第10話 新千歳が閉まった
予定通りに飛ばない日があります。
でも蒼空にとって、それもまた「飛ぶ」ということでした。
今回は、予定外の函館に降り立つ話です。
その日、蒼空は羽田から新千歳へ向かうJSN便に乗っていた。
修行ではなかった。
種子島の修行は先週終わっていた。
今日は、次の修行の下見を兼ねた、ただの移動だった。
北海道に用があったわけではない。
新千歳に降りて、空港のラウンジで次のプランを確認して、折り返す予定だった。
それだけだった。
羽田を離陸したのは、午前十時過ぎだった。
空は曇っていた。
でも飛ぶ。曇りでも飛ぶ。
蒼空はいつも通り、窓側の席に座っていた。
* * *
巡航高度に達した頃、機内アナウンスが流れた。
「お客様にお知らせいたします。現在、新千歳空港周辺で吹雪が発生しており、着陸が困難な状況となっております。現在、状況を確認中です」
蒼空はスマートフォンを開いた。
新千歳空港の運航情報を確認する。
欠航、遅延の情報が並んでいた。
吹雪。視界不良。着陸禁止。
蒼空は画面を見ながら、頭の中で計算した。
このまま新千歳に向かっても、着陸できない可能性がある。
ダイバートになるかもしれない。
ダイバート先は、函館か仙台か。
距離的には、函館が近い。
たぶん、函館だ。
* * *
しばらくして、機内アナウンスが流れた。
「お客様にお知らせいたします。新千歳空港の状況が改善されないため、函館空港へ目的地を変更いたします。函館空港への到着予定時刻は、現地時間十二時十五分頃を予定しております。お客様にはご不便をおかけし、誠に申し訳ございません」
やっぱり函館だ、と蒼空は思った。
周りの乗客がざわめいた。
「函館って、どこ?」という声が聞こえた。
「新千歳じゃないの?」という声も聞こえた。
スマートフォンで何かを調べている人もいた。
蒼空は窓の外を見た。
雲の下に、北海道の地形が見えてきた。
白い。
一面、白かった。
* * *
函館空港に着陸した。
ボーディングブリッジを歩きながら、蒼空はスマートフォンを開いた。
函館空港の運航情報を確認する。
他社の便も、次々とダイバートしてきていた。
NALの便。AOAの便。
みんな、新千歳が閉まったから函館に来ていた。
蒼空はターミナルに入った。
すでに、他の航空会社の乗客が集まっていた。
カウンターには列ができている。
アナウンスが何度も流れている。
蒼空は人の流れを確認しながら、JSNのカウンターに向かった。
* * *
カウンターに並んだ。
スタッフが説明していた。
「現在、新千歳空港の状況を確認中です。改善次第、順次出発する予定です」
蒼空は列に並びながら、頭の中で計算した。
他社の便が先に飛ぶ。
NALが最初に飛ぶだろう。
次にAOAが飛ぶだろう。
JSNは最後だ。
空港での扱いは、そういう順番だ。
蒼空はそれを知っていた。
知っていたから、覚悟していた。
一番長く待つことになる。
でも、それでいい。
JSNで来たから。
* * *
折り返し便の確認をした。
新千歳から羽田への便は、今日の夕方以降に設定されている。
函館から新千歳に移動して、新千歳から羽田に帰る。
そのためには、函館から新千歳に飛ばなければならない。
函館→新千歳の便。
JSNは、夕方に一便ある。
でも、それより前にNALとAOAの便が飛ぶ。
蒼空はターミナルのシートに座って、スマートフォンを閉じた。
待つしかない。
空港の窓の外に、函館の街が広がっていた。
雪は降っていなかった。
函館は晴れていた。
新千歳は吹雪で、函館は晴れている。
同じ北海道なのに、空気が違う。
それが、少し面白かった。
* * *
ターミナルの売店を覗いた。
函館土産が並んでいた。
イカの塩辛。昆布。函館の洋菓子。
蒼空は函館に来たつもりはなかった。
でも、来た。
予定にない場所に降り立った。
函館の洋菓子を一つ買った。
予定になかった土産だ。
でも、来たから買える。
飛んだから、ここにいる。
それだけで、今日ここに来た意味がある。
シートに戻って、洋菓子を食べた。
美味しかった。
蒼空はスマートフォンを開いた。
陸にLINEを送った。
「今日、函館にいる」
それだけ送った。
しばらくして、既読がついた。
「え、なんで」
返信が来た。
「新千歳が吹雪で閉まった」
また返信が来た。
「大丈夫?」
蒼空は少し考えた。
「大丈夫。待ってる」
そう返した。
窓の外に、函館の晴れた空が広がっていた。
NALの機体が、滑走路に向かっていくのが見えた。
最初に飛ぶのは、NALだ。
蒼空はそれを見ながら、静かに待った。
吹雪で閉じた新千歳と、晴れている函館。
蒼空はトラブルの中でも、ちゃんと「来た意味」を見つけています。
そして陸は、少しずつ空港の世界を知っていきます。




