)した。


「そう…… なんの取り柄もない、太ったおじさん。でも、争いで血が流れた……」

「ガチャみたい……」

 日向がつぶやいた。

「最悪な神ガチャ…… ハズレガチャだから、死んだ?」

 千尋の顔も青ざめた。


「ガチャガチャね、面白いこと言うわね」

 スミレはガチャに反応したが、表情はすぐに沈んだ。


「彼は、神にもなれず、血脈にも選ばれず、騒乱の罪で処刑された……」


 スミレの一言に私たちは言葉を失った。


「仕方ないのよ。この世界は、そうやって回ってるんだから」


 その一言に私の背筋が凍った。


——初手に仮面を被ってなかったら……


 神と誤解されずに古い盟約で、ビャッコに連れて行かれてた……?

 そして、女神の証明として、スザク山で焼き殺されていたかも……?


「……古い盟約、反故にされたって…… どういうこと?」


 私は気になっていたことを聞いた。


「あなたたち、よりにもよってアベーノのとこから、来たでしょ?」

「仕方ないし…… 選べないし……」

「そう、仕方ないの。モノノーベはあなたたちを女神とは認めたくない。もちろんアベーノにも認めさせない……」


 スミレの声が低くなった。


「そして女神かもしれないあなたたちを、ビャッコにも渡したくない。だから邪神として、葬り去ろうとしたのよ……」

「それで、盟約を破った……」


 太陽が雲に隠れた。

 肌寒くなったのは、気のせいではなかった。


「本当に女神だったら、モノノーベが困るから?」


 千尋が何かを理解したように聞いた。

 スミレはうなずいた。


「そう。ゲンブを鎮めた。もし本当に四神の地を統一してしまったら、ストーク御神以来の大事件。この世界の信仰、その主導権は、ビャッコに移る」


「そうなったら、スミレさんは……?」

「そう、モノノーベと一緒に失脚するでしょうね」


 ミヤビの勝ち誇った顔が浮かんだ。


「アベーノはビャッコの巫女と同盟して、スミレさんたちを追い出すつもりだった……?」


 推測に過ぎない。でも、疑うには充分だった。


「マジか…… あのハゲ。なんか、怪しいと思ってたけど……」

 日向が腕を組んで首をかしげた。


「誰を信じていいのか、分からない……」

 千尋が首を振ってつぶやいた。


 私は、偽神と言い切ったミヤビの顔が思い浮かんだ。

 アベーノ、ヨシーノのモノノーベへの強い憎しみ。


 でも——


「でも、アベーノたちだけは、私たちを信じてたのは本当だと思う……」

「……確かに、浄化槽でアベーノがいなかったら、正直ヤバかった……」


 日向もアベーノへの不信感と助けられた間で混乱しているようだった。

 アベーノは私たちを利用しようとしているけど、それだけじゃない気がした。


「モノノーベ、あいつ。……ガチで、殺す気で来てた?」


 日向が寒そうに腕を抱いた。

 スザクが顔を上げて、くうんと鳴いた。


「あの人、モノノーベも…… そう簡単に終わる人じゃないね……」


 モノノーベの憎悪に燃えた目を思い出した。


 スミレさんは味方?

 それにマカーべさんも?


「私たちって一体、何だろう?」

「ふくざつ……」


 日向がひっくり返った。

 重苦しい空気が、明るい空間に立ち込める。


「……」


 その空気をほぐすようにスミレが手を叩いた。


「さあ! お風呂、行きましょッ!」


 スミレは立ち上がり、鈴を手にする。

 その声に日向は飛び起きた。


「お風呂っ!!」

「嬉しいッ!!」

「やったー!!」


 私たちの目は一瞬にして、輝きを取り戻した。

 スミレはやさしく微笑んでいる。


「もう十日くらい、風呂入ってないし……」

「不潔ッ!」

「柚月もでしょ!」

「体、拭いてたし!」

「風呂上がりに、あの牛乳!」


 スミレは鈴を鳴らした。


『入浴の準備を』




  *




「あー! 気持ち良かった!!」

「天国だね、ここは!」

「三人で入れて本当に良かった……」


 私たちは新しい巫女の服に着替えた。

 そして客間に通された。


「ふかふかのベッド!!」

「やばい、もう眠い……」

「疲れ過ぎた……」


 私たちはベッドに倒れ込んだ。

 もう夕方だった。

 

「夕ご飯食べるまで、我慢だよ! 柚月!」

「何が出るんだろう。楽しみ……」


 私たちは昼間にスミレから聞いた複雑な権力闘争については、何も考えないようにしていた。

 帰ることについても、今は何も考えない。


 白虎の眷属、暴れる竜…… なんて知らない……

 今日は、美味しい夕食を食べて、ふかふかのベッドで寝る。

 明日からのきっと、苦難に満ちた道のりについても、何も考えない。


 なるようになる。

 それだけ。


 みんな、明るく振る舞っている。

 だけど、この残酷な世界で、いつ殺されるか分からない。


 私はベッドで丸まっているスザクの頭に触った。

 スザクの毛は、温かくてふわふわだった。


 それだけを、今は確かめていた。



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