3話
「はぁ……」
長い戦いを陽菜の応援で耐え抜き、駅に辿り着いた。トイレですっきりし、陽菜の元に戻る。
「お待たせ……」
「大丈夫?」
「……どうにか」
すっきりはしたけど、少しフラフラとする。
「待ってて」
陽菜はリュックから飴を取り出すと、私の口に入れた。
「……ミント」
「そうだよ。楽になるでしょ」
えへんと、胸を張る陽菜。
「……」
ミントは苦手だけど……言わないでおこう。爽やかな気分になるのは事実だ。
少し休んで駅を出る。行き先は決めていない。
ただ、なんとなく進んでいる。主に陽菜がだけど。
陽菜は私の手を引いて、鼻歌を歌う。アニメの主題歌だと思う。音痴でわからないや。
「見た事ないとこて……冒険みたいでワクワクするね!」
私はワクワクしなかった。
「そう?」
「うんっ! ほら、あそこの道」
陽菜が指差したのは、壁と壁の間の僅かなスペースだった。
「この先に、秘密の場所があるに違いない!」
「あ、待って……」
陽菜は私の手を引くと、そこに入って行く。子供一人通れるほどの狭い通路。
家で日差しが遮られている為、少し薄暗い。
陽菜は躊躇う事なく、入って行く。手を繋がれている私も一緒に行く事に。
通路を抜けると、ただの道路だった。
「残念……!」
それからも陽菜との旅は続く。そして、日が暮れようとしていた。
「……」
私は陽菜の手を強く握った。
「大丈夫だよ! 私がついてるから……!」
陽菜の笑顔を見ると、不思議と不安が無くなっていく。
「よし、今日はここに泊まろう!」
「……」
陽菜が指差したのは、ドーム型の遊具。
中に入れば風や雨は凌げる。
私達も遊ぶ時は良く使っていた。
けど、泊まる事になるとは思わなかった。
「黒子もおいで」
先に入った陽菜が、私を手招きする。
恐る恐る中を覗き込む。
「黒子」
「っ……」
陽菜に手を引っ張られ、隣に座る。
「秘密基地みたい」
「……そう」
「黒子、旅はこれから。私達は見た事のない景色を見るの!」
いつから、私達の旅に壮大な冒険の目的が出来たの? そのうち、財宝を探すとか言うかもしれない。
「まずは腹ごしらえだ!」
陽菜はリュックの中を開けた。
中身は大量のお菓子だった。
「ご飯はお菓子! 一度やって見たかったんだ……!」
「……身体に悪いよ」
「黒子……前に大人が言ってたの」
陽菜は真剣な顔になると、口を開いた。
「美味しい物は身体に悪いって……つまり、身体に悪い物こそ、美味しい物なんだよ……!」
「っ……」
私の背筋に稲妻が走った。
陽菜はポテトチップスを手に取り、袋を開けた。
「はい!」
陽菜がポテトチップスを差し出す。
「っ……」
ポテトチップスを一枚取り、食べた。
「美味しいでしょ! まだまだあるから!」
陽菜はリュックを開ける。中にお菓子がぎっしりと詰まっていた。お腹いっぱいお菓子を食べると、陽菜はリュックを枕がわりにして、寝転がった。
「黒子も寝よ」
「……うん」
陽菜を見習い、リュックを枕がわりににして、横になる。
「硬い……」
「外だからね……!」
陽菜は楽しげに笑った。私も釣られて笑う。
くしゃみが出る。
「寒い?」
「……う、うん」
私が頷くと、陽菜は私を抱きしめた。
陽菜の温かな体温が伝わってくる。
「こうすれば、寒くないでしょ」
「う、うん……」
不安でいっぱいな旅だけど、陽菜とだったらどこまでも行けそうだ。
けど、旅はすぐに終わった。
「こんばんわ」
私達に話しかけて来たのは警察官だった。
それから、私達は警察に保護されて、家へと返されてしまった。
「黒子……! 無事で良かった」
私はお母さんとお父さんに泣きながら抱きしめられた。そして、その後こってりと怒られた。
翌日、陽菜の頭にはたんこぶが出来ていた。
「これは名誉の負傷だ……!」
陽菜はそう言っていた。試しに私が触れてみると、目に涙を浮かべた。
「黒子、たくさん遊ぼう! 思い出たくさん作って大人になったら、また遊ぼう!」
「うん……!」
それから、私達は毎日遊んだ。
学校の日、休日も。
そして、最後の日がやってくる。
いつもの様に遊びあっという間に夕方になった。
「陽菜……」
堪えていた涙が溢れ始める。
陽菜と離れたくない……!
「黒子……」
いつの間にか、陽菜も泣いていた。
陽菜は私を抱きしめる。私も陽菜の背中に手を回した。
それから、泣き止んだ私達はベンチに座った。
お互いに目元が赤くて、ひどい顔になっている。
「これ……あげる」
陽菜がくれたのは、花びら柄のプラスチックの指輪。
「良いの?」
「うん、黒子とお揃い!」
黒子はポケットから、もう一つ花柄の指輪を取り出した。




