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コレが私のフライトプラン。Good Day‼【第2部 見送る人】  作者: ちとせ鶫
第4章 函館ダイバート

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12/17

第12話 予定にない夜

予定通りにいかない一日でした。

それでも蒼空は、「飛んだから見られた景色」をちゃんと拾っています。

今回は、ダイバートの夜の話です。

 函館空港で、一番長く待った。


 NALが飛んだ。

 AOAが飛んだ。

 JSNは待った。


 蒼空はターミナルのシートに座って、窓の外を見ていた。

 函館の空は、ずっと晴れていた。

 新千歳は吹雪なのに、函館は晴れている。


 おかしな話だ、と思った。

 一番最初に函館に降りたのはJSN。なのに。

 でも、空はそういうものだ。

 百キロ離れれば、空気が変わる。

 それが好きだった。


     * * *


 待っている間、陸とLINEをやりとりした。


 姉ちゃんにしては、珍しいことだった。

 自分から送ることは、あまりない。

 でも今日は、送っていた。


 なぜだろう、と少し思った。

 でも、すぐに分かった。


 誰かに、今日の空の話をしたかったからだ。


 NALが飛んだ。

 AOAが飛んだ。

 JSNはまだ待っている。


 それを、誰かに伝えたかった。

 陸以外に、伝える相手がいなかった。


 それだけのことだ。


     * * *


 ようやく、JSNの搭乗アナウンスが流れた。


 函館→新千歳。

 NALとAOAより、ずっと後だった。

 ターミナルはすでに、他社の乗客が減っていた。


 蒼空はバッグを肩にかけて、搭乗口に向かった。


 JSNのスタッフが頭を下げた。

「大変お待たせいたしました」

「いえ」


 蒼空は短く答えた。


 怒っていなかった。

 待たされたことへの不満もなかった。

 これがJSNの立ち位置だ。

 空港での扱いは、NALやAOAより弱い。

 知っていた。

 知っていて、JSNを選んでいる。


 それでいい。


     * * *


 函館を離陸した。


 夕暮れの函館が、窓の下に広がった。

 函館山が見えた。

 港が見えた。

 街の灯りが、少しずつ点き始めていた。


 蒼空は窓から目を離せなかった。


 予定にない街だった。

 来るつもりがなかった場所だった。

 でも、函館の夕暮れを、空から見ている。


 飛んだから、見られた。

 ダイバートしたから、見られた。


 それが、悪くなかった。


     * * *


 新千歳に着陸した。


 ボーディングブリッジを歩きながら、乗り継ぎ便の搭乗口を確認した。


 出発済み。


 蒼空は案内板を見た。

 三秒見た。


「……そっか」


 声が出た。

 小さく、静かに。


 怒りはなかった。

 落胆もなかった。

 ただ、そっか、と思った。


 函館で一番長く待ったから、こうなった。

 それは、最初から分かっていた。

 覚悟していた。


 でも、覚悟していても、「そっか」とは思う。

 人間だから。


     * * *


 JSNのカウンターに向かった。


 スタッフが対応してくれた。

「大変申し訳ございません。本日の最終便はすでに出発しております。明日の便でご案内できます」

「はい」

「ホテルの手配はいたしましょうか」

「自分で取ります」


 蒼空はカウンターを離れた。


 スマートフォンを開いた。

 新千歳空港近くのホテルを検索する。

 空いているところを見つけた。

 予約した。

 三分で終わった。


 陸にLINEを送った。


「JSN飛んだ。でも新千歳着いたら乗り継ぎ便行ってた」


 すぐに返信が来た。


「え、どういうこと」


 蒼空は説明した。

 陸が「詰んでない?」と返してきた。


「詰んでない。明日の便取った」


 陸から「大変だったね」と来た。


「まあ、空の話だから」


 蒼空は送った。

 それで十分だった。


     * * *


 ホテルにチェックインした。


 部屋に入った。

 バッグを床に下ろした。

 トレンチを脱いだ。


 窓の外に、新千歳の夜が広がっていた。

 雪が降っていた。

 さっきまでの吹雪より、穏やかになっていた。


 蒼空はしばらく、その雪を見ていた。


 今日は予定通りじゃなかった。

 新千歳に着くはずが、函館にダイバートした。

 函館で一番長く待って、新千歳に着いたら乗り継ぎ便に乗れなかった。

 予定にない夜を、予定にない場所で過ごしている。


 でも。


 函館の晴れた空を見た。

 夕暮れの函館山を、空から見た。

 予定にない洋菓子を食べた。

 陸とLINEをした。


 全部、今日飛んだから起きたことだ。


     * * *


 PCを開いた。


 明日の便を確認した。

 新千歳→羽田。

 朝の便が取れていた。


 フライトプランのファイルも開いた。

 今日のルートを記録した。

 羽田→函館ダイバート→新千歳→ホテル泊。


 予定にないルートだった。

 でも、記録した。

 飛んだ証だから。


 窓の外で、雪が降り続けていた。


 蒼空はPCを閉じた。

 ベッドに横になった。

 天井を見た。


 明日、飛んで帰る。

 それだけだ。


 今日は予定通りじゃなかった。

 でも、今日も飛んだ。


             Good Day‼


 声には出なかった。

 でも、確かにそう思った。

函館の夕暮れも、予定外の洋菓子も、全部「飛んだから起きたこと」でした。

蒼空は、うまくいかなかった一日まで、自分の飛行記録として受け取っています。

だから最後に、「Good Day‼」と思えたのだと思います。

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