第15話 最後に飛ぶ会社
好きなものには、説明できない理由がある。
それでも、人は時々、その理由を言葉にしたくなる。
これは、空を好きな人の、小さな答えの話です。
函館ダイバートから、一週間が経った。
蒼空はいつも通りの日常に戻っていた。
通勤、仕事、バランス栄養食、帰宅。
スーパーで見切り品を漁って、芋ジャージに着替えて、PCを開く。
でも、少し違うことがあった。
フライトプランのファイルを開くと、先週のルートが記録されていた。
羽田→函館→新千歳→ホテル泊。
予定にないルートだった。
でも、そこにある。
蒼空はそれを見るたびに、少し思い出した。
函館の晴れた空。
夕暮れの函館山。
新千歳の雪。
朝のジンギスカン。
全部、JSNで飛んだから起きたことだ。
* * *
昼休み、スマートフォムを開いた。
JSNのアプリを立ち上げる。
マイレージサービスを確認する。
先週のフライトのFCが、積算されていた。
函館ダイバートの分も、ちゃんと入っていた。
蒼空はその数字を見た。
飛んだ証だ。
ダイバートしても、一番長く待たされても、乗り継ぎ便に乗れなくても。
飛んだ分だけ、FCが積まれる。
それは変わらない。
* * *
蒼空は、JSNのことを考えた。
空港での扱いは、NALやAOAより弱い。
ダイバート時は、最後に飛ぶ。
函館でも、一番長く待たされた。
それは事実だ。
でも、蒼空はJSNが好きだった。
なぜか、と問われたら、うまく答えられない。
理由を言葉にしたことがない。
言葉にする必要がなかった。
ただ、好きだ。
それだけだ。
* * *
でも、今日は少し考えてみた。
なぜ、JSNが好きなのか。
NALは美しい会社だ。
所作が美しくて、制服が端正で、空港での扱いも最優先だ。
ダイバート時も、最初に飛ぶ。
AOAは安定している。
間違いのない選択だ。
どこへ行っても、確かにある。
でもJSNは違う。
小さい。
空港での扱いは弱い。
ダイバート時は最後だ。
地方路線に強いけど、大型機は少ない。
それでも。
CAさんの距離感が近い。
宮古の往復で同じクルーに会ったとき、「またお会いしましたね」と言ってくれた。
コーヒーの注文を覚えていてくれた。
函館でも、スタッフが丁寧に頭を下げた。
温度がある。
それが、蒼空の言葉にできなかった「好き」の理由だったかもしれない。
* * *
夜、PCを開いた。
次の修行のフライトプランを組み始めた。
もちろん、JSNだ。
指がキーボードの上を走る。
「……奄美か、鹿児島経由か、奄美のほうが、でも鹿児島で乗り継いだほうがFC多くなるか、どっちだ、」
独り言が漏れた。
誰も聞いていない。聞いていなくていい。
タブが増えていく。
目が、少しずつ変わっていく。
ダイバートしても。
一番長く待たされても。
乗り継ぎ便に乗れなくても。
また、JSNで飛ぶ。
それが蒼空の答えだった。
言葉にしなくても、行動が全部語っていた。
飛ぶ理由は、人それぞれ違う。
でも「また飛びたい」と思えた時点で、もう答えは出ているのかもしれません。
読んでくださって、ありがとうございました。




