15話 送信と骨
Me Tube『地図にないトンネル ⑥』
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@conspiracy_guy 2時間前
これ警察も調べてるらしいけど、炎上商法だろ
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@older_sister_type 3時間前
お願い、無事でいて。ご家族のこと考えたら胸が苦しい
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@local_resident 5時間前
地元民だけど、あの旅館の裏、昨日から警察と消防がずっといる
トンネル崩れてて入れないらしい
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返信 ↑
@news_junkie 4時間前
マジか…生きててくれ
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***
獣臭さとカビ臭さがつんと鼻をついた。
空気が明らかに変わっている。
マカーベの勾玉は淡く光ったまま、ぼんやりとその凛々しい顔を照らす。
柚月のライトが照らし出したのは二つの石棺だった。
「戻ってきちゃった……」
「マジか……」
振り返ると入ってきたはずのトンネルの鉄の扉は、石の扉に変わっていた。
目の前には、あの石棺が鎮座している。
あの…… サイクロプスの寝床?
「……マカーベさん? 降ろして……」
マカーべの力強い腕に抱かれたままだった私がはっと意識を取り戻した。
マカーベが慌てて、私を降ろした。
日向と柚月の二人がにやにやしてこっちを見ていた。
「私も抱っこして欲しいなあ」
「そんなことより電波! メールだけでも……」
私はポケットの中から、スマホを取り出した。
アンテナ一本。
4Gの表示がついていた。
残りのバッテリーは3%。
通知を無視して、メールボックスを開いた。
「今、どこにいる?無事か?返信してくれ」
「お父さん……」
父からのメール、着信が数十件溜まっていた。
日向も柚月もスマホを覗く。
マカーベは剣の柄を握り、辺りを警戒するように後ろを向いていた。
送信失敗のメールを開く。
「お父さん、ごめん」
削除、やり直し。
震える指でフリック入力をしていく。
「無事です」
送信。
バッテリー2%。
「日向も柚月も一緒」
送信。
「トンネルに入った」
送信。
「崩れて出られない」
送信。
「知らない場所にいる」
無情にもバッテリーの数値が減っていく。
バッテリー残り1%。
「でも、生きてる。絶対帰る」
送信。
「お願い!」
シュポン……
祈るように送信をタップする。
日向も柚月も、手を組み合わせて目を閉じた。
次の瞬間、最初のメールに「既読」がつき、瞬く間にすべて「既読」になった。
「既読ついた!」
「届いた!」
ほっとした歓声が上がった。
「お父さんから、返信来た!」
父からのメールの冒頭が表示される。
「無事で良かった。あそこのトンネルは、昔……」
メールを読もうとした時、バッテリーがついに尽きた。
私は真っ暗になったスマホを持ったまま、固まった。
「……お父さん、あのトンネル、何か知ってたの?」
電源を入れ直す。
続きが気になる。
「お願い!」
ポン…… 一瞬、画面が光り、すぐに電池マークが表示された。
「マジか……」
日向が天井を仰いだ。
柚月がため息をついてライトを周囲に向けた。
「あ! 柚月! 右側の石棺の壁を照らして!」
私は昨日見た模様を思い出した。
「これって、勾玉と同じ形だよね……」
手のひら大のアルファベットのCの形。
陰陽太極図のような模様は、マカーベが持っていた勾玉と同じ形だった。
——昔、父に連れられていった発掘現場で見つけたのと、似てる……
「見て、こっちにもあるよ」
左側の石棺の壁にも上下左右逆さの同じ模様があった。
「あ、これって……」
ヴン…… 私はフォースセイバーのスイッチを入れた。
フォースセイバーの赤い光を石棺の間の壁に向ける。
その瞬間、カタカタと乾いた音が響いた。
赤い明かりが、小さな勾玉の模様が並んで四つ彫られているのを照らし出した。
「ぐるるるる……」
散らばっていた骨の破片が、まるで見えない糸で引っ張られるように寄り集まっていく。スザクが威嚇し出した。
「この窪みって、もしかして……」
私がつぶやいた時、柚月の悲鳴が上がった。
「嘘でしょ! 骨が動いてる……」
「ヴァンヴァン!! グルルゥゥ!」
スザクが毛を逆立てて、吠え立てた。
