21話 鉄扇と抱っこ
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Yamagata.T@Guntama.univ ・3日前
動画⑥に映る前方後円墳状構造について。
今城塚古墳(継体天皇陵有力候補)との類似を指摘する声があるが、重要なのは「形」ではない。
継体期は王統再編の時代である。
王権は“血統”よりも“象徴”によって再構築された。
その象徴の中心にあったのが、勾玉を含む祭祀体系だ。
境界を越える王。
再接続される王統。
偶然にしては、出来過ぎている。
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***
「妖気が濃かった故、飛んできてみれば……」
ミヤビの声が緊張を帯びた。
その日本語のイントネーションは、アベーノとは違った。
もっと、新しい時代……
そして、明らかに話し慣れている。
——もしかして、転移者の子孫たちの…… コミュニティがある……?
「千尋…… やばいよ……」
日向のその声に、はっと我に帰る。
目の前でまた黒い煙がまとまりつつあった。
「グルルル……」
スザクが頭を下げて、唸り声を上げた。
私たちの前で霧散した影が、再び集まってくる。
「どうしよう…… フォースセイバーがあれば、もしかしたら……」
レイスは、散らばった鎧の上に浮かんでいた。
その下に壊れたフォースセイバーもある。
——ない…… ないッ! ナイイイィィッ!!
ぶわっとした狂気が、空気の波動となった。
息がつまる圧迫感と殺意が押し寄せる。
——探してる…… ? もしかして、この勾玉……?
「なかなかの怨霊じゃ……」
ミヤビがつぶやいた。
後ろで巫女たちが、静かに立っている。
皆、黒髪の長髪だった。
——ピーコ……って、もしかして、この中にいる?
私は場違いなその思いを抱かざるを得なかった。
いや、今はそんなことを考えてる場合じゃない。
ミヤビが鉄の扇子を広げた。
——鉄扇ッ?! 初めて見たけど、重そう……
「我らの出番じゃな…… ものども! カグラ鈴!!」
ミヤビが鉄扇を頭上に掲げた。
その指示に、後ろでシャンシャンと鈴が鳴り出した。
振り向くと金色の鈴を鳴らしながら、数人の巫女が舞い出した。
——しゃんしゃんしゃんしゃんしゃん……
その鈴の音が、狂気に満ちた空気を押し戻していく。
「錫杖!!」
鉄扇が翻る。
どん! どん! じゃらじゃら! どん! じゃら!
輪っかがついた金属の杖を打ち鳴らし始める。
鈴の音にドラムのような響きがアンサンブルを奏で始める。
——ギャア、ア、ァ
レイスはその音に、塩をかけたナメクジのように縮こまっていく。
——やっつけた……?
「くっ! ここまで、強いとは……!」
しかし、ミヤビはレイスを睨みつけた。
——石を、まが、たまを、返、せ……!
