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神様やめたい ! 〜万バズから始まるJK三人組の異世界勘違い神話  作者: タキ マサト
第四章 囚われの女神

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30話 それぞれの夜  

 

「千尋ちゃん。帰れるって言うなら……証明して」


 証明……


 スミレさんを味方につけられれば、事態は変わる。

 だけど、証明ってどうすれば……?


「出来ないの……?」

「光るんです…… あの場所にいけば……」


 勾玉は私の手の上で冷たく、燭台の炎に照らされていた。


「……それと、瀬をはやみ。百人一首の崇徳天皇のうた……」

「……瀬を、はやみ……?」


 私は玄武の神殿で、あの歌を詠んだ時のことを思い出した。

 あのとき、確かに反応した。

 この勾玉は、思いに反応する。


 シャンシャンという巫女の鈴の音が脳裏によみがえる。


 私は目を閉じた。


「瀬をはやみ~」


 あの時の気持ちのまま口ずさむ。

 次の句を(つむ)ごうとした時だった。


「……岩にせかるる、滝川のぉ……」


 スミレが後に続いた。

 沈黙が落ちた。


 顔を見合わせる。


「「われても末にぃ あはむとぞ思ふ~」」


「……」


 スミレはゴーグルを外した。

 目をこすっている。


「これ、崇徳院ね……」


 涙声になっていた。


「……愛しいあの人と、今は、分かれても……」


 肩を震わせる。その声に嗚咽(おえつ)が混じった。


「……いつかはきっと、会えるって……」

 

 (あふ)れる涙を手で拭うが、止められないようだった。

 燭台を置いて、しゃがみ込んだ。


「……スミレ、さん」


 私の目にも熱いものが込み上げてきた。


——四十年…… 家族…… 友人…… 愛しいあの人……


 もう会えない…… その絶望……

 もし、私だったら……

 心臓が冷えていく。


 そのときだった。

 私の持つ勾玉が、光った。

 まばゆい青い光が室内を照らす。


「……光った?」


 スミレの目が見開かれる。

 青白い光は、やがて止まった。


 燭台の炎が揺らぐ。

 スミレは長い間、勾玉の消えた光を見つめていた。


 スミレは鼻をかんだ。


「……本当に、光ったわね」

「でも、ここでは、帰れないです……」

「……モノちゃんには、世話になった……」


 スミレは立ち上がった。


「この石が光るところで、帰れるのね?」

「そうです…… 神廟で、スザクの神殿で……」


 スミレは大きくため息を吐いた。


「証明したわね…… いいわ、協力してあげる」


 その言葉に力が抜け、膝から崩れ落ちた。


——繋がった……


「あと、二つあります! 多分…… いや絶対」


 そう言って、はっと気づく。

 ダメだ、あと二つじゃ足りない。

 私は立ち上がった。


「もう一個はマカーベくんが持ってます。あと、ビャッコと…… セイリューの神殿にあると思います」

「一人、一個なのね?」

「こっちの人、マカーベも勾玉、持ってたから、日本に行けた……」


 スミレは再び、ゴーグルとマスクをつけた。


「いいわ。いつになるか分からないけど、謁見(えっけん)の間に来られるように、モノノーベに伝えておく」


 スミレが暖炉の中に入ったとき、私のお腹がぐーと鳴った。


「あはっ! ちゃんとごはんは、食べるのよ」

「はい……」

「それと、夢の国、楽しみにしてるからね……」


 そう言ってスミレさんは壁の向こうに消えた。

 私は力が抜けて、再びその場にへたり込んだ。


——日向、柚月、必ず助ける。


 みんなで帰ろう。





  *


 



「バウバウバウ!!」


 スザクが吠え立てながら、私の前を走っている。


『きゃあ!』

『うわッ!』

 シベリアンハスキーの迫力に、人混みが割れていく。


 目立つ能面はすでに外して手に持っている。

 背負い直したリュックが背中で揺れる。


「スザク! そっち? 待って!」

 スザクは匂いを辿(たど)って一目散に走っていく。

 煉瓦造りの建物の裏路地に入ったとき、視界が布で覆われた。


「しっ!」

「ミヤビさん!?」

 巫女の独特な香りが漂った。

 一枚布で頭から足首まで包まれる。

 それはあっという間に、インドのサリーのような装いになった。

 髪を隠すと、現地の服装とそうは変わらない。

 

 ミヤビも丈の短い、似たような服装をしている。

 騎士たちが、こちらに駆けてくる足音が響いた。


「ミヤビ様……」

 一人の巫女が緊張の声を上げる。


「まかせておけ……」


 ミヤビは、鉄扇(てっせん)を懐から取り出した。


「女神様は、こちらに……」


 日本語が話せる巫女に手を引かれた。


 香の匂いが後ろから漂ってくる。


「ミヤビさん……」

「早く」


 私とスザクは巫女に導かれて路地を抜けていく。

 ほどなくして、明らかに治安の悪そうな一角に出た。


 物乞い、アル中、四肢欠損、すえた臭いとゴミが集まった掃き溜めにその建物はあった。たどりついた時、日はとっぷりと暮れていた。


「ひやひやしたぞえ……」


 ミヤビがくぐり戸から入ってくる。

 

