14話 勾玉と境
Yafooニュース
【女子高校生3人が行方不明。最後の目撃は金曜夜。SNSでは憶測も】
群玉県前澤市で女子高校生3人が同時に行方不明となってから、2日が経過した。3人は
市内の同じ高校に通う友人同士で、金曜夜に外出した後、家族や友人と連絡が取れなく
なっている。SNS上では、3人が以前から「地図にないトンネル」と称する場所で動画
撮影を行なっていたことから、先日崩落が確認された裏山との関連を指摘する声が出て
いる。警察は事件、事故の両面から崩落との関連を含め慎重に調べを進めている。
(群玉新報・20日 20:34) 続きを読む
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⚪︎dke******
無事に見つかってほしい。ただそれだけ。家族の気持ちを考えると胸が痛い。
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⚪︎kbt******
SNSの憶測は控えるべき。まずは安全を祈りたい。
返信 22 共感した 98 なるほど 5 うーん 0
⚪︎jmn*****
最近の子は夜に配信とか普通だからな。親は把握してなかったのかな。
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***
天井から、砂がダース仮面の頭に降りかかった。
こつんと小石がヘルメットに当たって、私ははっと我に帰った。
「わんわんわん!!」
スザクが柚月の周りを走り回って吠え立てていた。
「……崩れて、くるかも」
私が誰にともなくつぶやくと、その声に柚月も顔を上げた。
耳を澄ますと、どこかでコンクリートがきしむ嫌な音が続いていた。
「ヤバいよね……」
「……逃げないと」
土砂とコンクリートと岩で塞がれたトンネルは、人力では到底、掘り起こせないと見ただけで分かった。
近づくだけで足元からかすかな振動が伝わってくる。
私はダース仮面のヘルメットを取った。
投げ捨てたい気持ちを押さえて小脇に抱える。
——柚月のお兄ちゃんのだった……
日向も柚月もすでに、お面は外していた。
「奥に、行こう……」
日向が首を奥に向けた。
「そうだね…… トンネルの向こう側に抜けられるかも……」
「……もしかしたら、あっちの世界に行かなかったら、生き埋めになってた……?」
「……」
例えそうだとしても、不運なのか幸運なのか誰にも分からなかった。
私たちは大きなため息をついて、重たい足を来た道に向けた。
そのとき、金属音が暗闇の向こうから、かすかに響いた。
「……何、今の?」
「鎖帷子……?」
柚月がライトを向ける。
光の輪の中に、何かが動いた。
「グルルル……ウォンウォンウォン!!」
そのとき、スザクが吠えた。
「誰か、いる……?」
柚月がライトを向けた先に、人影が伸びた。
鎖帷子にマント、剣を下げた長身のモノノフ。
その人影は、眩しげに手を顔に当てがった。
「マカーベさん!」
「マジか……!」
その声を聞いたマカーべは、慌てて平伏する。
「もう、それはいいから……」
日向がため息をついた。
「マカーべさん。やめてよ」
「もしかして、マカーべさん、日本語話せない? 大和言葉、分かる?」
私はその疑問を確かめたかった。
日本語を話せるのは、神官の格好をしたアベーノ、ヨシーノ、ミワーノだけ。
モノノフたちは理解をしていなかった。
だけど、マカーベなら、もし転移者の子孫だったら、言葉も受け継がれているかもしれない。
果たして、マカーべは言った。
「オン、アルジ、カミサマ…… お面、外すな」
「えっ? 外すなって、タメ口?」
柚月が思わず突っ込む。
抑揚は変だったが、「御主神さま」と言ったのだと分かった。
「やっぱり……」
「日本語分かるの!?」
日向が目を丸くしている。
「祖父の祖父、江戸。言葉、少し。父、夜、教える」
マカーべは平伏したまま言った。
「江戸! かへりたし!」
やっぱし、あのかへりたしは、江戸時代か!
マカーベは松明を、持っていなかった。
——落とした?
