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神様やめたい ! 〜万バズから始まるJK三人組の異世界勘違い神話  作者: タキ マサト
第四章 囚われの女神

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35話 女神の証明


——女神であるという、証明……


 私は宮殿の謁見の間で立ち尽くしていた。

 モノノーベの顎が上がった。

 その目が冷徹に光る。


 あの夜、あのスミレにも言われた言葉だ。

 あのときは、「瀬をはやみ」で切り抜けた。


 だけど、今、勾玉(まがたま)を出してなにも起きなかったら、詰む。


 人々は私の一挙手一投足に、視線を集中している。

 背中に冷たい汗が流れた。


——ブラフをさらに、かますしかない……


 頭をフル回転させろ! 千尋!

 私の小説の主人公のように……


「……黙り込んでおる……やはり、にせ——」

「モノノーベよ!」

 

 モノノーベの発言にわざと被せるように、叫んだ。


「あなたの祖先は、ケータイ祖神に仕えた物部(もののべ)の一族……」


 私は息を吸い込んだ。

 物部氏は大和朝廷の重鎮。

 その名前を与えられているモノノーベ。

 アベーノたちの時代のストーク、いや崇徳天皇とは明らかに違う一派。


「長い間、あなたの一族は、神の降臨を待ち続けた!」


 賭けだった。

 アベーノたちと同じだ。


 心臓の鼓動が喉元まで迫り上がっているのを感じる。

 今にも、膝から崩れ落ちそうだった。

 でも、今ここで挫けるわけにはいかない。

 

 果たして、モノノーベの目が見開かれた。


「その忠誠! ケータイ祖神も、さぞお(よろこ)びになりたもう!」


 その私の言葉は人々の間に、驚愕の表情を広めた。


「お、お…… ケータイ祖神の名を……」

「まさか…… 大祖神様の……」


 その反応に、私は確信を持った。


「なぜならば…… 神は降臨した!」


 私は両手を広げる。


「ケータイ祖神の生まれし神の国、越前。同じ伊福の地より降臨せしスミレ大世界神」


 私は立ち上がった。

 お芝居は苦手だけど、私は私の造形する主人公になりきるしかなかった。

 

「まさしくこの四神(しじん)の地の神である!」


「四神の地……」

「まさしく……」

「……!」


 私はモノノーベをまっすぐ見据え、一歩踏みだす。


「大世界神スミレ様…… そしてこの三女神…… 神の国より降臨し、四神の地を回復するものなり!!」


 さらに踏み出して、両手を掲げた。


「四神の地を、回復……!」


 一人の老神官が、両膝をついた。


「神廟! 鬼の棲家!」


 また一歩踏みだす。


「ゲンブ! 魔性のものに奪われし地!」


 ゆっくりとモノノーベに歩を進める。

 モノノーベの顔が青ざめていく。

 その口が何かを、話そうとして開いた。


「神獣玄武!」


 私はゆっくりと一歩、足を出す。

 モノノーベは一歩、後ずさりする。


「三女神の要請に応え、八百五十年ぶりに姿を現した!」


 大声で話しているうちに、アドレナリンが湧き上がってくるのを感じていた。

 緊張はしていたが、もうあがってはいなかった。


「これを…… これをッ! 女神の証明と言わずして、何を証明と言うのですか!!」


 謁見の場が静寂に包まれた。

 何人かの神官が膝をついた。


「神の…… 降臨……」

「まさしく……」


 次々と、人々がひざまずく。


 私は胸元のお守りの中の勾玉が、熱を発しているのに気がついた。


——なんで、……今?


 人々の頭を見回す。


「神は降臨した」

 その言葉に、人々が反応した。


 その思いが、勾玉を呼び覚ました……?


 胸元からお守りを引っ張り出した。

 目も(くら)む光が、布越しに漏れていた。


「これを見よッ!!」


 青く輝く勾玉をつまみ出し、高く掲げる。

 私の指の先で青い光が、広大な謁見の間を照らし出した。


「お、ぉぉ……」

「そ、それは、まさか……!」

『三種の神器の、一つ……!』

「玄武の、勾玉ッ……!!」


 そのとき——


 謁見の場に、影が落ちた。


 いつの間にか、気温が上がっている。


 熱い。

 それは私の口上のせいでも勾玉のせいでも、なかった。


 汗が噴き出る。


「な、何だ……?」


 高い天窓の明かり取り。

 真紅の翼。


 炎の塊が通り過ぎた。


「ま、まさか……!!」


 それは炎を(かたど)った鳥のようだった。

 老神官が震える声で言う。


「あ、あれは、神獣…… 朱雀……!」


——柚月……だ


 さすがッ!


 さすが、柚月……


 タイミングが、神ッ!


 私はその真紅の翼を見上げて、涙が出そうになった。





  *





「マジで、悪代官みたいなんですけど……」


 私たちは城を知るものの手引きで、地下から抜け出した。


 途中、厳重に警備された豪華な扉を見つけた。


 騎士に誰何(すいか)されたとき、フォーゲルの剣が閃いた。

 騎士の兜が高い音を立て、ひしゃげた。

 二人の騎士が崩れ落ちる。


 扉の鍵は、フォーゲルのバカ力で粉砕された。

 部屋の中は、宝物庫のようだった。


 金銀財宝、絵画、彫刻、煌びやかな武具が所狭しと飾られていた。


「……ドン引きなんですけど」

「ドンビキ……? おお、女神様が、このお宝を持って行ってよし、と仰せになられる」

「……いや、そうは言ってないですけど……」


 私は、金のネックレスをつけようとしたアベーノに冷たい視線を向けた。

 アベーノは途中で気絶させた神官から服を奪い、それに着替えていた。


『これは、良い業物(わざもの)だ……』

 フォーゲルは、いの一番に大剣を手に取っていた。

 質素であるが、その刃の輝きは素人目にもタダモノではないと思わせた。


 フォーゲルは物欲しそうに私をじっと見つめた。


 沈黙。


 誰もが動きを止めた。

 固唾を飲んで見守っている。

 誰かがごくりと唾を飲み込んだ。


「はあー……仕方ない……」


 私が項垂(うなだ)れたようにうなずくと、歓声が返ってきた。

 目を輝かせ、我先にとお宝に飛びついていく。

 

