5話
翌日。
私は重い足取りで学校へ向かう。
自己紹介中に気絶。クラスからは変人と思われているだろう。
さらば、私の普通の学校生活。
「はぁ……」
もう一つ、私を悩ませるのが、陽菜の存在。
唯一の友達だけど、絶交していて、私は今だに好意を持っている。陽菜はたぶん私のことを友達として好きだろう。
「うーん……」
こんな複雑な状況、私の手には負えない。人と挨拶するだけでも緊張するのに。
頭がショートするまで考えてみたけど、良い答えはでない。一旦、距離を置こう。頭が冷えれば答えが出るかも。
深呼吸をして、教室の戸を引く。
高校生活が終わったとしても、高校には通わないといけない。
「……」
クラスメート達の視線が私に向いた。
『ねえ、見て昨日気絶した子よ』
『気絶なんて、面白すぎるんだけど……!』
『あんな変な子とは関わりたくないわね』
と、脳内のクラスメート達は談笑している。
い、胃が痛くなってくる……!
「黒子!」
幻想が晴れ、日差しが差した。
陽菜は駆け足で私に近寄ると、手を握った。
「おはよう、黒子! 昨日はごめんね! もう、体調は大丈夫?」
「……おはよう……うん、大丈夫」
モヤモヤしていた気持ちが晴れる。
陽菜は太陽みたいな存在だ。
対する私は雨みたい。
常にどんよりと考えているから。
「っ……」
そうだ。私は陽菜と距離を置くと決めていた。
陽菜と目が合う。
「っ……」
魅力的になった陽菜を見て、私は顔を熱くした。
それに、手も握ってる……!
もはや、オーバーキル。意識を手放しそうになるけど、どうにか堪える。
「黒子? 顔赤いけど大丈夫?」
陽菜は私に顔を近寄せる。身体をのけ反らせ、視線を逸らした。
「だ、大丈夫ぅ……」
お願いだから、顔近づけないでぇ……!
と、私の祈りが通じたのか、チャイムが鳴った。
「辛かったら私に言ってね。黒子の為なら力になるから」
「……うん」
陽菜は自分の席に戻っていく。
距離を置こうと決めていたけど、行動力の化身のような陽菜が、私を放っておくわけはない。
距離を置くなら徹底的にしないと……!
「……」
でも、少しだけ……胸がポカポカとした。
***
お昼休み。
陽菜がクラスメートに捕まっている間に、私は教室を抜け出した。
階段の影でお昼を素早く済ませて、図書室に入る。
カウンターに司書が一人。他には人はいない。
私が入ってきた事に気づいた司書が会釈をする。私は慌てて返した。
足早に本棚の影は隠れる。それからゆっくりと歩きながら、本棚からテキトーに一冊抜き取った。
図書館には椅子やテーブルがあり、勉強や読書はそこで行う。けど、私は本棚の横に座った。
「落ち着く……」
誰もいなくて、少し暗い空間。まるで私の為にある様だ。
本をパラパラと捲る。テキトーに取った本は三国志だった。
文字を目で追っていると、戸が開く音が聞こえた。
「……」
こっちには来ませんように……!
私は天に祈った。仮にこっちに来ても、本を読んでますよ、とポーズを見せれば問題ないはず。
足音が近づいてくる。
私は本を読みながら、身を小さくした。
「……」
足音が私の近くで止まり、影が差した。
嫌な予感がする……!
恐る恐る顔を上げ、ハッと息を呑む。
「黒子、見つけた」
太陽の様に、陽菜は笑っていた。
***
小学生の頃。
人と話すことが苦手な私は図書室に篭っていた。
本は好きではないけど、読むことで不思議と心が落ち着いた。それに、人と無理に話す必要がないここが好きだった。
ある日、平穏な日々に変化があった。
「こんにちわ! 私、菊野陽菜! あなたは?」
男の子のような女の子。
そして、図書室には似つかわしくない元気いっぱいな声。
「……」
突然のことに、言葉が出ない。
もしかして、私じゃないかも……?
そう思って左右を確認するけど、菊野さんの前には私しかいなかった。
ふと、先生が近付いてくる。
「図書室では静かにね」
「ごめんなさい」
先生は注意し、菊野さんは頭を下げた。
「怒られちゃたね」
と、私に菊野さんは笑いかけた。
怒られたのは私じゃなくて、菊野さんだけど。
「隣良い? 良いよね」
菊野さんは私の承諾を得る前に、隣に座った。
そして、私が読んでいる本を覗き込む。
「難しそうな本……星……?」
私が読んでいるのは、星座についての本だった。
「星好きなの?」
「っ……」
菊野さんが顔を近づけてくる。
目が合った私は、菊野さんに持っていた本を押し付けると、図書室を出ていく。
「はぁ、はぁ……」
廊下を走ってはいけない。
いつもなら、守るルールだけど、今日だけは破ってしまった。