レイスは次の瞬間、爆発するように膨らんだ。
そしてそのまま、私に向かって、飛び込んできた。
「マカ、ベくん……!」
レイスはマカーベをすり抜け、その黒い口を開けた。
その口の中は、吸い込まれるような深淵の闇だった。
「きゃ!」
次の瞬間、私の目の前でレイスが吹き飛んだ。
遅れて突風が私のダース仮面に吹きつけた。
「ふんっ!」
ミヤビの鉄扇の一振りだった。
レイスは壁の方まで吹き飛ばされ、再び霧散した。
だが、それも一瞬だった。
吹き飛ばされた場所で、また集まると、にたあと口を開けた。
——サカイ、ヲ、コエタ、モノ……
「マジか……」
柚月がぺたんと座り込んだ。
「鈴! 軽やかに! 錫杖! もっと強く!」
ミヤビの指示に、鈴の音色が変わる。
再びレイスは、動きを止める。
「薙刀!!」
ミヤビが再び鋭く指示を飛ばすと、薙刀を持った巫女が四人すっと前に出た。
「結界で動きを止めよ。鈴! 錫杖!」
すっと薙刀を構えた巫女が、静かに前に進んでいく。
その後ろから鈴と錫杖も続いていく。
「千尋行くよ! マカーベ! 千尋を抱っこして!」
そのとき、日向が叫んだ。
ミヤビの鉄扇が、ほんの一瞬止まった。
気のせいかもしれない。
「えっ? 抱っこ?」
「オン…… アルジカミさま……?」
マカーベが困惑した声を上げた。
「簾の奥に行くよ! 柚月も立って!」
日向は立ち上がり、柚月を引っ張った。
「マカーベ! 良い? 柚月も!」
「分かった!」
柚月も立ち上がる。
日向は簾の奥を指差して、走り出した。
柚月もそれに続く。
「マカーベ! 早く!」
「は、はっ!」
マカーベが慌てたように私を抱き上げる。
「きゃっ!」
私は、再びマカーベに抱っこをされた。
その声に、ミヤビの目が一瞬だけ、こちらに向いた。
それが何を意味するか、考える余裕はなかった。
ダース仮面の下は、真っ赤な顔をしていると確信できるほど顔がほてっていた。
柚月のライトが闇を照らす。
簾の奥の部屋は、もう闇はなかった。
奥の部屋にある掛け軸が、ライトに照らし出された。
「やっぱり! あった!」
日向が叫んだ。
「千尋! 詠んで!」
柚月がライトを当てた。
私はマカーベの力強い腕の中で、固まっていた。
「なに、固まってんの!」
「マカーべさん! 早く下ろしてあげて!」
「……お、下ろして……」
下ろしてもらっても、口から心臓が飛び出しそうなくらい、胸が鳴っていた。
シャンシャンシャンシャン……
ドンッ! ジャラ! ドン! ドンッ!
巫女たちとレイスとの戦いは、まだ続いているようだった。
耳を澄ますと、神殿の外ではアンデッドとモノノフたちの戦いの喧騒が聞こえた。
私は顔を上げた。
掛け軸の崩し字は、読めない。
だけど、見覚えのある形だった。
——良かった…… 別の和歌だったら、詠めなかった。
「んっ、んん」
一つ咳払いして、深呼吸する。
「瀬をはやみ〜岩にせかるる滝川のぉわれても末にぃあはむとぞ思ふ〜」
「……」
何も、起こらない。
「なにも、起こらないんですけど……?」
「千尋? もっと情感込めて! 詠まないと」
二人の視線が痛い。
——恥ずかしがってちゃ、ダメだ。
みんな、戦ってる。
でも、そんなの望んでない。
早く、帰りたい!
帰るんだ!!
私は目を閉じた。
「瀬をはやみー 岩にせかるる 滝川のー
われても末にー あはむとぞ思ふ〜」
「……」
しゃんしゃんどんどん……
ミヤビの叫び声が、絶え間なく聞こえてくる。
「……チヒロ? オン、アルジカミサマ」
「千尋? 意味が、分かってて詠んでる?」
「そういう柚月も分かんないでしょ!」
日向がツッコミを入れる。
——意味……?
あの名作漫画『ちはや』を脳内で素早く検索する。
なんか、書いてあったような気がする。
たしか、別れた男女が、またきっと会えると信じてる、というようなことを詠んだ歌だった。
——あっ! 今の私たちだ。
日本の日常から切り離されて、こんなところにいる。
離れ離れ……
お父さん……
きっと、必ず帰る。
必ず、会える。
「分かった!」
私は再び深呼吸をした。
目を閉じて耳を澄ますと、鈴と錫杖のリズムが耳に心地よく響いた。
自然とその音のリズムに、歌を乗せるように口を開いた。
「瀬をはやみ〜 岩にせかるる 滝川のぉ
われても末にぃ あはむとぞ思ふ〜」
自分でも、びっくりするくらいの声量だった。
その声は石造りの壁に反響し、鈴と錫杖の音色と溶け合った。
その瞬間、掛け軸が淡く光り始めた——
ほどなくして、鈴と錫杖の音が止んだ。




