表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様やめたい ! 〜万バズから始まるJK三人組の異世界勘違い神話  作者: タキ マサト
第三章 『国の女神』  

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/84

23話 女神降臨


 Yafooニュース【速報】


【行方不明JK3人 捜索6日目 「掘削は危険」と消防が判断】


 群玉県前澤市で行方不明となっている女子高校生3人の捜索が6日目を

 迎えた。23日、現場を視察した消防本部の会見によると、崩落現場の

 地質調査の結果、「これ以上の掘削は二次崩落の危険性が極めて高く、

 救助隊員の命も危険にさらされる」として、掘削作業を中止する方針を

 明らかにした。


 一方、山形千尋さん(16)の父・山形隆教授(48)は「物理的な

 掘削以外のアプローチがあるはずだ」と主張を続けており、23日に

 現地入りすることが分かった。教授の「境界儀礼」理論に基づく調査を

 独自に行う意向を示している。

 (群玉新報・23日 08:15)


 コメント欄:

 ⚪︎ worried_mother

 6日目……もう72時間を過ぎてる

 でもメールは来てた

 まだ諦めたくない

          返信 67 共感した 725 なるほど 35 うーん 4


 ⚪︎ local_resident_45

 消防の判断は正しい

 でも父親の気持ちも分かる

 「他のアプローチ」って何ができるんだろう

返信 21 共感した 634 なるほど 19 うーん 26


 ⚪︎ rescue_expert

 元救助隊員だけど、正直このケースは……

 でも諦めたくないよな

 家族はもっと辛いはず

返信 15 共感した 567 なるほど 12 うーん 45






   ***







 『マジヤバエ!』が鳴り響く中、突風が吹いた。


 ダース仮面のマントがはためく。

 夕陽が、湧き出した雲に(さえぎ)られていく。


 雨雲だった。


 それは玄武が湖底に姿を消したと同時に現れた。

 まるで玄武が雨雲を呼んだように、入れ違いに空を覆っていく。


「……もう無理」


 日向がぼそっと呟いたのが聞こえた。


 私は日向を振り返った。

 空から落ちてきた雨が、石畳に黒い染みを作る。


「こんなの…… ふざけてる……!」


 その叫びと同期したように、稲妻が走った。

 その叫びは降り出した雨音(あまおと)雷鳴(らいめい)にかき消された。


「意味が分かんないんだけどッ!!」


 日向が叫び終わった時、それは瞬く間に豪雨となった。

 私たちは瞬く間に、雨に打たれてびしょ濡れになっていく。


「日向……?」


 日向の握りしめた拳がぷるぷる震えていた。


——まずい、日向がキレた。


 キレた日向は、何をするか分からない。


「おぉぉ…… 蛙神(かえるかみ)さまが、雨をお呼びになり申した!!」


 ミワーノが泣きながら叫んだのを、私は聞き逃さなかった。


「違うっ!!」


 日向がミワーノの方に振り向いた。


「私たちは……ッ!!」

「日向ッ、ダメ!」


 これ以上、日向が何かを叫んだら、また状況は悪化してしまう。


「私たちはッ! ただのッ! 人間ッ!」 


 だが、日向に私の制止は効かなかった。


「ただの女子高生ッ!!」


 豪雨の中、なおも日向は叫んだ。


「神様なんかじゃ! なーいッ!!」


 高らかに日向は宣言した。


「おうちにッ! 帰りたいッ!! それだけッ!!」


 日向が両手を振り上げて叫んだとき、ケロッパのお面のゴムが切れた。


「……あっ」


 蛙のお面が、スローモーションのように石畳に落ちていく。

 稲光(いなびかり)が日向の顔を照らし出した。


 遅れて一際大きい雷鳴(らいめい)が轟いた。


 マカーべの顔が固まった。

 アベーノが白目を剥いた。


「やば……」


 階段に片膝をついていたモノノフたちの視線が、日向に突き刺さった。


『め、女神…… だ……』


 前にいたモノノフが何かをつぶやいた。


御主神(おんあるじかみ)さまは、女神さま、だった!!』


 その叫びが豪雨の中、響き渡った。


『蛙神の、女神さまが、恵みの雨を、おもたらしに、なられた!!』


 群衆は雨の中、さらに熱狂的になっていく。

 ゲンブの村人たちが手を天に掲げた。


「おぉぉ…… なんという事…… 玄武さまは、すべて、お見通しだった…… 我らの御主神は、女神にて、そふらふ……」


 アベーノが驚愕の声を上げる。

 その反応は、私の想像を超えた。


 私は、はっとしてミヤビの反応も、確認しようとした。

 そのとき、柚月も能面を外そうとしていた。


「な、なりませぬ! 尊いお素顔をさらしては、我らは、死罪になり申す……」


