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神様やめたい ! 〜万バズから始まるJK三人組の異世界勘違い神話  作者: タキ マサト
第二章 御主神たちの憂鬱

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13話 崩落と禁断の術式

Yafooニュース(地域版)


 【解体工事予定地で崖崩れか】

  群玉県前澤市にある廃旅館および工場の再開発予定地で、裏山の一部が大規模に崩落

  していたことがわかった。崩落は金曜夜から土曜未明にかけて発生した可能性が高い  

  とみられ、現時点で人的被害は確認されていない。現場は、地盤の不安定さが以前か

  ら指摘されていた廃旅館・工場跡地の裏手に位置し、市は付近一帯を立ち入り禁止と

  し、二次災害の防止を最優先としている。警察は崖崩れの発生状況を詳しく調べると

  ともに、周辺で報告されている行方不明事案との関連についても慎重に確認を進めて

  いる。

  (群玉新報・19日 7:12)                     


          



   ***




 

 夕暮れ時、神廟の前の広場に着く。

 昨日よりも明らかに牛車(ぎっしゃ)の進みは遅かった。


 ロート・フォーゲル卿のモノノフたちが慌ただしく野営の準備をしていた。

 炊事の煙が上がっているのが見える。


 簡易な柵が張り巡らされている。

 その柵の門を牛車は入っていく。


 門番のモノノフたちが片膝をついて、私たちを見送った。

 兜の下の表情は見えない。


 カモーノのモノノフたちとは明らかに違う、中世の騎士のようだった。


 四方を布で区切られた一角に牛車は入っていく。

 中に天幕が見える。


 私は後ろを確認し、日向たちが乗る牛車がついて来ているのを見て安心した。


 アベーノに促され、私は天幕の中に入る。

 一人取り残されたと思った時、入り口に人影が立った。


「千尋!」

「わんわんわん!」

「日向! 柚月! うえええん!」

 天幕の中で抱き合った。

 スザクがしゃがんで泣く私の股に、顔を埋めた。


「もう、離れないよ……」

「うん……」


 私たちは忌々しげに仮面を外した。


「これから、どうなるの? 私たち……」

 いつもクールな柚月が泣きそうな顔になっていた。


「……ちょっと、聞いて……」


 私は小声で二人に囁いた。いつどこで、誰に、何を聞かれているか分からない。

 牛車の中で思いついた作戦を二人に伝える。


「何?」

「ごにょごにょごにょ……」

「うん……うん」

「きっと、帰るヒントがあの場所にあるはず」


 何かは、わからないがそう確信があった。


 そのとき、天幕の向こうからアベーノの声がかかった。


御主神(おんあるじかみ)…… 御……」


「アベーノ! これより儀式をとり行います!」


 私は何かを言われる前に先手を取った。


「おぉ…… まさしく、まさしく…… 御儀式(おんぎしき)の、御支度(ごしたく)は、調(ととの)いまして、そふらふ」


「えっ?」


 アベーノも最初からそのつもりだったようだ。


「御儀式には、神官である、我、アベーノ、ミワーノ、ヨシーノ、護衛のモノノフにて()り行い計らい、そふらふ」


「そなたらは、そなたらのやり方で行うがよい」


 この展開は想定内だった。


「我らは我らのみで、とり行う」


——スマホで電波を探すところなど見せられない。


 また、とんでもない誤解をされかねない。

 それは予測不可能かつ不可逆的なトラブルを引き起こしかねなかった。


 一手間違えれば、死罪……


 長い沈黙だった。


 やがてアベーノがぽつりと現地語で口に出す。


『……まさか、禁忌の術式を…… 生死をかけて、境を越える、おつもりか……』


 アベーノの声が緊張を帯びた。

 言っていることは分からないが、私の手が緊張で固まった。


 ごくりと唾を飲み込むような間があったあと、アベーノは静かに告げた。


「御主神さまがた…… このアベーノ…… 何がありましても、現人神(あらひとかみ)であらせられる、御主神さまがたの、御命(おんいのち)は必ずや、お守りいたして、そふらふ」


