11話 城主と駕籠
『地図にないトンネル ⑥』(11:22)
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@tazaki_kobito_densetsu 3日前
複数の解析アプリで検証した。合成・AIの確率は5%以下。マジで何かいる。
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@ranebo_miku_12wb 3日前
9:52から亀、虎、龍、鳥が動いているのが見えるね。あれって四神?
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@dergra_vorno25 3日前
一つ目の鬼の後に、首のない西洋風の鎧が動いてる……
@hanepi_hanesaru
4:11 拡大してみた「かへりたし」って赤い字で書いてる。
筆跡から江戸後期のものと推測される。
***
夕食は昨晩と似たようなものだった。
私たちは黙り込んで、その味の薄い食事を詰め込んだ。
この世界では、一日二食だけのようだった。
育ち盛りの私たちには到底足りない。
食べ終わるとお面をつけるようにヨシーノの指示が飛んだ。
完食した器を下げるヨシーノの顔に、満足げな表情が浮かんだ。
「明日は、城主様に御拝謁、賜りたく、そうろう……」
簾の向こうからヨシーノが声をかけ、足音が去っていった。
耳を澄ます。
戻ってくる気配はない。
ほっと力が抜けて、お面を外した。
「マジか……」
「ゲンブって、何?」
私たちはどっと疲れて、薄っぺらい布団に倒れ込んだ。
「神様じゃないって思われたら、きっと殺されるよ……」
柚月が不安げに日向を見た。
「マジムリ……」
「だけど、日向がいなかったら、マジ終わってた……」
そうなのだ。
日向の天然発言が、アベーノ達を翻弄しているのだ。
「マジやばいから始まって、秒で戻る、コーラ飲みたい……」
「ぷっ……」
「バカみたい……」
「アベーノたちが昔の日本語を話せるってことは……」
私は言葉を選んだ。
——そう、千五百年前と八百年前にケータイ祖神とストーク御神が日本語を広めたといっても、使う機会がなければ忘れられてしまう。
「昔から、たくさんの日本人が迷い込んできた。そして……」
そして、マカーべ。
あの日本人のような顔立ち。
その迷い込んだ日本人の子孫である可能性が高いと、私は推測していた。
石壁の「かへりたし」が頭に浮かぶ。
「でも、帰れなかった……」
私の言葉に、日向と柚月は黙り込んだ。
「ここで生き残るためには、神様になりきるしかない……」
「マジか……」
日向がつっぷした。
「日向がいれば大丈夫だな。な、スザク?」
「ワン!」
スザクは柚月の隣で顔を上げた。
「スザクか。スザク、ゲンブときたら、あと二つなんだっけ、なんかあるよね?」
「あー、あったね。なんだっけ?」
柚月も思い出せないようだった。
前に漫画で見たけど…… 疲れからか、頭がうまく回らなかった。
「まあ、なんとかなるっしょ……」
日向が欠伸をしながら言った。
こうして、長い二日目が終わった。
*
夢を見ていた。
古墳で見た、あの石壁の模様。
——あれ、どこかで見た。
セピア色の一番古い記憶。
幼稚園に上がる前。
父に連れられて行った土一色の発掘現場。
足元は柔らかくて、夏の太陽が背中を焼いていた。
発掘現場のはじっこで、シャベルで土を掘って遊んでいた。
「なに、これ?」
土の中から出てきた、緑がかった綺麗な石。
「これは…… きれいな勾玉だ……」
父がひったくるようにして取り上げた。
父は怖い目をして、でも目を輝かせた。
私はぎゃん泣きした。
でも、父は返してくれなかった。
——あの模様…… あの勾玉と、同じだった?