ここに迷い込んで、暗闇の中、途方に暮れていたのだろうか。
「マカーべさん? どうやって、こっちに来れたの?」
日向が問いかける。
「……?」
「境を越えた……? なぜ?」
私はその言葉を思い出した。
その”境”にマカーべは反応した。
「境…… 勾玉、光った。祖父の祖父、残したもの」
マカーベは巾着のついたネックレスを襟から引っ張り出した。
巾着から光が漏れている。
巾着をひっくり返すと、光り輝く勾玉が転がった。
「つまり、この勾玉があれば、境を越えられるってこと……?」
マカーべが首を振った。
「祖父の、祖父の、言い伝え……」
マカーべはたどたどしく話すが、もどかしそうに口をつぐんだ。
「きれい……」
「これって、スマホと同じ明るさじゃない?」
冷たい青白い光が、手のひらから漏れてその場を照らし出した。
「ほんとだ……」
私はスマホの画面を再び開いた。
比べると似たような現代の光り、明るさだった。
ちらりと表示に目を向ける。
変わらず圏外の表示。
バッテリー5%の表示に顔が曇る。
「……境を越えるには、この光が必要?」
——ここ…… 世界と世界の境目なんだ……
私は思わず心の中でつぶやいた。
そのとき、地響きが起きた。
パラパラと砂と小石が降り注ぐ。
「やば、早く行かないと」
「マカーベさん? お面つけたよ」
日向が突然、ゴムを鳴らして言った。
もちろん、誰もお面はつけていない。
そんな余裕はない。
「顔を上げて。早く行かないと崩れちゃう」
マカーべがその声に顔を上げた。
柚月が持つライトと勾玉の明かりが、四人の顔を浮かび上がらせた。
私とマカーべの目が合った。
そのマカーべの目が見開かれた。
「ピー…… コ……?」
マカーべの口から、呆然としたようなつぶやきが漏れた。
「ま、かべ……くん?」
正面から見るその端正な顔は、真壁くんにそっくりだった。
——ピーコ……?
女の人の名前……?
一瞬の間だった。
慌ててマカーべが平伏しようとした時、日向が叫んだ。
「マカーべ! 立つのじゃ! 急ぐのじゃ!」
「わんわんわん!!」
土砂が崩れ落ちる音が後ろで響いた。
マカーべも緊急だと悟ったらしい。
その顔がきゅっと引き締まり、素早く立ち上がった。
「走れ!!」
日向と柚月が走り出した。
しかし、二人とは比較にならないほど、私は運動音痴だった。
一学期の体力テストで五十メートル走、十五秒……
ぶっちぎりの最下位だった。
「千尋!」
柚月が遅れた私に気がついて振り返ったとき、大きな影が横切った。
マカーべが風を切って駆け戻ってくる。
そして、私の手を取った。
「……えッ!?」
顔がみるみる真っ赤になっていくのが分かった。
「ま、待って……」
マカーべの大きな手に強引に引かれて、膝が崩れる。
「千尋っ! 早く!」
「マカーべさん! 千尋頼む!」
柚月のライトは前方の闇を切り裂いていく。
マカーベが後ろを振り向いたその目が、緊張を帯びた。
トンネルの奥で雪崩のように壁が崩れ始めていた。
すぐ後ろでコンクリートが剥がれ落ち、大きな破片が地面に落ちた。
マカーべに力強く引っ張られ、足がもつれて転ぶ。
岩が落ちる音、コンクリートが崩れ落ちる地響きが、すぐ後ろから迫った。
砂煙が舞い、土臭さが押し寄せる。
マカーべの眉がきゅっと寄った。
力強く引き寄せられる。
「きゃっ!?」
そして、私の軽い体がふわっと浮いた。
「かるい」
マカーべが私の肩から脇に手を回し、両膝を抱え上げたかと思うと、一瞬でお姫様抱っこにされていた。
真壁くんそっくりの顔が、すぐ近くにある。
りりしい顔立ち、力強い腕。
脳内で「なろう小説」のテンプレ展開が一気に再生される。
——こんな時に! なに考えてるの私は!
私は、ただのモブのはずなのに。
マカーべは私を抱えたまま、日向たちに追いついた。
トンネルは息をつく暇もなく、ドミノ倒しのように土砂に埋もれていく。
私は鞄とダース仮面、フォースセイバーをしっかりと握りしめながら、顔を真っ赤にして硬直していた。
「いいなあ」
柚月がつぶやいた。
「わんわんわん!」
スザクが吠えた先には、鉄の扉があった。
ドアのノブは取れている。
重たいそのドアを日向と柚月が体ごと押し付けて開いた。
ぎいっとドアが軋み、一人が通れる隙間が出来た。
そこに日向、柚月、マカーべと私の順で中に滑り込んだ。
後ろでトンネルが崩壊していく音が轟いたのが、どこか遠い出来事のようだった。