「今、使うものだけッ! 武器だけッ! もともとは国の人のお金でしょ!」


 私の叫びに、囚人たちの動きが止まった。


「これは、権威を高めるのに、必要なものにて……」


 アベーノが口ごもるのを、私は睨みつけた。

 名残惜しそうに、嵌めた指輪を元に返す。


 そのとき、私の目に見覚えのあるものが入った。


「千尋のカバン!」


 豪華な木のケースの上に飾られていた。

 木のケースを開けると中に、持ち物が並べられていた。


 スマホ、教科書、万年筆、きれいに畳まれたブラウス……


「なんか、並べ方が、オタクっぽいし……」


 ため息をつきながら、千尋のカバンに丁寧に戻していく。


「あっ! 私のリュックもある!」


 千尋のとは違い、床に転がっていた。

 中身を確認すると、開けられた様子はない。

 自分のスマホを手に取り、胸に抱く。


「良かった……」


 三人で撮った写真、動画……


 無くしたら、二度と元に戻らないデータ……


 リュックを背負い、千尋のカバンを肩にかけた。

 ずっしりとした重みが、肩に食い込む。


「はー! さっさと行くよ!!」

   

 モノノフたちはホクホク顔で新しい武器を手に取っていた。

 アベーノは黄金の錫杖を手に持ってこちらを、ちらと眺めた。


 城壁の外との格差を思い出す。

 本当に碌なもんじゃない。

 趣味が悪いったらない。


 頭を振って、さらに複雑な道のりを上に登っていく。


「本当に迷路みたい……」


 城の中を知るものも、ときどき道を見失っているようだった。

 通路からは絶え間なく、騎士たちの足音と叫びが聞こえてきていた。


 いつ見つかるか、分からない。

 近くにいるような気もするし、遠いかも知れない。

 叫びが反響し、前後、どちらから聞こえてくるのか分からなかった。


 百名の囚人、モノノフ十名という大所帯だ。

 私はモノノフに囲まれて、通路を歩く。


 しかし、通路の角を曲がったとき、ついに騎士たちと鉢合わせをした。


「やばっ! 見つかっちゃった……」

『女神の名を(かた)る謀反人ども!』


 先頭の騎士が叫ぶ。


『大神官モノノーベより死罪の命令が出ている! 大人しくお縄につけ!!』


 続いて騎士が大声を張り上げた。

 後ろからも城の騎士たちが駆けつけてくる音が響いた。


「どうしよう……? フォーゲルさん……」

『あまつさえ、宝物庫を荒らすこの盗人ども! 死罪では足りん!!』

「多分、あれ、お宝のこと言ってる?」


 フォーゲルが負けじと怒声を上げた。


『黙れ! 佞臣(ねいしん)モノノーベ! その悪行の数々、宝物庫がそれを証明しておるわ!』

『こちらにおわすお方をなんと心得る! 恐れ多くもセイリューを司る女神! 蛙神(かえるかみ)の女神であらせられるぞ!!』


 アベーノが宝物庫から盗んできた黄金の錫杖を打ち鳴らした。


『ええい! 出会え出会え!!』


 言葉が分からないけど、時代劇みたいだと私は思った。


——でも、殺し合いなんて、絶対にダメ!


 フォーゲルと騎士たちの剣が近づく。


 一瞬の沈黙。

 緊張が走る。


 私は、息を思い切り、吸い込んだ。


 そして——


「や・め・な! さーいッ!!」


 耳をつんざく絶叫が、私の口からほとばしった。

 私の高い声が通路にこだましていく。


 はっと両軍の動きが止まった。


 気がついたら足が動いていた。

 そして先頭にまで走って出ていく。

 私は、ケロッパのお面を外して、高く掲げた。


 騎士たちの視線が、お面と私の顔に注がれた。

 あっ、という顔になる。


 条件反射なのだろう、騎士たちが一斉に目を伏せた。


『……黒き髪……黒き(まなこ)


 誰かからつぶやきが漏れた。


「女神の前で! 殺し合いなんて、やめなさい!!」

『本来ならば、神の顔を見たならば死罪! ……尊い女神のお慈悲に免じて、許してつかわそうと仰せじゃ!!』


 アベーノが錫杖を床に打ちつけた。


『ひれ伏せ!! 女神の御前であるぞ!!』


 ふんどし一丁のときとは別人のような威厳のある低い声だった。


『ジョーカソーから抜け出たこと! これこそ、女神の加護なり!』

『神は、大世界神スミレ様だけでは! ない!!』


 フォーゲルも大剣を掲げた。


「は、はー!」


 騎士たちが一斉に片膝をついた。


——モノノーベがいつも、こうやってるから……?


 条件反射になっちゃってるんだ、この人たち…… 


 そして、恐れてるんだ……


 浄化槽から、出てきた私たちに……


 本物の神様じゃないかって……


 私は再びお面をつけた。

 膠によって補強されたケロッパは廊下の松明で光り輝いていた。


 私は再び、息を吸い込んだ。


「モノノーベの元に! 我らを案内せよッ!」



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