「……お命って」


 また、何か誤解されてる……


「アベーノ! 我らは暗くならないうちに神廟に行きたい!」


 日向が急かすように声をかけた。


 私たちはうなずき合う。

 仮面をつける。

 日向が天幕の入り口の布に手をかけて、勢いよく開け放った。

 夕方の太陽が天幕の群れを赤く染めていた。


「御主神さま…… なにとぞ! なにとぞ! お待ちいただ……」


 慌ててアベーノが平伏し、後ろにいた人々もそれに倣う。


「これより神廟に向かう!」


 日向がアベーノの長口上を、無視して断言した。


 私たちは平伏している人々の間を抜けて布で囲まれた一角から出た。


「ぐるるる……」


 スザクも唸りながら、柚月の後に続く。


『御主神さま! 追え! 追うんじゃ!』


 アベーノが叫んでいるのが聞こえた。


 私たちのあとを、慌ててアベーノたちが追いかけてくる。

 神廟は天幕の真後ろに入り口を開けていた。


 入り口にはモノノフが門番のように立っている。


「そこ! どいて!」


 日向がカエルのお面のまま怒鳴り声を上げた。


『御通ししろ!』

 後ろから来たアベーノが何か声をかけると門番が左右に引いた。


『松明を! マカーべ! お守りしろ!』


 柚月がリュックからLEDライトを取り出し点灯すると、地下に降りる階段が照らし出された。


 ヴン…… 私はフォースセイバーのスイッチを入れた。

 低く唸るその音に、門番の肩がびくりと跳ね、後ずさった。


「いくよ」

 私たちは階段を降りていく。ライトが暗闇を照らし出す。

 石造りの通路。

 重く(よど)んだ空気は、昨日と同じ臭いがした。


 モノノフが、後ろから追いかけてくる音が響いた。


「二人はもう、充電ないよね?」


 私は祈る思いで、スマホの電源ボタンを押した。


「……ごめん、とっくにない……」

「千尋はまだ、残ってる?」


 フォン…… そのときスマホの画面が光った。


「あと7%……」

「マジか……」

「時間ないよ……」

「……アンテナ、立ってない……」


 私たちは足を早める。目指すは、石棺が置かれた石室。

 焦る気持ちが、恐怖を抑え込んでいた。


——こんなチャンス、きっともうない。


 後ろからアベーノが何かを叫んでいるが、どんどん先に進む。


 鎖帷子を鳴らして駆けてくる音が、遠ざかる。

 後ろの松明の明かりはもう届かない。

 いつの間にか後ろの足音も、叫ぶアベーノの声も聞こえなくなっていた。


「ねえ、こんなに歩いたっけ?」


 ピロン……

 スマホが振動した。

 着信、メール通知の件数が昨日の倍になっていた。


「電波入った!」

「やったじゃん!」


 三人で立ち止まり画面を覗く。


 電波状況は、3Gと4Gを行ったり来たりしていた。


「奥まで行けば、もっと入るかも」

「そうだね」

 画面と睨みっこしながら歩を進める。


「見て! コンクリ!」


 柚月が叫んだ。

 ライトが照らし出した壁は、ひび割れ、薄汚れたコンクリートだった。


「まさか……? 帰って来た……」

「あのトンネル……?」

「うえええん」

「わんわんわん!」


 私たちは、腰が抜けたように座り込んだ。


「アベーノたちは?」

「後ろには、誰もいない」

「電波は?」

「だめ…… 圏外……」

「早く、家に帰ろっ! みんな心配してる」


 私たちは立ち上がった。

 自然に笑顔がこぼれる。


「お前も、ご主人さまのところに帰りたいよな」

「わん!」


「お母さんのカレー、お腹いっぱい食べる!」

「早く、お風呂に入りたい!」

「推しの新刊!」


 自然と足が軽くなる。


「その前に、追試の勉強しなきゃ……」


 我に返ってつぶやいた私に、


「千尋! やめて!」


 二人が同時にツッコミを入れた。


 私たちは笑いながら、足早に駆けていく。


 ふと、振り返りたい衝動があった。

 あの世界。

 あの神殿の匂い、牛の鳴き声、アベーノの古語。


 マカーべが首のないサイクロプスの傍で膝をついていた、あの午後の光……


 でも、振り返らなかった。

 振り返ったら、また引き戻される気がした。


「スザク待って!」

「わんわんわん!!」


 ライトの先にスザクが立ち止まって、こっちを見ていた。


「どうしたスザク?」


 柚月がライトを前方に向けた。


 その先に、何かが見える。


「なに…… あれ?」


 私たちは足を止めた。

 心臓が冷えていく。


 コンクリートの壁に、新しいひび割れが走っている。

 天井にも無数のひび割れ。

 土臭さが濃くなる。

 水の滴る音。


 嫌な予感が胸を埋め尽くす。


「……なんで」

「マジ……で」


 柚月の手が震えた。


「嘘…… イヤ……」


 柚月が膝から崩れ落ちた。

 日向が頭を抱えた。

 私は呆然と立ち尽くしていた。


 柚月がライトを照らした先は、崩れた大量の土砂と岩だった。

 ()き出しの錆びた鉄筋が露出している。


 鉄筋に、何かが引っかかっていた。

 土で汚れたコンビニのレジ袋。


 日本の、もの。

 もうすぐなのに……


 もうすぐ、日常はそこなのに……


 空気が一瞬、重く押し返すように感じられた。


 トンネルは完全に塞がれていた。


 

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