「ミヤビさん! 日向はッ!? 千尋は……?」

蛙神(かえるかみ)は騎士に連れて行かれた。黒神は城に入った……」


 ミヤビはがたつく椅子に、どかっと座った。

 蝋燭の明かりが揺れた。


「助けないと……!」

「無理じゃ」


 ミヤビは首をふった。


「くうん……」

「まったく、逃げ出すなど、とんでもないことを、してくれたもの……」

「あの煙、合図をくれたんじゃ……?」

「暴れる蛙姫を、落ち着かせようとしただけだ」


 ミヤビはため息をついた。

 もう私を敬うような様子は微塵もなかった。


「普通、あそこから逃げようとはせんぞ…… 機会を(うかが)っておっただけよ……」

「……モノノーベに会いに行くって、言ってたよね?」

「モノノーベの神と我々ビャッコの女神は、もとより、敵対関係……」


 ミヤビは差し出されたお茶をすすった。


「ただ、古い盟約があったのみ…… じゃが反故(ほご)にする気じゃ……」

「……?」

「モノノーベは、そなたらを恐れておる……」

「……?」

「そなたらゲンブの魔性のものを討伐し、あまつさえ玄武を呼び出してしまった……」

「……それで、ご褒美をもらえるって、聞いたけど」


 ミヤビは鼻で笑った。


「逆じゃ…… 邪神として、葬り去ろうとしておる……」

「……私たち、ビャッコの女神なの? アベーノたちの言う神様なの? どっち?」


 ミヤビはさらに大きく嘆息した。


「そなたらが女神ではないと確信できたら、どれほど楽だったか……」

「どういうこと?」


「伝承の玄武が姿を現した。八百五十年ぶりじゃ」

「……八百五十年前って…… 千尋が言ってた、崇徳天皇……」

「伝え聞くストーク御神のときと同じ、じゃ……」


 ミヤビは目を細めた。


「じゃが…… 魔性のものを振り払う力は、女神の力じゃ」

「じゃあ、私たち…… ビャッコの女神でもあり、アベーノたちの神様でも、あるってこと?」


 ミヤビは答えなかった。


「そなたらを見ていると、ピーコを思い出す……」

「ピーコさん? マカーべさんの想い人……?」

「……」


 長い沈黙。

 私はその沈黙に耐えられなかった。


 聞いたら、いけなかった……?


 でも、今は——

 ピーコとマカーべよりも——


「日向と千尋を助け出したい」

「……奇跡を起こせれば、可能性がある」


 ミヤビがポツリと言った。


「奇跡……?」

「神獣朱雀を呼び出す事じゃ……」

「どうやって……?」

「本物の女神ならば、呼び出せるはずじゃ……」

「……それで、私たちを確かめる?」


 ミヤビは目を閉じて、それには答えなかった。


「まあ、まずは腹ごしらえと休むことじゃ…… 明日、手の者が報告を持ってこよう……」


 ミヤビは立ち上がった。


「朱雀を…… 呼び出して……?」


 玄武の神々しくも、愛嬌のある目を思い出す。


——ヌッシー…… 可愛かった。また会いたいな。


 でも、どうやって、呼び出すんだろう?


「大丈夫だよね、スザク」

「バウ……」


 スザクが小さく鼻を鳴らした。


「待ってて…… 私が、必ず」


 私は拳を握った。






  *






 暗闇…… 

 何も見えない。

 自分の手さえ。


 冷たい……

 濡れてる。

 白装束が、びしょびしょ。


 ピチョンと定期的に滴る水の音のみ耳に響く。

 両手は後ろ手に縛られていた。

 じんじんと痛む。


 不気味な蛙のお面のせいで、息が苦しい。


——こんな気持ち悪いお面、被らされたから!


「アベーノのヤツ!」


 仮面がずれたけど、直せない。


「なに…… ここ?」


 覚えのある匂いだった。

 甘ったるくて、お香のような、薬品のような……


「この匂いで、気を失ったんだ…… あのあと、すぐ……」


 暗闇の中、上体を起こした。


「この縄を、なんとかしないと……」


 腕を引っ張るが、びくともしない。

 動こうとすると縄が手首に食い込んだ。

 

——出っ張りはどこかにない?


 そのとき、また眠気が襲ってきた。


「……何か、喋ってないと、また…… 意識が……」


 頭を振った。


 そして、叫んだ。


「柚月ッ! 千尋ッ! 待ってて!」


 暗闇に私の声は、吸い込まれていった。


「ここから必ず逃げ出して、絶対に助けるから!」


 なおも虚空に叫ぶ。


「みてろよッ!! 絶対! 終わらせてやるからッ!」



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