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神様やめたい ! 〜万バズから始まるJK三人組の異世界勘違い神話  作者: タキ マサト
第四章 囚われの女神

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28話 審問


 大宮殿は豪華絢爛(ごうかけんらん)だった。

 宮殿に近づくほど、通りには緑が増え派手な花が咲き乱れていた。


「宮殿って、お城?」


 巨大な白亜の門に、騎士と神官に囲まれて、牛車は入っていく。


——日向…… 柚月……


 どうなっちゃうの? 私たち……


胸元のお守りをぎゅっと握りしめる。

 もう温もりはなかった。

 太陽が最後の輝きを残して、あたりは薄暗くなっていく。


 門を抜けると、牛車が止まった。


 これ、あの灰まみれ姫の城……?

 あの日本最大のテーマパークみたい……

 

「これより、大神官モノノーベ様の、審問がある! 下車せよ!」


 私はため息をついて牛車を降りた。

 目の前に赤い絨毯(じゅうたん)が敷かれた大階段がある。


 燭台(しょくだい)の明かりが揺らぐ。


——モノノーベ…… 審問?


 この人たちの日本語、古語じゃない……


 スミレ神って、最近の人……?


 私の左右に神官が立った。

 両腕を(つか)まれ引きずられるように連行されていく。


「痛い……」

「……」


 スニーカーが深い絨毯に沈む。

 重い足を引きずるようにゆっくりと進む。


——これから、牢屋……? 死罪……


 殺される……の?


 広々とした回廊を抜ける。


——ヨーロッパの教会の大聖堂みたい……


 その脇の螺旋(らせん)階段を登っていく。

 複雑に入り組んだ道のりを上り下りさせられる。

 どう歩いてきたかは覚えていない。


 完全に方向感覚が狂っていた。


——広すぎるし…… どうやったら、門まで戻れるの?


 気がつくと豪華な扉の一室に通された。

 燭台に火が灯されると、ぼんやりと広々とした部屋が浮かんだ。


 豪華な装飾。ソファ、テーブル、柔らかそうな寝台、ふかふかの絨毯。

 ただ窓はない。


 私が呆然と立ち尽くしていると、扉が開き、むっとするような濃厚な香水の匂いが流れ込んできた。

 現れたのは、たっぷりと肉のついた巨体の男だった。

 顔は白粉(おしろい)を塗ったように白く、唇だけが血のように赤い。

 

——この人が、大神官……?


「ようこそ、神の国より(まぎ)れし、常世(とこよ)の姫君……」


 声は、驚くほど高くて優しかった。


 その男はゆっくりと私に近づくと、私の肩に手を置いた。

 その手は、爬虫類のように冷たく、じっとりと湿っていた。


「私は、大世界神様より大神官を仰せつかっております。モノノーベと申します……」


 舌舐(したな)めずりをするような分厚い口元。

 揺れると、じゃらと黄金の首飾りとブレスレットが鳴った。


「ひっ……」


 悲鳴を上げそうになるのを必死でこらえる。


(おび)えなくても良いのです。私は野蛮なことは嫌いですから……」


 モノノーベは目を細めて、私の(かぶ)っている『仮面』を愛おしげに()でた。


「素晴らしい造形だ…… この質感、このような黒、この世界には、ない……」


 私を見ていなかった。

 私の持っているモノを見ていた。

 私は重たい鞄をぎゅっと抱きしめた。


「あの、日向…… もう一人の子、蛙神(かえるかみ)はどこですか……?」


 私が尋ねると、モノノーベは興味なさげに手を振った。


「ああ、……あの醜悪な、仮面の娘ですか……」


 モノノーベは露骨に嫌悪感を顔に(にじ)ませて言った。


「あまりにも(わめ)くものですから、地下の『浄化槽』へ送りました。少し、しつけが必要でしょう」


「じょ、浄化…… 槽?」

「ええ。女神などという邪神に取り憑かれた(けが)れを落とすのです。……もっとも、元に戻れるかは分かりませんが」


 背筋が凍った。殺されるよりも恐ろしいことを言われている気がした。


「やめて! お願い、何でもするから!」

「何でも?」


 モノノーベの唇が、三日月のように吊り上がった。


「ならば、国民の前で証言していただきましょう。あなた方は、魔性(ましょう)の森から逃げてきた、ただの娘であると」


「そ、それなら……」

「ああ、それと」


 モノノーベは、私が抱える鞄を指差した。


「その手に持つ鞄…… それを私に献上しなさい。邪神の良くない匂いがします」


「……ダメ、これは」


 私の鞄を抱く手に、さらに力がこもった。


 鞄の中には——


 筆箱の中に、お父さんから誕生日にもらった万年筆が入っている。

 日向と柚月と三人で撮ったプリクラが挟まった教科書。

 撮影で着てきたお気に入りのブラウス。


 それと、


 ——思い出というデータがぎっしり詰まった、スマホ。


「さあ……」


 スマホは電池切れ。

 でも、それを渡したらすべての繋がりが、切れてしまうような気がした。

 

