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南京町の悪役令嬢は、高級菓子の毒(マトリ)を嗅ぎ分ける  作者: 水前寺鯉太郎
「バチカン・聖遺物・ティーパーティ編」

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第36話:黄金の罠(パンフォルテ)


 サン・ピエトロ広場の静寂。降り注ぐ月光の下、奪い取った羊皮紙を広げた瞬間、私の指先を「熱い違和感」が襲った。

 古びた羊皮紙の表面には、肉眼では判別できないほどの微細な結晶が塗布されていた。それは体温に反応して融解し、皮膚の毛穴から直接、私の血流へと侵入を開始した。

「……ふん。最期まで小細工を。枢機卿、地獄へ持っていく手土産にしては、いささか執念深すぎるな」

 鼻腔を突いたのは、濃厚な蜂蜜とスパイス、そして焦げたナッツの香り。イタリア・トスカーナ地方の伝統菓子――**『パンフォルテ』**の匂いだ。

 「強いパン」を意味するその名の通り、羊皮紙に仕込まれていたのは、意識を強固に「固定」し、廃人へと変える超高濃度神経毒『黄金のゴールデン・チェイン』だった。

 ヌチャッ、……。

 脳内で、粘り気のある甘みが爆発する。

 視界が急速に黄金色に塗り潰され、全身の筋肉が意志に反して硬直していく。指先から始まった麻痺は、瞬く間に肘、肩、そして喉元へと這い上がってきた。

 

(……! パンフォルテの重厚なスパイスの配合を、毒の浸透圧を高めるための『計算式』として利用したか。……触れただけで魂を岩へと変える、バチカンの禁忌のレシピそのものというわけか)

 呼吸が浅くなる。心臓が、まるで重い石を打ち付けているかのように鈍い音を立て始めた。

 

 クゥン、……!!

 足元でマックスが私のブーツを激しく噛み、ダリアが悲鳴のような警告を発した。その痛みが、黄金の霧に包まれかけた私の意識を、わずかに「こちら側」へ引き留める。

 私は、動かなくなった右腕を左手で強引に持ち上げ、胸ポケットから最後の**『オレオクッキー』**を掴み出した。

 パキッ、バリボリボリッ!! ガリッ!!

 漆黒のココアが放つ、慈悲なきまでの「現実」の苦味。

 それが、脳を黄金の彫像へと変えようとする「聖なる呪い」を、強引に暗黒へと塗り替えた。

 ドクンッ、……!

 

 血流が「人間」の熱を取り戻し、石化しかけていた四肢に感覚が戻る。私は激しく咳き込みながら、地面に膝をついた。

「……お残しは許さないと言ったが。……枢機卿。……あなたの遺したレシピは、指先で触れるのさえ不快な『汚物』だ」

 私は、浄化のために持参していたアルコール綿で指先を無慈悲に拭い去り、改めて羊皮紙の「裏側」に隠された真実を読み取った。

 

 レシピの末尾に記されていたのは、バチカンの座標ではない。

 永世中立国スイス、アルプス山脈の奥深く――そこに、すべての毒菓子の『マスター・パティシエ』が潜んでいる。

「……さて。マックス。ダリア。……お口直しに、この世界を『甘い地獄』に変えようとしている、真の黒幕の息の根を止めに行こうか」

 月光に照らされた私のフォークが、銀色の殺意を放つ。

 御影瑠璃、あるいはアリス・カートレット。二つの生を懸けた復讐劇は、いよいよ最終目的地デザートへと突入する。

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