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コレが私のフライトプラン。Good Day‼【第2部 見送る人】  作者: ちとせ鶫
第4章 函館ダイバート

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13/17

第13話 帰りの雪

飛行機は、予定通り飛ばない日がある。

でも、予定通りじゃないから見える空もある。

これは、そんな一日の話です。

 目が覚めたのは、五時四十分だった。


 アラームより十分早い。

 飛ぶ日の朝は、身体が勝手に起きる。

 いつもそうだ。


 窓の外を見た。

 雪が降っていた。

 昨夜より、また強くなっていた。


 蒼空はしばらく、その雪を見ていた。


 今日は飛べるだろうか。

 スマートフォンを開いた。

 新千歳空港の運航情報を確認する。


 通常運航。

 欠航なし。


 飛べる。


 蒼空は起き上がった。


     * * *


 シャワーを浴びた。

 昨日と同じ服を着た。

 メイクをした。


 ホテルの朝食を食べた。

 ビュッフェだった。

 いつもなら素通りするところだが、今日は食べた。

 昨日、機内食を食べていなかった。

 補給が必要だ。


 ジンギスカンがあった。

 朝からジンギスカン。

 北海道らしかった。

 食べた。

 美味しかった。


 窓の外に、雪景色が広がっていた。

 函館とも、東京とも違う。

 新千歳の雪だ。


     * * *


 空港に向かった。


 バスで移動した。

 窓の外に、雪の北海道が流れていく。


 昨日は吹雪で閉まっていた空港が、今日は動いている。

 同じ場所なのに、空が変われば全部が変わる。


 それが、空というものだ。


 バスを降りた。

 空港に入った。


 いつもの空気が流れ込んできた。

 空調の匂い。案内板の光。人の流れ。


 蒼空の目が、変わった。


     * * *


 チェックインを済ませた。

 保安検査を抜けた。


 搭乗口の前のシートに座った。

 窓の外に、新千歳の滑走路が見えた。


 雪が積もっている。

 除雪車が動いていた。

 滑走路を、丁寧に除雪している。


 蒼空はその作業を眺めていた。


 あの作業があるから、飛行機が飛べる。

 雪の中でも、たくさんの人間が動いている。

 飛行機が飛ぶのは、そういう人間たちのおかげだ。


 それを知っているから、蒼空は飛行機が好きだった。


     * * *


 搭乗が始まった。


 機内に入った。

 席に座った。

 シートベルトを締めた。


 窓の外に、雪の滑走路が広がっていた。


 昨日、この空港に着いたときは乗り継ぎ便に乗れなかった。

 「……そっか」と思った。

 でも今日、また来た。

 今日は飛べる。


 プッシュバックが始まった。

 機体がゆっくりと後ろに動く。


 タキシングが始まった。

 除雪された滑走路を、機体が進む。


 エンジンの音が高くなった。

 加速が始まった。


 離陸した。


     * * *


 新千歳が窓の下に広がった。

 雪に覆われた北海道が、どこまでも続いていた。


 昨日、吹雪で閉まっていた空港が、あそこにある。

 自分が一晩泊まったホテルが、あの辺りにある。


 もう、見えなくなった。


 機体が雲に入った。

 白くなった。


 そして。


 抜けた。


 青い空が広がった。

 雲の絨毯が、眼下に広がっていた。


 地上は雪だった。

 でも雲の上は、いつも晴れている。


             いつも、そうだ。


 蒼空は窓から目を離せなかった。


     * * *


 巡航に入った。


 スマートフォムを開いた。

 陸にLINEを送った。


「今日帰る。羽田着、十時四十分」


 しばらくして返信が来た。


「迎えに行こうか」


 蒼空は少し考えた。


 迎えに来てくれる、という選択肢が、頭になかった。

 電車で帰れば、それでいい。

 でも、陸が来ると言っている。


「来なくていい」


 そう返そうとした。


 でも、やめた。


「……来るなら来ていい」


 そう送った。


 しばらくして返信が来た。


「行く」


 蒼空はスマートフォンをしまった。


 窓の外に、青い空が広がっていた。

 雲の絨毯の上を、機体は南へ向かっていく。


 今日は、予定通りだ。

 昨日みたいなことは、今日は起きない。

 でも昨日があったから、今日がある。


 ダイバートした。

 一番長く待った。

 乗り継ぎ便に乗れなかった。

 予定にない夜を過ごした。


 でも、函館の晴れた空を見た。

 夕暮れの函館山を、空から見た。

 新千歳の雪景色を見た。

 朝、ジンギスカンを食べた。


 全部、昨日飛んだから起きたことだ。


     * * *


 羽田が近づいてきた。


 東京の街が、窓の下に見えてきた。

 いつもの景色だ。

 でも、昨日より少し、大事な景色に見えた。


 帰ってきた。


 着陸した。


 ボーディングブリッジを歩きながら、蒼空は思った。


 陸が来ている。

 到着ロビーで、待っている。


 それが、なんか悪くなかった。


 珍しいことを思った、と蒼空は思った。

 でも、悪くなかった。

空の上は、いつも晴れている。

その言葉の意味を、少しずつ誰かと共有できるようになってきました。

読んでくださって、ありがとうございました。

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