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神様やめたい ! 〜万バズから始まるJK三人組の異世界勘違い神話  作者: タキ マサト
第四章 囚われの女神

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34話 朱の翼、青の仮面(二)


「わんわん!」


 スザク……?


 助けないと……

 私は手を伸ばそうとした。


 ぼんやりと炎の中に、赤い光が見えたような気がした。

 スザクは燃えていなかった。

 

「ス……ザク?」

「わん!」


 首輪についたGPSライトが、炎に反射して赤く光っていた。

 スザクが近づいてくる。


 私はその光に手を伸ばす。

 指先は黒くただれ、骨まで焼けているようだった。

 

 そして、スザクに炭化した腕で抱きついた。


——温かい……


 スザクの体温を感じる。


 なんで、スザクは無事……?

 神獣の使い、だから……?

 女神だったら、燃えない……?


 私は女神だ……

 女神じゃないと、誰も助けられない……


「スザク? ……スザクッ!」

「わん! わん!」

「……なんで、スザクは、大丈夫なの……」

「わん!」

「……スザク?」

「……ダイジョウブ」


 スザクが吠えた。

 その吠え声は、そう言っている気がした。


「スザク?!」

「……ダイジョウブ。コワクナイ」


 スザクの言葉が、分かったような気がした。


「……え? スザク喋ってる?」

「ユヅキ……モウ、ダイジョウブ」

「大丈夫……?」


「えっ!?」


 私は手を見る。

 黒く、焦げて……


「……あれ?」


 黒くない。


「熱く……ない?」


 さっき、確かに焼けた。

 骨まで焼けただれてた。


「でも、治ってる……?」


 炎に巻かれた回廊。

 しかし、熱は感じなかった。


「な……んで……?」


 最初から、焼けてなかった……?


「スザクのおかげ……?」


 そのときスザクから声が聞こえた。

 

「その獣に、感謝するが、よい……」

「え? 誰?」


 私が抱いていたスザクが赤く燃えだした。

 回廊の炎が、スザクに集まっていく。


「その獣の意志と汝の心に眠る炎に、呼び起こされた……」


 スザクの背中から、真紅の翼が生えていく。


「スザク……?」

「この獣、この『スザク』の体を借りよう……」

「……あなたは ……神獣、朱雀!?」


 スザクの体は炎をまとい、鳥の姿になっていく。


「久しいな……ストーク以来じゃ……」

「八百五十年前……崇徳天皇……」

「そんなになるのか……なかなか、我を起こそうという者は、おらんかったな……」

「私って、女神なの?」

「知らぬ……どうでもよいこと」

「え……?」

「女神かどうかは、人が決めること……」


 スザクが炎の翼を広げ、首を下ろした。


「じゃあ、なんで……私を助けてくれたの?」

「誰も、助けてはおらん……我の寝ているうちに、勝手に焼け死ぬだけよ」

「スザクが起こしたの?」


 私は炎の首を抱きしめた。


「乗るがいい……どこまでも飛んでいこうぞ」

「スザク!!」


 私はその背中にしがみついた。

 炎の首筋にしっかりと両手を回す。


 気がつくと炎の回廊は消え失せ、火口の底に私たちはいた。

 青空が広がっている。


 熱が消えていた。

 鈴の音は止んでいた。


「……神獣朱雀!!」

「まことの ……女神」


 ミヤビの姿が、下に見えた。

 見開いた目から流れた涙が、太陽に輝いた。

 巫女たちがひれ伏した。


「スザク!! 行って!! 千尋と日向のところに!!」


 神獣朱雀は炎をまとい、羽ばたいた。

 炎を引いて浮き上がる。


「ジェットコースターみたい!」


 ふっと無重力。

 そのまま朱雀は上昇していく。


「ミヤビさーん!! 都へ、先に行ってるからーっ!!」

 

 私はミヤビに手を振った。

 神獣朱雀は私を乗せ、澄み渡った青空に舞い上がった。


「すっげえ!! 日向と千尋も乗せたい!!」


 スザク山はあっという間に小さくなっていく。


「スザク!! 都に行って! 待ってて!! 千尋ッ! 日向ッ!!」

 


 


  *





 複数の鎖帷子の音と叫び声とともに、ブーツが駆け出していくのが私たちが潜んでいた棚の下から見えた。


「行った?」

「まだで、そふらふ……」

「……これ使ってるかな?」


 棚の中には大小の陶器の壺があった。

 蓋から『浄化槽』で嗅いだ匂いが微かにした。

 ヨシーノはその小さな壺とあの不気味なお面をつけて、そっとその場を離れた。


「ヨシーノ、本当に、大丈夫かな……?」

「蛙神様の加護を受けたお面を被っているので、ござりまする……」


 あの不気味な仮面を被っていたことで、あの薬品の影響を相殺していたらしい。


「神木から削り出した仮面ゆえ……」

「アベーノは、何で大丈夫だったの?」

「あそこに入れられたばかりで、御主女神さまに会えたので、そふらふ……」

「よかったね、私にすぐ会えて」


 アベーノは目に涙を浮かべた。


「まさしく、まさしく、御主女神さまの奇跡で、そふらふ……」

「しっ!」


 誰何の声。

 鎧の金属音、走る音。

 壺の薬品を通路に撒いていたのだろう。

 浄化槽の臭いが流れてくる。

 騎士たちが倒れる音が響いてきた。


「……薬が、効いてる」


 私たちは息を潜め、音だけで判断している。

 ヨシーノの声は聞こえてこない。

 暗闇の中で、聴覚と嗅覚が、やけに研ぎ澄まされていた。


「まだ、無事」


 ヨシーノが鍵の束を持って、牢屋の鍵を開け回っている。

 大仰に騒いでいるのが響いてきた。


 騎士の悲鳴と蛙神を讃える叫びが通路にこだまする。

 私とアベーノは無人となった詰め所でヨシーノの無事を祈っていた。


 そのとき、詰め所の入り口に影が二つ立った。

 一瞬の緊張。


 そして、


『オンアルジメガミ様……』


 不気味なお面をつけたヨシーノが詰め所に入ってくる。

 その後ろに逞しい髭のおじさん。


「フォーゲルさん……!」

「フォーゲル卿も、捕まっていたので、ごじゃりまする……」

「酷い! フォーゲルさん、何も悪くないのに!」

「まさか、スザク城主であるフォーゲル殿まで、問答無用で地下牢に落とすとは……モノノーベめ、なりふり構っておらぬ様子……」

 アベーノが憤慨して言った。


 フォーゲルは騎士から奪った剣をきらめかせて、片膝をついた。

 アベーノとヨシーノも片膝をつく。


「囚人、およそ百名……この城を、熟知しているものも……」

『捕まったモノノフも、十名、待機しております』


 アベーノがその先を引き継いだ。


「御主女神さま……モノノーベと対決しましょうぞ! 号令を……」


 ふんどし一丁のアベーノ、顔が腫れたヨシーノ、薄汚れた髪と髭が爆発しているフォーゲル。

 それぞれの顔を見回す。

 拳が知らず知らずぎゅっと握られた。


 通路に出ると、一斉に人々が片膝をついた。

 通路の先まで、頭が続いている。


 痩せこけた人。

 傷だらけの人。

 泣いている人。


『女神さま……』

『マジャバ……』


 押し殺せないつぶやきが、人々の口から漏れる。


「こんなに……捕まってたの?」


——許せない!


 柚月! 千尋! 待ってて!


 私はケロッパのお面をつけた。


「モノノーベのヤツ!! 絶対にっ! ボッコボコにしてやる!!」



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