4話
「大人になって、私達が綺麗になったら……この指輪つけて、オシャレして遊ぼう」
私はその光景を思い浮かべる。
きっと素敵な未来だろう。
「……うん」
でも、陽菜がオシャレをしている姿が想像できない。
普段からスカートより、ズボンを好んでいるし、遊んで服や顔が汚れようとも気にしない。
「あっ……そうだ、黒子」
「なに?」
「目、瞑って!」
「どうして……?」
「良いから!」
「うん」
疑問に思いながらも、目を閉じる。
次の瞬間、唇に柔らかい感触があった。
気になって、目を開ける。
「っ……」
陽菜の顔が目の前にあった。
う、嘘……キスされてる……!
ドクン、ドクンと心臓が高鳴った。
もしかして、陽菜は私のことが好きなの……!
私は陽菜のことが好き。ぼんやりとした感情だったけど、陽菜と一緒に旅をして、キスをされて、ようやく理解できた。
陽菜が唇を離した。陽菜の顔が赤くなっている。
「……ど、どうしてキスしたの?」
心臓が高鳴っていることを感じながら、陽菜に目を向ける。
『黒子が好きだから』
そんな甘い言葉を期待していた。
そんなことを言われたら、私は受け入れるだろう。
だけど、返ってきたのは予想外の言葉だった。
「別れの挨拶」
「え……?」
「昨日、ドラマで見て……まあ、男と女だったけど……良いやて思って」
「……」
甘い光景が音を立てて、崩れていく。
お腹の底から、怒りが湧いてきた。
そして、私は陽菜の頬を叩いた。
***
「ん……」
目が覚めると、知らない天井だった。
ここ、どこ……?
どうやら、私はベッドで寝ている様だ。
近くには椅子に座り女の子が、いや陽菜が寝ていた。
「……陽菜」
どんな顔をして陽菜と話せば良いか、分からない。
うん、ここは逃げよう。
私はそっとベッドから抜け出した。
カーテンを開けると、保健室の先生と目が合った。
「あら、起きたのね」
「あ、はい……」
「教室で気絶した貴方をあの子が運んでくれたの」
「え……」
教室で気絶……?
そうだ、自己紹介しているところで陽菜が入ってきて……そして。
「顔色、悪いけど大丈夫?」
「……大丈夫です。終わっただけなので」
さらば、私の高校生活。
自己紹介で気絶する様な、変人とは誰も付き合いたいとは思わないだろう。
「あれ……」
振り返ると、陽菜が起き上がっていた。
瞼を手で擦り、視線を彷徨わせると、私と目が合った。
「黒子……!」
陽菜は目を輝かせると、私に抱きついてきた。
「久しぶり! 元気にしてた!?」
「っ……」
このままだと、締め殺される……!
私は黒子の背中を叩くけど、黒子は手を緩めない。
あ、景色が……。
「ストップ。このままだと死んじゃうわよ」
と、保健室の先生が止めに入った。
「え……あっ、黒子ごめん! 生きてる!?」
陽菜が私の肩を掴んで、揺さぶる。
「生きてるから……」
圧縮の次はシェイク。
どうにか、陽菜の拘束を逃れて、口を押さえる。
人が見ているとこで、リバースはしない。
落ち着き、改めて陽菜と向き合った。
少年の様な中性的な顔立ち。スカートではなくズボンを履けば可愛い男子で通るだろう。ただし、スカートの下にスパッツを履いているのは活発的な陽菜らしい。
男装した陽菜、か……。
「っ……」
い、一体、私は何を想像して……!
新たな扉を開きそうになり、私は頭を振りまくった。
「大丈夫か?」
「だ、大丈夫……」
陽菜が私の顔を覗き込んだので、少し距離を取る。
「黒子、久しぶり。まさか、高校で再会出来るとは思わなかったよ」
「そ、そうだね……」
私も予想外だった。
「黒子、昔みたいに、一緒に」
私は伸ばされた手を躱した。
「黒子?」
「っ……」
私は保健室から逃げ出した。
「はぁ、はぁ……」
私はトイレの個室に隠れた。
陽菜が追ってこなかったのは、動揺した為だろう。じゃないと、すぐに捕まっていた。
「陽菜……」
思い出すのは、最後の日に、陽菜にキスされた光景。
唇の感触は今でも思い出すことができる。そして、陽菜が私にキスした理由も。
「もう……」
会えて嬉しい気持ちやキスされたこと、突然の再会など。
色々な感情が混じり合って、私には処理できない。
一旦、落ち着く事が必要。
それにしても、
「陽菜、可愛かった……」
成長した陽菜は魅力的だった。
ドクン、ドクンと私の心臓が高鳴る。
三年経っても、私は陽菜のことが好きなようだ。