 ヨシーノが青ざめた顔で叫んだが、柚月はすでに能面を外していた。


「お面、暑いし、息苦しいし、なんか、大丈夫そうだし?」

「千尋も、仮面取っちゃえ!」


「えっ……?」


 日向がダース仮面に手をかけた。


「ダメ…… 取ったら……」

 強引に仮面を脱がされたとき、後頭部にお団子にまとめていた髪が解けた。

 背中まである髪がヘルメットからこぼれて、雨に打たれた。


 目を見開いたマカーベと視線が合った。


「……ピー、コ」


 小さな声だった。その口がそう動いた気がした。

 マカーベの手が伸びて、止まった。


 視線が交わる。


「マカ、ベ……くん?」


 しかし、次の瞬間、マカーベは慌てて深く顔を下げた。


「オン、アルジ、女神サマ……」


——やめて…… そんなのじゃない……


 ただの女子高生……


 私は、胸が締め付けられるのを感じた。

 目元に熱いものが、込み上げる。

 流れるそれは、雨なのか、涙なのか、分からなくなっていた。


 素顔を晒した日向と柚月も、この成り行きに困惑しているようだった。


「……ちょっと、死罪は?」

「こんだけの人、死罪に出来ない。しかも、ヌッシーに私たち、神認定された」


 柚月がマイペースに指摘した。


「ヌッシーって、さっきの亀のこと?」

 日向が突っ込みを入れる。

「ちょっと、これ、どうするのよ?!」

 私は頭を抱えた。ヌッシーなんて、どうでも良かった。


——もう、マカーベは…… もうきっと、同じ人として、私たちを見てくれない……


 これだけの大衆に、女神とあがめられた。

 身分違いなんてものではない、次元の違う、何か見えない壁に引き裂かれるような絶望感が私を襲った。


「なるようにしか、ならないよ」

「……」


 柚月はそう無責任なことを言って、ため息をついた。


「女神……? まことに……」


 ミヤビの震える声が後ろから聞こえてきた。

 その声に私の背中に悪寒が走った。

 

——もう、知らない……


 私は振り返るのも、もうどうでも良かった。


「……千尋、見て」


 日向に促され、仕方なしに振り向く。


『まことに……』


 ミヤビの美しい黒髪から、黒い雫が滴り落ちていた。

 雨に洗い流されたその髪は、根元から鮮やかなブロンドに変わっていく。

 白装束が墨汁で汚れたように黒い染みを作っていた。


「嘘、染めてたの……?」

 私は呆然としてつぶやいた。

 その後ろにいる巫女も本来の髪の色が現れていた。

 黒髪の巫女は一人としていなかった。


『黒髪、黒眼…… まことに、女神様の、御降臨……』


 ミヤビが顔を上げた。

 その目には、涙が溢れていた。


「我らが、女神さま…… 『偉大なる母』の伝承は、本当だった……」


 ミヤビは目を見開き、そしてさっと目を伏せた。


「……四神を解放するもの。そのものが女神なり」


 アベーノが呆然としたようにつぶやいた。


「ビャッコの女神は…… 黒き髪、黒き瞳、若き御姿にて…… この地に降り立ち給う……」


——偉大なる母? 転移者……? 別系統の……?


「ものども! 頭が高い!」


 ミヤビは雨の中、平伏した。後ろの巫女もそれに倣う。


「女神さま…… 我ら、シラーギ一族は、代々、女神さまを慕い…… 髪を黒く…… 染めて参りました……」


 ミヤビの声が、喜びと畏怖で震えている。


「まさか…… この目で…… 女神さまの再臨を…… 拝せる日が来ようとは……」


 ミヤビが肩を震わせた。


「御主神さま、まさしく…… 我らの現人神さまは、女神さま…… まさしく、まさしく……」


 アベーノが(むせ)び泣いている。


「女神さまならば…… 御面(おめん)を外されるも…… 当然の(ことわり)にて…… そふらふ……」


——死罪じゃないんだ……


御尊顔(ごそんがん)(はい)せることこそ…… おお…… 美しい…… 至上の恩寵(おんちょう)……」


 アベーノは、私たちをちらりと見て頭を石畳に擦り付けた。


「ちょっと…… どうすんのよ、これ」

 日向が困惑した顔で言った。

「こっちが聞きたいよ」


 私は日向と柚月を見た。


 びしょ濡れで仮面を外した二人。


「ヤバいよね……」

「ごめん……」


 日向がぽつりと言った。


「私が、キレたから……」

「ううん……」


 柚月が首を振る。


「……いつか、こうなってた気がする」

 

 いつの間にか雨は上がっていた。

 湖に虹がかかっていた。


「……本当に、帰れるの?」


 私はぽつりとつぶやいた。


「神様じゃないって、言ったのに…… 逆に女神になっちゃったか……」

「……でも、勾玉、集めれば……」


 柚月が言いかけて、口をつぐんだ。


——集めたら、帰れる?


 三人で、虹を見上げる。


 この先の展開は、虹の境界線のように、あやふやだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