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神様やめたい ! 〜万バズから始まるJK三人組の異世界勘違い神話  作者: タキ マサト
第四章 囚われの女神

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34話 朱の翼、青の仮面(一)


 スザクが火口を降りていく。

 私も、その後を追う。

 足元が、崩れる。

 滑りやすい。

 脆(もろ)い岩と砂。


「わっ……」

 バランスを崩す。

 ミヤビが後ろから支える。

「大丈夫じゃ」

「ありがとう……」


 岩と砂の急斜面を、斜めに足を取られながら下に向かう。


——クロカンスキーがあればなあ、すぐ下にいけるけど……

 

 硫黄(いおう)の臭いは少し強くなってきていた。


 毒ガスだよね…… これ?


 ゆっくり、行かないと。

 危険そうだったら、すぐ戻る。


「スザク! 大丈夫?」

「わん!」


 地表からの熱が足元から伝わってくる。


——活火山……噴火しないよね……? まさか……


 そのとき、巫女の持つ鈴がシャンシャンと鳴り響いた。


 空気が清浄になっていく。


「え? もしかして、バフ? かけた?」

「女神の術じゃ…… 我らから離れぬよう……」


 後ろからミヤビの声がかかった。

 

 足元の熱も、おさまっていく。

 しかし、白煙を上げる地表は熱そうだった。


「めっちゃ、便利じゃん」


 息がしやすくなった。


 やがて火口の底につく。

 見上げるとサラダボールの中に、放り込まれた蟻のような感覚になった。


「……そこじゃ」


 隣に来たミヤビが指を差した。

 そこには暗い洞窟が口を開けていた。


 白煙で視界が霞む。

 巫女の鈴の音がさらに大きくなった。


「……この中に、いるの?」

「火の試練じゃ。今までに誰も、乗り越えた者は、いない……」

「それって…… 乗り越えられなかったら…… どうなるの?」

「全滅じゃ……」

「全滅って……?」

「……」


 ミヤビさんたちも、命をかけてる……

 こんな、私たちのために……


 スザクが唸り声を上げた。


「スザク? 何かいるの?」


 そのとき、スザクが走り出した。


「スザク! だめ、鈴のバフの向こうに行ったら!」

「急ごう!」


 私たちは走り出した。

 洞窟の中は、熱気に溢(あふ)れていた。


 鈴の浄化を通しても、焼けるように熱い。

 岩壁に火が走っているのが見える。

 それが洞窟の光源になっていた。


 ほどなくして、スザクが立ち止まった。


「火の試練……?」


 その前には、炎で出来た回廊があった。


「さあ、白面の女神。お面をつけるのじゃ」

「……ここ?」

「見せてもらおう。女神の証明とやらを……」


 私はリュックから能面を取り出した。


 どこかで聞いたセリフだと、思いながら。





   *





 冷たく暗い地下通路、濡れた体は急速に冷えていく。

 血の匂いと腐臭が漂う。

 松明のぼんやりとした明かりが、心の底からホッとした。

 

——あんな暗闇の中にいたら、普通、発狂する……


 今更ながら、気がついて愕然とした。


 柚月と千尋じゃなくて、本当に良かった……


 あの二人だったら、きっと、ここまで来られなかった……


「それにしても、アベーノのヤツ、遅すぎ……」


 私がいてもたってもいられず立ち上がったとき、松明の先から声がした。

 アベーノがそこから顔を出して手を振る。


「御主女神様…… こちらへ、渡らせたまえ……」

「はいはい。わたりますよ。わたるけど、そっち渡って大丈夫なの?」


 アベーノがいたところは狭い通路になっていた。

 そして、その手に新しい巫女の服とパンを持っていた。


「アベーノ! 気が利くじゃん! ごめんね、使えないヤツなんて言って」

 アベーノはふんどし一丁だった。


 貧弱な体が松明に照らし出される。


「アベーノ、裸!」

「着ていた服を守衛に、嗅(か)がせたのでございます」


 そう言ってアベーノはジャラと鍵の束を出した。


「これって……?」

「牢の鍵にてそふらふ……」

「やるじゃん!」


 私は着替えながら、パンを口の中に押し込んだ。


「ふぁへーの…… ほっち見ないへ!」

「こちらの牢は、政治犯でごじゃります」


 暗がりからヨシーノの声が小さく響いた。


「……ヨシーノ!?」

「今少し、お静かに……」


 ヨシーノは口に手を当てた。

 巫女の服は薄汚れ、顔は腫れていた。


「……ヨシーノさん その顔……ひどい事する」

「それでも食事は摂れていたので、ごじゃります」


 ヨシーノは私に顔を向けた。

 そして懐から風呂敷を取り出す。

 風呂敷を広げると真綿に包まれた、青いお面が現れた。


「ケロッパじゃん! なんで?」

「直していたので、ごじゃります。奪われぬよう、必死に懐に隠しておりました」


 お面のゴムを通す穴が、膠(にかわ)のようなもので補修されていた。

 ゴムの代わりに紐が通されている。

 ひび割れも埋められ全体的にテカテカと光っていた。


「ありがとう!」

「その木の仮面はわたくしがつけて、囮になりまする」


 ヨシーノは木のお面を受け取ろうと、手を差し出した。


「いやいやいや。そんな事させられないっしょ!」


 私は即座に拒否した。


「みんなで、ここの人たち解放して、脱出しよう!」

 


 


   *




 巫女の鈴がシャンシャンと鳴り響き続けている。

 私は能面をつけた。


——私は、女神だ……


 女神か、どうかは分からないけど……


 でも、女神じゃなかったら、みんなここで死ぬ……?


 私は立ち止まった。

 スザクが不安そうに私を見上げた。


 スザクが走り出す。

 まるで、私の背中を押すように大丈夫だよ、というように火の中に飛び込んでいく。


「スザク!」


 スザクは炎に巻かれて姿が見えなくなった。


——行くしかない!!


 でも、怖い。


 本当に、大丈夫?


 焼け死ぬ、かも?


「……」


 回廊の入り口に戻ってきたスザクが、炎の中から私を見ている。


 大丈夫だ、と。


——千尋……


 日向……


 待ってて。


 私は、一歩踏み出した。


 そして、飛び込んだ。


 炎の中へ。


 熱風が鼻と喉を襲った。


 羽織ったパーカーに一瞬にして火が燃え移る。

 髪が燃えて、頭が、顔が焼けていく。


「あ、あ、ぁ……」


 喉が、舌が焼かれて、声が出せない。

 指先が焦げていく。


——熱い…… やっぱり火だったじゃん……


 ここで焼け死ぬ……


 スニーカーが一瞬にして燃え上がった。

 スキニーに燃え移り皮膚が悲鳴を上げる。


——本物の火……


「……ぁ」


 全身、炎に包まれ倒れ込んだ。

 息ができない。


——死……


 女神じゃ、なかったから……?


「わん!」


 消えゆく意識の中で、スザクの鳴き声が聞こえた気がした。



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