第2話 事前交渉
俺は有坂大佐には部下に彼らの取り扱いとして出来るだけ小さい子供を相手にするような対応で優しくするようにしてくださいと伝えた。それを聞いた有坂大佐は不審そうに眉をひそめた。
「手緩いな。軍の機密、ましてや国家の根幹を揺るがす未来の存在だ。厳重に監禁し、口を割らせるのが兵法だろう」
「それでは反発と不信感を引き起こすだけです。我々はいきなり過去に飛ばされて一切分からぬ場所に来てしまっているのです。不安と絶望を味わっている所に高圧的な態度を見せれば開く口も貝のように閉ざし助かりたいがために嘘が出てくるかもしれません。私のように何とか現状を理解している者がなけなしの勇気と覚悟で対応できるものは少数なのです」
新庄はそう言いながら気が抜けて足を小鹿のように震わせながら血の気を引いた青い顔で情けないことを言った。その様子に有坂大佐は値踏みするような目で見下ろしていたがその瞳から険しい敵意は消えていた。
「……口先だけの不遜な餓鬼かと思ったが、文字通り命を削って言葉を紡いでいた国臣か。良かろう」
有坂大佐はバスの方向き直り、バスの中にいる生徒と教師、周りを取り囲んでいるんだ部下たちに向かって大声で指示を出した
「未来から来た者たちよ! 我は大日本帝国陸軍砲兵大佐、有坂成章である! 貴殿らの素性、にわかには信じがたいが……この少年の覚悟に免じ、直ちに害を加えることはせぬ! 衣服を正し、順次これなる兵の誘導に従って降車せよ。重ねて言う、抵抗せねば命の保証はする!」
地を這うような、しかし先ほどまでの容赦のない殺気とは違う、どこか厳格ながらも配慮の滲む大音声が辺りに響き渡った。
有坂大佐はさらに、周囲を囲む部下たちへも鋭い視線を向けながら命じる。
「これより彼らを本部に収容する! ただし、手荒な真似は一切無用。恐怖で暴れさせぬよう、年若い幼子を導くが如く丁重に扱え。逆らう者のみ、最低限の力で制圧せよ!」
「はっ!」
軍人たちが一斉に敬礼し、銃剣を収めてバスの扉へと動き出す
生徒や教師も坂東の愚行による反撃と俺の交渉中の軍人達の対応で何とか暴れるものはおらずに小声で口々に不満や不安を友達や隣にいる者同士で共有する者や無言を貫く者がいる者の概ね軍人達の指示に従って持てる荷物を持ってバスから出てきた。
有坂大佐の「幼子を導くが如く」という命令が効いているのか、軍人たちの対応は驚くほど慎重だった。怒鳴り散らすこともなく、まるで行列の整理でもするかのように淡々と、かつ威圧感を与えないよう配慮しながら生徒たちを誘導していく。
俺はその様子に安堵しながら次はどうにか有坂大佐に自身の価値と主導権をある程度握るために手札と友達と担任を安心させるために声をかけてから自身が乗っていたバスに行こうとした
「有坂大佐、すいませんが俺の荷物を持ってきます。それには色々今後の話し合いで信用していただくための資料や実物等があるので」
「分かった、但し部下を1人付ける。その状態ではまともに運べないだろう」
有坂大佐の思惑としては監視半分配慮半分といった提案だったが俺はそこまで頭は回っておらず好意として受け取り有坂大佐が近くの部下に命令して俺を立ち上がらせるとその部下の肩を借りながらバスに向かった
「新庄大丈夫か!?無茶しやがって首から血が出てるぞ」
「加賀の言うとおりだ。あの馬で動けなかった先生が言うことではないが危ない真似をするな」
「ははは、すいません。それでもそうしないと色々不都合なことが起こると思って。まぁ、後の行動次第だけど金田先生と加賀、出来るだけ他の生徒と先生を落ち着かせてください」
その様子を見た加賀と金田先生は心配しながらも怒ったように言ってくれて有り難いと思いながらも有坂大佐の交渉次第では二人に色々動いてもらう事になるかもしれないためそうお願いした
他の生徒と教師、バスの運転手にガイドはそのままこの施設にある広い講堂みたいな場所に案内されてバスも馬を使って牽引して倉庫に運び込まれた。
俺だけが有坂大佐と付き添いの部下と一緒に部屋に通された。そこは簡素ながら長いテーブルに壁には日本と周辺国の地図が描かれていた
「さて、まずは未来の大日本帝国の実情を話してもらおうか」
「まずはこれは事実のみということを念頭に聞いてください。どんなに信じがたい話であっても」
有坂大佐が椅子に座り話しをすると俺はこれから起こる日露戦争の勝敗それによる賠償問題、日英同盟に第一次世界大戦、第二次世界大戦を出来るだけ重要部分だけを簡潔に抜粋しながら現在は日本は建前上軍隊を持たずにアメリカ軍に守られながら清とロシアの後継国に悩まされている事を伝えた。俺としても未来の実情をこんな短時間で理解されるとは思ってないがまずは嘘偽りなく概要だけでも伝えないと先には進めないと判断した
有坂大佐は俺の説明を最後まで聞き終えてから数十秒あるいは数分だろうか黙って考えている様子
