6話
「やっほー、また、会ったね」
別の日、図書室に行くと菊野さんと再会した。
「……こ、こんにちは」
言葉に詰まりながら、菊野さんへ挨拶を返す。
菊野さんは私の隣に座った。わざわざ隣じゃなくても良いのに……。
「今日は何読んでるの?」
「……こ、これっ……」
私は持っていた本の表紙を菊野さんへ見せた。
「世界の山……? この前は星だったよね」
「……う、うん……」
「もしかして……博士になりたいの? 将来はタイムマシーンとか作ったり」
「……」
どうしてそう思ったの……?
それから、私達は色々話した。
「学校近くの森に、クワガタ出るんだって、今度取りに行こう!」
「給食のプリン美味しかったね! うちのクラスで一個余ったからジャンケンしたけど、負けちゃって……あー、プリン食べたい! もう、このくらい大きいやつ」
「国語の授業で、読書感想文書かないといけなくて……私、本読むの苦手。すぐに眠くなってくる!」
とは言っても、菊野さんがメインで話して、私は簡単に返すくらい。
普通なら口下手な私と話をしても退屈なはずだ。それでも、菊野さんは楽し気に私に話しかけてくれた。
ちょっと変わった交流が一ヶ月くらい続き、私は自分から話を切り出してみることに。
好きな食べ物は何?
簡単な質問。だけど、私には勇気が必要だった。何度も一人で練習した。
「き、菊野さんは……」
切り出す時、声は震えていたと思う。
「菊野さん? 陽菜で良いよ。みんな名前で呼んでるから……あ、そうだ。名前まだ教えてもらってない」
菊野さん……いや、陽菜からそう言われて、私は思わず笑ってしまった。
陽菜は一ヶ月もの間、名前を知らない相手と話していたということだ。
「……南黒子」
「黒子、ね……よろしく、黒子」
陽菜は私に手を差し出した。
それが握手を求めていることはわかった。
私は恐る恐る陽菜の手を握る。
陽菜が笑顔を浮かべる。その笑顔はまるで太陽のように私を照らした。
「……よろしく、陽菜」
そうして、私は初めての友達ができた。
***
「陽菜……どうして」
目の前にいる陽菜を見て、私は呟いた。
「黒子が図書室に籠るのは、昔からでしょ」
「……」
そう言われると、何も答える事ができない。
ただ、覚えていてくれたのが、少し嬉しかった。
陽菜は私の隣に座った。
「っ……」
体温が伝わってきて、心臓が高鳴る。
顔がじわじわと熱くなっている。
「この前はごめん。黒子を気絶させちゃって」
「……」
あれは、陽菜のせいではない。
突然の陽菜との再会で、私の頭がショートしたせいだ。そう考えると、陽菜のせいかもしれない。
「だから、お詫びとして……黒子の良いところはクラス皆んなに伝えといたから」
「……え?」
陽菜のお節介な台詞に、私は固まった。額に汗が浮かび上がる。
「……ど、どんなこと……言ったの?」
「うーんとね……すごーく人見知りで、人と話すことは苦手で……いつも本を読んでいて……とか、色々かな」
「……」
私の知らないところで、個人情報が漏れてる……!
人見知りは隠したいことの一つだし、良いところなんて、一つも言ってない……!
「うぅ……」
そういえば、陽菜は考え無しに行動する事が多かった。頭よりも感情で動くタイプ。
「どうしたの? お腹痛い? さする?」
陽菜は私のお腹に手を伸ばす。私はその手を振り払うと、立ち上がった。
「……陽菜のバカっ」
「え……」
私は陽菜から逃げた。
陽菜のせいで、平和な高校生活からますます遠ざかった。
***
「黒子、今度遊びにーー」
「黒子、お昼一緒にーー」
「黒子ーー」
私は徹底的に陽菜を避けていた。それでも、陽菜には諦めるという言葉がないのか、執拗に私に構ってくる。
「はぁ……」
今日は学校の行事で、マラソン大会の日。
距離は10キロ位で、疲れたら歩いてもOK。
けど、運動が壊滅的な私に取っては憂鬱な行事だ。
「……」
周囲を見る。
入学して一ヶ月が経ち、仲の良いグループが出来上がっていた。
私はクラスで話しているのは陽菜一人。その陽菜も私が現状避けている。つまり、ボッチ。
生きるって、大変……!
胃がキリキリと痛み、高校生ながら人間関係の大変さの一端を味わう。
「まもなくスタートします!」
数秒後ホイッスルがなり、皆んな走り始める。私もスローペースだけど走り始めた。
「おおお!」
叫び声に似た声。陽菜の声だ。
前方では陽菜がごぼう抜きし、トップを走っていた。
運動好きの陽菜には燃えるイベント。このまま、トップを掻っ攫うに違いない。
「はぁ、はぁ……」
校門を抜けたところで、息が上がってきた。
あっという間に周囲に追い抜かれてビリになる。
学校が見えなくなり、私は歩き始めた。
「……」
一人、だ……。
疲れた足でゆっくりとゴールを目指す。
三十分ほど歩いていると、青空が曇り雨に降られた。
「……最悪」
周囲を見るけど、雨除けになる建物はない。私は走って雨宿り出来る場所を探す。
「あっ……」
雨で滑り易くなった路面。足を取られて、私は転んだ。手から着地したおかけで顔は無傷。
「っ……」
足を見ると血こそは出なかったけど、足首が赤くなっていた。
それでも、歩いていると、小さな公園を見つけた。東屋とベンチがあり、私はそこで休む。
「はぁ……」
私は痛めた足に触れる。
「っ……」
ゴールまで辿り着ける気がしない。学校にも戻れない。スマホはロッカーの中だ。
「……どうしよう」
私は途方にくれたのだった。




