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神様やめたい ! 〜万バズから始まるJK三人組の異世界勘違い神話  作者: タキ マサト
第四章 囚われの女神

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33話 知らない星空、見えない出口 (一)

 六頭の馬は、スザク山を目指して登っていく。

 ミヤビの前には、毛皮を着込んだ地元の猟師が先導していた。


 午後の日差しが西に傾く。


 森林限界はとうに超え、岩だらけの稜線(りょうせん)を馬に揺られていた。

 冷たい風が、下からつきあげた。


「今夜は、峠で野営じゃ……」

「うへえ…… 怖いんですけど……」


 馬は両端が切り立った断崖絶壁(だんがいぜっぺき)を降りていく。

 ぎゅっとミヤビにしがみつく。


「安心しろ、馬も死にたくはなかろう……」

「そうだろう、けどさ……」


 日が沈む前に、再び森林に入った。

 そこには水場があった。

 そこに簡素な天幕が張られた。


 巫女が温かいスープとパンを差し出す。


「ありがとう……」


 スープは懐かしい日本の味がした。


——これ、干し椎茸の出汁?


「ミヤビさん。前から気になってたけど……」


 千尋が言っていたことを思い出した。

 転移者のコミュニティがあるかもって……


「なんで私たちの言葉、そんなに上手なの?」


 ミヤビはその質問を予期していたようだった。


「我らの里は、代々『迷い人』を受け入れている……」

 ミヤビは話し始めた。


 焚き火がぱちと()ぜた。


「私たちと、同じ……?」

「伝承では、ケータイ祖神よりも昔の迷い人…… 神になることを拒み、しかし絶大な力と予言で、我らの祖を導いたものがいた……『偉大なる母』だ……」

「その人が、女神……?」


 ミヤビは首を振った。


「偉大なる母は、神になることより、母になることを選んだ……」

「女神って、不思議な力を持ってるって」


 私はレイスを圧倒したあの不思議な鈴と錫杖を思いだした。


「そうじゃ。女神を信仰し、鍛錬を積むことで女神の力を授かる……」

「魔法……?」

「偉大なる母が遺した言葉で、その力が使えるようになる」

「だから、日本語……?」

「そして、偉大なる母の予言の力は、子孫に受け継がれる……」

「もしかして、ピーコさんが、その子孫……?」


 ミヤビはしばらく黙り込んだ。

 否定も肯定もしなかった。


「予言では、迷い人の中に四神を統べる娘が現れる。その者が、女神の顕現……」

「それ、まさか、私たちのこと……?」

「分からぬ…… だが、今まで見た、迷い人とは違う……」

「……まさか、他にも最近、来てるの?」

「二十年前が、最後じゃ……」

「その人って……」

「……死んだ」


 沈黙が落ちた。

 

「ミヤビさん…… 本当に神獣朱雀はいるの……?」

 私は火の番をしている猟師を指差した。

「見た人は、いないの? あの人とか……」


「……見た者はおらぬ」

「だけど、神獣玄武はいた…… 朱雀も白虎もいるはず……」

「……そなたらが女神、四神を司る者であるならば、必ず姿を現す……」

「それが、ビャッコの女神の伝承……?」

「……そうだ」


 私の側で丸くなっていたスザクが起き上がる。

 最初は食べなかった生肉も、ガツガツ食べていた。


 毛艶(けづや)がどんどん良くなっていた。

 顔つきもなんだか、野生に戻っているようだった。


「行くしか、ないか…… スザク」


——私たちが女神かどうかなんて、関係ない。


 千尋と柚月を救わないと。

 そして家に帰る。

 スザクの頭を撫で回した。


「バウッ!」

「食べたら、横になるといい。慣れない乗馬で、体は疲れているはずじゃ……」


 ミヤビの指差す先には小さな天幕が張られていた。


「明日も早い……」

「分かった……」


——なんで、こんなところにいるんだろう。


 現実感はまるでなかった。

 日向と千尋と離れて、一人きり。


 いや、スザクがいる。

 私はスザクの首筋にしがみついた。


 なぜか、涙が目頭に上がってくる。

 私は満天の星空を見上げた。


 どこまでも、抜けた夜空。


 だが、そこには見覚えのある星座は、一つもなかった。




 翌朝、暗いうちから起き出す。

 朝食のスープを啜っている時にミヤビが前に立った。


「ここからは、歩きじゃ……」

「どのくらいで着くの?」

「昼前までには、着く」


 スープを飲み干して、私はストレッチを始めた。


——日向と千尋じゃなくて、良かった。


 登山はしたことはないけど、長距離走は得意だ。

 子どもの頃から、クロカンスキーもやってる。


 体力には自信があった。


「スザク、行くよ!」

「バウッ」

「逞しくなったなあ、お前は」

「バウッ! バウ!」

 スザクは誇らしげに吠えた。


 猟師を先頭にスザク山に向かって登っていく。


「岩場はないよね?」

「岩場……?」

「ロッククライミングって言っても、わからないか……」


——お父さん、山男だったな。

 よく岩登りの話を聞いた。


「危ないから、お前は登るな」


 いつも、そう言ってた。


 でも、日が昇る頃に再び稜線に出る。

 そして、そこには巨大な壁が立ち塞がっていた。


「マジか……? これ…… 登るの?」

「この山は信仰の山じゃ。足場がある」

「スザクは無理っしょ? 落ちたら死ぬっしょ?」

「我らは問題ないぞえ。スザクは我がおぶってやろう……」


 ミヤビが挑発的な目をして言った。


「分かった、ザイルなんて、なくてもいい!」

「くうん……」


 スザクは縄でミヤビの背中にくくりつけられた。

 それでもミヤビは猟師とともに軽々と登っていく。


 確かに足場はあった。

 足場は斜めに掘られている。

 やがて、断崖絶壁、目も眩むような垂直な壁が落ち込んでいる場所に出る。


 スニーカーの足裏が滑る。

 岩が乾いた音を立てて下に落ちた。

 慌てて岩にしがみつく。


「ほんとに…… 千尋じゃなくて、良かった……」


 下から突風が吹き付けた。

 足か手を滑らせたら、奈落の底に一直線。


「でも、クライミング、好きかも」


 夢中で、登っていく。

 手が崖上に出るとミヤビに引き上げられた。


 五人の巫女も、涼しげな顔で登ってきていた。

 

「ここじゃ……」


 眼下に火口が見えた。

 白煙が上がっている。


 火口は影になってよく見えない。


「さあ、降りていくぞえ」

「ガスとか、大丈夫……?」


 降りる道など、ない。

 それは、蟻地獄のように口を開けていた。


「降りるの……?」


 声が震える。


「そうじゃ」


 かすかな硫黄の臭いが漂う。

 毒ガスだったら……


 いったん降りたら、もう上がれない。

 そんな気がした。


 だけど、千尋はあのゲンブの神殿に、一人で向かった。


 そして千尋の口から、あのデュラハンの話を聞いた。


 今度は私の番だ……


「ワンワン!」


 スザクが吠える。


「ミヤビさん。私が、先に行きます……」


 深呼吸。


 そして、一歩を踏み出した。


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