「つまり日本は露西亜との戦に勝ち、英国と提携して列強の一角となる。さらに清国は滅び、我が国は東洋最大級の強国となる。だが最終的には米国との戦に敗れ、帝国は存続するものの軍を失い、外国の軍勢に守られる立場となった」
「――そういう理解で良いのだな?」
「大筋は間違っていません。一応の軍隊は無いわけではないですが事実上日本国内では軍隊は存在しない定義となっています」
「・・・分かった、今はそれでいいだろう。歴史の話はあとで詳しく聞くとしてその未来を信じうる証拠はもちろんあるのだろうな」
有坂大佐の言葉に俺はすぐにバスから持ってきた自身のカバンからタブレットを取り出して画面を見せた
「これは100年以上の先の通信機器であり数万の蔵書を保管できる図書館であり未来の娯楽用品が存在する機械と認識してください」
俺が起動するとそこには満開の桜の写真を壁紙にしてある画面が浮かび上がった。その様子をただ黙って食い入るように凝視をしていた
先程まで歴史の話を聞いていた時のような険しい表情ではない。未知のものを理解しようと神経を集中させているように見えた
「触ってもいいか?」
「勿論、但しガラス部分を叩いたりテーブルの上で持ち上げないようにしてください。落として壊れた場合修理することが出来ないので」
「・・・分かった」
俺は有坂大佐に渡すと外観を隅々まで食い入るように観察してプラスチック部分を軽く叩いたりしていた
「このガラスに映し出されている写真か?絵とは思えぬ。まるでその瞬間の目に見える空間をそのまま切り取ったかのような」
この頃の写真は白黒な上に画質もかなり荒い。現代の高画質の画像を見ればそのような反応にもなるだろう
「・・・この写真以外にもこの小さきものに数万の蔵書が納められているといのか??」
「信じられないのも仕方がないですが」
「実物を見ていなければ私は妖にでも馬鹿されているのであろうと一蹴していただろう」
「そして、これが直近の未来の技術です」
俺はタブレットを操作して有坂大佐に見えるように動かしながらGewehr 98、SMLE Mk IIIの図面とスペックを見せた
有坂大佐はそれを食い入るように細部まで見た。そりゃそうだろうな、数年以内に配備されるドイツとイギリスの小銃、しかも今の技術でも転用可能なはずの図面だからな。普通に国家機密レベルでこれを外国人が持っているなら機密情報漏洩で殺されても文句を言えないモノだからな
「SMLE Mk IIIは英国製、Gewehr 98は独製の小銃で数年以内に正式配備される物であり有坂大佐も理解されるでしょうがこれを持っている時点で」
「国家機密だな」
俺の言葉を有坂大佐が引き継いだ。しかもまだ成人もしていない少年が盗み出せる代物でもないしわざわざタブレットを見せて言い方が悪いが技術力の低い国に渡すメリットはない
「もし貴様が間諜であるなら、これほど価値のある情報を軽々しく見せる理由がない。全面的に信じるしかなかろう」
「ありがとうございます」
俺はこれでようやく交渉のテーブルにつけたと安堵していると一瞬で空気が重くなり背筋を伸ばさざるを得なくなった
「だが同時に危険極まりない存在であることも証明された」
「……」
「未来を知るということは国家の命運を左右するということだ」
有坂は静かに立ち上がる
「日露戦争の結果を知る者」
「列強諸国の兵器を知る者」
「未来百年の技術を知る者」
「その価値は、一個師団など比較にならん」
俺はその目を睨み返すように凝視して圧力に負けないように無意識的に立ち上がり
「その価値が分かっているからこそ情報を開示して信用を得ようとしているのです。俺自身の考えだけで申し上げるならその情報を対価に我々の保護と身の安全の保障、そしてこの大日本帝国が我々が知る屈辱的な歴史と傲慢な白人たちによる支配から守るために」
俺は迫力に負けないために怒声でも浴びせるように大きな声で宣言するように叫んだ
有坂大佐はそれを冷静にそれでいて鋭い眼光で見つめていた
「少年、1ついいか?それは誰からの指示ではなく本当に己自身の言葉だと誓えるか?」
「誓えますよ。俺は自らの情報の価値を十二分に理解してます。危険性だけを考えるのであれば俺を含む全員を殺したほうが万が一に海外の勢力に情報が流れることはなく不確定要素を排除出来ることはそれを上回る価値と覚悟を示さないと本当の部分で信じられないでしょう」
「お主の言う通りだ」
「ですからこれ以外の他の図面、今後先の未来の小銃、野砲、新たなる未来の兵器の全ての情報を渡します。但し、先ほど言ったように我々の身の安全の保障と保護を対価に求めているのです。勿論、さらなる信用がされるまで基地内での軟禁及び許可のない外出をした場合殺されても文句を言いません。これでどうですか?」
俺は早めに消化したほうがいい手札を晒す事で言質を取ろうとした