——でも、断れば日向が……


 鞄を持つ手が震える。


「ほう……」


 モノノーベがじりと一歩、近づいた。

 無意識に私は後ずさった。


「では、あの醜悪な仮面の娘は、明日、広場で公開処刑ですね」

「っ……!」


「あるいは……」


 モノノーベがささやく。


「もう一人の逃げた娘。あれを捕らえるのも、容易い。三人まとめて、火炙(ひあぶ)りも良いでしょう」


——柚月……


 なんで、こんな目に……

 自然と目に涙が浮かぶ。


「……好きで、神様に、させられたんじゃない……」


 ぽつりと口に出た。


「そうです。それを国民の前で言えば、良いのです……」


 甘い言葉。でも、その目は笑っていない。


——嘘だ……


 直感だった。偽物だと認めた瞬間、私たちは用済みになる。

 日向も私も、生かしてはおかないはず。


「……だけど、あの玄武に、認められた…… 私たちは、女神です……」

 

 私はかすれる声で、精一杯の虚勢を張った。


 あの玄武に否定は、されていない。

 嘘じゃない…… 多分。


 本当は神様なんて辞めて、早く帰りたい。

 それなのに、女神と主張せざるを得ない。


 偽神となれば、私たちは処刑……


 いや、もしかしたら、それ以上に酷いことになる……

 でも、神認定されれば、立場はひっくり返る。


「玄武の神託に逆らうというの?」


 モノノーベの顔色が変わった。


「玄武……? 報告は受けています。やはり危険ですね……」


 その声には、恐れと焦りがあった。


「国は守らなければ、いけません」


 モノノーベは立ち上がった。


『連れていけ』


 扉から騎士が二人、鉄枷(てつかせ)をジャラつかせて入ってきた。


「待って!」


 私はモノノーベに追いすがった。


 ここで連れて行かれたら、すべてが終わってしまう……


 交渉は、もう出来ない、そんな気がした。


「連れて行かないで!」


 首にかけた勾玉も、きっと取り上げられる。

 そうなったら、すべての希望が失われてしまう。


 それにあの鉄枷……


「お願い…… 日向を解放して。私が代わりに何でもするから……」


 肩にかけた鞄を外す手が、震えた。

 私がうつむくと、モノノーベが満足そうにうなずいた。

 騎士が私の手から、鞄をもぎ取るように奪っていく。


「あっ……」


 その瞬間、日本とのすべての繋がりが断ち切られたように感じた。

 

「ほう…… 奇妙な意匠(いしょう)だ……」


 モノノーベは鞄を愛おしげに撫で回した。


「この質感…… 手触り…… これは何だ?」


 ジッパーを開けようとしている。

 まるで私の体の一部を触られているようで、吐き気がした。


「さあ、疲れたでしょう。今晩は、柔らかい寝台で、お過ごしなさい……」


 モノノーベは廊下に控えていた神官に声をかけた。

 この広い部屋に、一人残される。


 扉が重々しい音を立てて閉じられる。

 ガチャリ、ガチャリといくつもの鍵がかけられる鈍い音が響いた。


——ごめん…… 日向…… 柚月……


 ここは、豪華な部屋なんかじゃない。

 きらびやかな牢獄だ。


 スマホもない。日向もいない。柚月もいない。


「……どうしよ、お父さん」


 私はその場に崩れ落ちた。

 涙が止まらない。


——日向


 柚月……

 

 でも、そうだ。


 モノノーベのあの口ぶりだと、柚月は逃げたまま、まだ捕まってない。

 ミヤビさんたちがいる。

 マカーベくんも、きっと……


 私は白装束の襟を正した。

 胸元のお守りを握りしめる。


 しっかりと勾玉を手のひらに感じる。


 まだ、勾玉がある。


——絶対に、助かる。


 涙を拭って、私は立ち上がった。


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