表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
南京町の悪役令嬢は、高級菓子の毒(マトリ)を嗅ぎ分ける  作者: 水前寺鯉太郎
「バチカン・聖遺物・ティーパーティ編」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/40

第30話:虚飾の聖餐(カンノーロ)

 地下聖堂に満ちていたのは、敬虔な祈りではなく、獣のような執着と、肺を刺すような安っぽい甘い煙だった。

 私の目の前には、虚ろな瞳をした「信者」たちが列をなしていた。彼らが求めているのは神の救いではない。神父の指先から配られる、銀色の粉を纏った銀幕の幻覚だ。

「……ふん。救済ドラッグを待つ行列か。これでは聖堂ではなく、ただの掃き溜めの炊き出しだな」

 私は、マックスとダリアを背後に控えさせ、群衆の先頭に立つ神父を睨みつけた。

 神父は慈悲深い笑みを浮かべ、一人の信者にイタリア・シチリア伝統の菓子――**『カンノーロ』**を授けていた。

 パリッ。

 信者がそれに齧り付くと、揚げた筒状の生地が軽快な音を立てて砕ける。

 私は、そのトレイから一つを奪い取り、自らも「検食」を開始した。

 バリッ、ザクッ……。

 ラードで揚げられた香ばしい生地の食感。だが、その中に詰められたリコッタチーズのクリームは、私の知るものとは似ても似つかない代物だった。

 

 ヌチャッ、……。

 舌に絡みつく、異常なまでの粘り気と不自然な甘み。そして、クリームのコアに仕込まれた、あの脱法ハーブの濃縮エキス。

 

 ジャリッ、……。

 咀嚼するたびに、クリームに混じった微細な金属片が口腔内を切り刻む。そこから「神の奇跡」という名の毒が、血管を通じて脳へとダイレクトに流出していく。

 

(……! カンノーロの空洞を、欲望を詰め込むための『鞘』にしたか。……生地の香ばしさで、ハーブの焦げた臭いを完全に殺している)

 周囲の信者たちが、私の不敬な行動に気づき、一人、また一人と殺気立ち始めた。

「……聖餐を汚す不信心者め!」

 一人の男が、ハーブの影響で異常に肥大した筋力を武器に、私へと掴みかかってくる。

 私は、いつもの**『オレオクッキー』**を口に放り込み、ボリッと力強く噛み砕いた。

 

 ガリッ、ジャリッ!!

 漆黒のココアが放つ圧倒的な「現実」の苦味が、脳を支配しようとするカンノーロの甘美な麻痺を強引に剥がし取っていく。

 

「……あら。教義も知らない野良犬が、お嬢様のティータイムを邪魔するのかしら」

 私は、襲いかかる男の腕を銀のフォークで受け流し、その急所へと鋭く突き立てた。

 キンッ!

 

 次々と襲いくる信者たち。だが、彼らの動きはハーブによって「加速」している反面、精密さを欠いている。

 私はフォークを旋回させ、舞い散るカンノーロの破片の中、冷徹にその数を減らしていった。

「……さて。神父。……お口直しに、あなたのその『空っぽの聖餐』ごと、根こそぎ検食(ガサ入れ)してやろうか」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