ヴゥン…… 振り向くと同時にフォースセイバーは音を立てて赤い光が残光を描いた。
そのフォースセイバーの光に反応したかのように、骨が組み合わさり始めた。
「御面、つけろ!」
それと同時にマカーベが叫んだ。
石室の向こうから、鎖帷子のガチャガチャした音が響いてきた。
アベーノが何かを叫んでいる声が聞こえた。
その声は切羽詰まったような、悲痛な声だった。
「やばい……」
「マカーベ、死罪になっちゃう」
私たちは慌てて仮面をつけた。
「マカーベ! 私はヒナタ、この子がユヅキ、そしてチヒロ。覚えといて」
日向がマカーベに小声で囁いた。
「……チヒロ」
マカーベの顔が私を向いた。
私はダース仮面の下で、顔が赤くなった。
「ちょっと、こっち来てるよ!」
骨は吊り上げられるように立ち上がった。
柚月が悲鳴を上げ、マカーベの後ろに隠れるように下がった。
薄汚れた骨は、一つとして完全なものはなかった。
噛み砕かれ、折れたその破片は、人のものか動物のものか、判別できない。
しかし、それは操り人形のように歩き出した。
「カタカタカタ……」
人の頭骨を形作った顔が、百八十度こちらに向いた。
そして、その口が、不気味な音を発した。
まるで笑っているような、おぞましい音だった。
「ひっ!」
「来ないで!」
「わんわんわん!!」
そのスケルトンは、私の手に持つフォースセイバーに反応したかのように、ゆらりと向きを変えた。
その刹那、マカーベが長剣を抜き払うと同時に、居合いのように振り下ろした。
頭から袈裟懸けに斬られたスケルトンは、ガラガラと音を立てて一瞬崩れ落ち——
そしてまた、上から引っ張られるように元に戻った。
「チヒロッ! ゼッタイ、たすける!」
マカーベの燃えるような目が、私を見据えた。
「マカ、ベ、くん……」
マカーベは再び剣を振るう。
一閃、二閃、三閃。
ガシャ! ガシャンと骨を砕く音が響く。
しかし、骨は何度でも再生した。
「カタカタカタ……」
スケルトンの口が動き、私の方を向いた。
「来ないでえ!!」
私はフォースセイバーを握りしめて、スケルトンに向けた。
手が震え、ガクガクと足がすくんだ。
二つの石棺は高く、その挟まれた空間は狭く、どこにも逃げ場はなかった。
ゆらりと迫るスケルトンに、震える足で後ずさる。
背中が壁に触れた。
フォースセイバーはぶるぶると震え、その度に残光が尾を引いた。
「きゃあ!!」
スケルトンの手がフォースセイバーへ向かって伸びた。
その背後から、マカーベの剣が何度も骨を崩した。
しかし、一瞬にして修復されていく。
「カタカタカタ……」
「いやあッ!!」
そのとき、私が突き出したフォースセイバーが骨の腕に触れた。
コツンと押しのけた感覚があった。
「御主神様!!」
「グルルル……! ワンワン!!」
割れた石室の扉から、アベーノが飛び込んできた。
スケルトンを見たその顔は青ざめ、目が見開かれた。
後ろから、松明を持ったモノノフたちが続いていた。
「ま、魔性のもの……」
アベーノの声が震えた。
モノノフたちが慌ただしく石室に入ってくる。
瞬く間に石室は、人でいっぱいになった。
『黒神さまをお救いするのじゃ!』
ロート・フォーゲルの叫びに、モノノフたちは剣をスケルトンに向けた。
「来ないでぇ!!」
私は目をつぶって、フォースセイバーを振り回した。
こつんこつんと、骨に当たる感触が手に響いた。
——もろい感じがする……
「御、黒神さま……」
アベーノの困惑した声が響く。
私が目を開けると、フォースセイバーに当たった骨が、砂のように崩れていた。
「か、た…… か……た……」
フォースセイバーの光が当たった場所から、スケルトンの骨は次々とヒビが入り、砂となっていく。
瞬く間に、私の前に砂の小山ができた。
「えっ…… なんで?」
私は呆然としたままフォースセイバーを握りしめ、立ち尽くしていた。
静寂が、石室を包み込んだ。
誰も、何も言わない。
「おぉ……おお……」
やがて、アベーノが震える声を出した。
「光の剣…… 魔性のものを、塵に還す…… まさしく……」
アベーノが膝から、崩れ落ちた。
「まさしくッ! 神っ!!」
その絶叫が石室に轟いた。
『本物の神じゃあッ!!』
ロート・フォーゲルが何かを叫んで、片膝をついた。
モノノフたちも、自然とひざまずいた。
『神! 我らの神!』
モノノフの一人が叫んだ。
『マジヤヴァエ!!!』
『マジヤバエ!!』
熱狂的なマジヤバエが石室にこだました。
——違う! そんなんじゃない!
私は、ただの女子高生……
小説家になることを夢見る、ただの女の子。
神なんて言わないで!
「お父さん! 助けて……」
その叫びは、誰にも届かなかった。