目の前が真っ暗になっていく。
あの、勾玉。あの後、どっかで見た……
どこかで見たような気がする。
ぼんやりとした意識の中、つぶやいた気がした。
そのとき、呼びかける声が聞こえた。
「……尋 千尋?」
薄目を開けると、日向のケロッパが覗き込んだ。
「おはよう……」
「千尋、やばいよ……」
日向のささやきが緊張を帯びた。
はっと気づいてダース仮面を手に取る。
簾の向こうに大勢の人の気配がしている。
『御主神様がたのおなあーり!』
ヨシーノの鋭い声が響いた。
一瞬で簾の向こうが静まり返った。
「御主神がた…… スザク城、城主にて、そふらふ……」
アベーノの声が響いた。
その隣で平伏する大柄な影が顔を上げた。
『我が名は、スザク城城主ロート・フォーゲルと申す。此度、神廟の奪回のみならず、ゲンブの地をも取り戻すとの御神慮。このロート・フォーゲル、感に耐えませぬ!』
腹に響きわたる、朗々たる巻き舌の現地語だった。
アベーノがゆっくりと訳し、続けた。
「ろーと・ふぉーげる卿より、此度の御親征、モノノフ千名の軍勢を、用意いたして、そふらふ」
アベーノがそこで言葉を切った。
アベーノが反応を窺うように、少し顔を上げた。
沈黙が重くのしかかる。
私の胸がざわつく。
——やばい。どうしよう? 言葉を待ってる?
私は、寝起きの頭で必死に考えた。
「我らは満足じゃ!」
私が考えをまとめるより早く、日向の声が投げやりに飛んだ。
「えっ……?」
私と柚月が同時に日向を見た。
「ちょ、日向……」
「やばい……? 適当すぎた?」
小声で言葉を交わす。その能天気な返しに私の首ががくっと落ちた。
「はっ! はー!」
簾の向こうで、さらに頭が下がる。
アベーノが通訳したらしい。静かなざわめきが広がった。
『御主神がたの御許可が下され、たもう……』
——もう、なるようになれ、だ。
腹を括るしかない。
『おお…… お喜びされている……』
『まさしく…… まさしく…… 我らの神が再臨された……』
ロート・フォーゲルが重々しく告げた。
『今度こそ、本物…… 我らの神が降臨された……』
アベーノが頭を下げたまま通訳した。
「今までのふとどきな神を騙るものどもとは違う、と、ろーと・ふぉーげる卿も、お喜び
いたして、そふらふ」
明らかに言葉の情報量が違った。
——意訳してる。……というより編集?
神を騙る、ものども……?
石壁の「かへりたし」が頭をよぎった。
あの文字を刻んだ人も、私たちと同じように、ここで神様を演じさせられた。
そして、最後は「ふとどきな偽神」として……
考えるのをやめた。
「いざ、これより、御親征にて、そふらふ」
アベーノがヨシーノに声をかけた。
「ただいまより、御駕籠が、参りまして、そうろう」
簾の向こうからモノノフが、大河ドラマでみるような駕籠を担いで来るのが見えた。
三台。 黒塗りに金の装飾。
簾がかかっていて、中は見えない。
「これに…… 乗るの?」
それぞれに二名のモノノフが担いでいる。
「ちょ、ちょっと、待って!」
「今から……?」
「マジか……?」
私たちは慌てて鞄を担いだ。
私はマントとフォースセイバーを手に取った。
「御主神さまがた、御簾をお上げ、あそばせたまえ」
否やはなかった。
簾が強制的に上げられる。
私たちはヨシーノに言われるがまま、駕籠まで誘導されていく。
「くうん」
乗り込む時、スザクが不安そうに柚月を見上げて鳴いた。
「大丈夫だよ、スザク」
柚月が撫でるが、スザクは落ち着かない様子だった。
最初にケロッパの日向が、ついで能面の柚月とスザクが、最後にダース仮面の私が駕籠に乗り込んだ。
——私たちって、なに? 神様じゃないの?
本当に神様だったら、こんな扱い絶対にバチが当たる。
動き出した駕籠の簾の中から平伏している人々が見えた。
カモーノの後ろにマカーべが控えている。
一人だけ平伏は浅く、こちらを上目遣いで窺っているようだった。
もう一人、顔を上げているのはアベーノだった。
その口が薄く笑ったように見えて、私はぞっとした。




