22話 玄武の審判
【Ech】オカルト板
【地図にないトンネル】学術・歴史考察スレ Part2
45: 名無しさん 202*/07/23(水) 09:34:12.89
山形教授のツイート見た?
「王権は"血統"より"象徴"で再構築された」
「その象徴の中心が勾玉」って
67: 名無しさん 202*/07/23(水) 09:45:33.45
継体天皇の時代、新羅との交流が活発だった
日本と新羅、両方の王族の墓から
同じ形の勾玉が出土してる
134: 日本史専攻院生 202*/07/23(水) 10:12:22.44
山形教授の論文読んだ。
「四神の勾玉=境を越える鍵」
「勾玉を持つ者が正統な王」
という仮説を立てている。
娘さんたち、もしかして……
156: puripuri_punipuni_uni 202*/07/23(水) 10:18:33.55
黒き者が、最初の鍵を手にした。
白き地で、巫女が神を値踏みする。
だが、真に値踏みするのは、水底に眠る古き者。
合格の証は、湖から昇る。
178: 名無しさん 202*/07/23(水) 10:25:11.55
>>156
だから、なに者? この人
***
——かへりたし…… カヘリタイ…… 帰り、た、い…… かえ……
レイスの思念が頭の中に響き渡る。
しかし、それは妄執ではなかった。
振り返ると掛け軸の文字が光っていた。
ぶわっと部屋の外から、黒いモヤが流れ込んできた。
掛け軸に吸い込まれるように消えていく。
否認、怒り、取引、諦め、そして……受容。
——俺じゃない…… 違う! まだ方法はある…… ダメだ…… 全部、無理だ……った
何百年の、何百人もの思念が、頭の中を駆け巡り、消えていく。
——そうか、そういうこと……か……
想いを、解き放った……?
部屋の闇が、薄れていく。
簾の向こうから、陽の明かりが差した。
重たい空気が、晴れていく。
「……終わったの?」
私はぺたんと座り込んだ。
「千尋…… やったじゃん!」
「わん!」
「オン、アルジ、カミさま……」
マカーベが片膝をついた。その顔は青ざめている。
「マカーベさん…… それ、どうしたの?」
鎖帷子からのぞく首筋が凍傷のように青くなっていた。
「……もしかして、さっきのレイスの……?」
マカーベは胸に仕舞い込んだ巾着を引っ張り出し、勾玉を取り出した。
「ダイジョウブ…… 守ってくれた……」
そう言ってその首の跡を隠すように襟を引っ張った。
その勾玉は、冷たく淡く光っていた。
——レイスの攻撃といったら、精神攻撃か、冷気……
私は手に握りしめた勾玉を見た。
レイスの凍るような冷気に晒されたことを思い出した。
勾玉はその冷気を吸い込み、氷のように冷たくなっていた。
その冷たさを温めるように、淡く青白く光る勾玉を両手で包み込んだ。
——これが、私たちを守ってくれたんだ……
ありがとう……
「はー……」
私が安堵のため息をついた時、広場でアベーノの大声が響き渡った。
『御黒神さまの奇跡! まことの神!! マジヤヴァエ!!』
『マジヤヴァエエイ!!!』
どっと歓声が上がった。
神殿外の戦闘も終わったようだった。
外からも『マジヤバエ』の鬨の声が轟いた。
「千尋! 行くよ!」
日向が私の手を取った。
半分切れた簾の向こうに、平伏している人々の姿が見えた。
夕日が神殿内を照らし、アベーノが一番前で額を擦り付けていた。
日が入ると、神殿内の雰囲気が一変した。
空気そのものが変わっている。
マカーベはそれを見ると慌てて壇上を降りてみんなに倣った。
そのアベーノの隣にミヤビも平伏している。
その後ろに巫女たちとモノノフが並んでいるのが見えた。
「御主神さま…… 魔性のものに、奪われしゲンブの地、御主神さまがたの御威光を以って、復し給われ、そふらふ……」
アベーノは涙混じりで声を震わせた。
「こちらに、侍りますのは、ビャッコの大巫女、シラーギ・ミヤビにて、そふらふ……」
ミヤビが平伏したまま、顔を上げた。
「ビャッコの女神に仕えしシラーギ・ミヤビと申すもの。御黒神さまのお力を以って、こたび、ゲンブの地の解放できたこと、祝着至極に存じ上げる。女神に代わりて感謝申し上げる」
腹に響く朗々とした口上だった。
その力強い目は、女神への揺るぎない信仰があるようだった。
「女神の御加護を受けし我らすら敵わなかった首なき騎士の退治、怨霊の浄化、魔性のものどもの解放…… 」
ミヤビの目に光が一瞬灯り、すぐに頭を伏せた。
「このシラーギ、御黒神さまの偉業、しかと拝見いたしました。御黒神さまの御力、まことに計り知れぬものと胸に刻み申しました」
——認められた……?
というか、女神ってなに?
御加護って、魔法……?
その加護でレイスは倒せなかった。
倒したのは、想いを解き放ったあの和歌……?
ミヤビさん、焦ってる……?
「さあ、御主神さまがた……スザクの都へと、ご案内、つかまつり、そふらふ」
——スザクの、都……?
「マカーベ! ロート・フォーゲル卿…… 両名にて先導、つかまつり、そふらふ」
アベーノが声をかけると二人は立ち上がり、私たちの前に立った。
「……千尋。行くよ」
「あっ、うん……」
私たちは平伏している人々の真ん中を通って、神殿の外に出た。
後ろにアベーノとミヤビが続く。
夕日が差し、まぶしさに目を細める。
階段下に、モノノフたちがかしずいているのが見えた。
目の前に大きな湖が見えた。
朱塗りの鳥居が水面から立っている。
湖面が夕日にきらきらと輝いた。
その光景に私たちの足が止まる。
その時だった。
鳥居の間の水面が、ぶくりと泡だった。
次の瞬間、轟音とともに、天を衝くような水柱が噴き上がる。
滝のような奔流が空を裂き、水飛沫があたり一面に降り注いだ。
水柱が崩れ落ち、再び静寂が戻る。
「なに? ネッシー?」
「古いよ…… 柚月……」
巨大な首が水面からのぞき、次いで雷鳴のような轟音とともに島ほどもある甲羅が水面から現れた。
「お、お、ぉ…… 玄武さまが……なんと、いうこと…… まことに、まことに……」
アベーノがひざまずいて両手を合わせた。
玄武は、私たちに顔を向けた。
その濁った瞳は、私たちを真正面から見据えているようだった。
値踏みをするように、まぶたが下げられる。
その半目は、深い知性を湛えているように感じられた。
やがて、興味を失ったかのように目を閉じた。
鼻を鳴らすように水を噴き出すと、再び水面下に潜っていく。
波紋が消えていく。
「な、なに、あれ?」
「なんか、私たちに言ってた?」
私たちはその光景に唖然とする他はなかった。
「……古き言い伝え…… まことであり申した…… ストーク御神、ケータイ祖神、降臨したまいしそのとき、玄武さまが、お姿をお現しに、なれり……」
アベーノは感極まり、目と鼻と口から滂沱と汁を流した。
「玄武さまも、お慶びに、なれり……」
震える声でそれだけ言うと、その場にうずくまった。
『おおおぉぉ……』
この場にいる全員が、その奇跡を目に焼き付けていた。
モノノフも巫女もゲンブに住む村人も。
次の瞬間、爆発的な歓声が起きた。
『マジヤヴアエ!!!』
『マジャバー!!!』
『我らが神!!!』
——なんて、間の悪い……
玄武……? なんて、イジワルなのだろう……
私たちは、それぞれの仮面を見合わせた。
困惑なんてものではなかった。
私はマカーベを見た。
マカーベは呆然と湖を見ていた。
やがて、私の視線に気がつくと、はっとしたようにひざまずいた。
——マカ、ベくん……?
もうマカーベは、私を抱っこしてくれない……
なぜか、それは確信できた。
それは、すでに不可逆的だった神格化を、さらに強固にさせる意味を持っていた。
だけど、この時はまだ知らなかった。
これは、まだこの「神話」の序曲にすぎないことを。




