第30話:虚飾の聖餐(カンノーロ)
地下聖堂に満ちていたのは、敬虔な祈りではなく、獣のような執着と、肺を刺すような安っぽい甘い煙だった。
私の目の前には、虚ろな瞳をした「信者」たちが列をなしていた。彼らが求めているのは神の救いではない。神父の指先から配られる、銀色の粉を纏った銀幕の幻覚だ。
「……ふん。救済を待つ行列か。これでは聖堂ではなく、ただの掃き溜めの炊き出しだな」
私は、マックスとダリアを背後に控えさせ、群衆の先頭に立つ神父を睨みつけた。
神父は慈悲深い笑みを浮かべ、一人の信者にイタリア・シチリア伝統の菓子――**『カンノーロ』**を授けていた。
パリッ。
信者がそれに齧り付くと、揚げた筒状の生地が軽快な音を立てて砕ける。
私は、そのトレイから一つを奪い取り、自らも「検食」を開始した。
バリッ、ザクッ……。
ラードで揚げられた香ばしい生地の食感。だが、その中に詰められたリコッタチーズのクリームは、私の知るものとは似ても似つかない代物だった。
ヌチャッ、……。
舌に絡みつく、異常なまでの粘り気と不自然な甘み。そして、クリームの核に仕込まれた、あの脱法ハーブの濃縮エキス。
ジャリッ、……。
咀嚼するたびに、クリームに混じった微細な金属片が口腔内を切り刻む。そこから「神の奇跡」という名の毒が、血管を通じて脳へとダイレクトに流出していく。
(……! カンノーロの空洞を、欲望を詰め込むための『鞘』にしたか。……生地の香ばしさで、ハーブの焦げた臭いを完全に殺している)
周囲の信者たちが、私の不敬な行動に気づき、一人、また一人と殺気立ち始めた。
「……聖餐を汚す不信心者め!」
一人の男が、ハーブの影響で異常に肥大した筋力を武器に、私へと掴みかかってくる。
私は、いつもの**『オレオクッキー』**を口に放り込み、ボリッと力強く噛み砕いた。
ガリッ、ジャリッ!!
漆黒のココアが放つ圧倒的な「現実」の苦味が、脳を支配しようとするカンノーロの甘美な麻痺を強引に剥がし取っていく。
「……あら。教義も知らない野良犬が、お嬢様のティータイムを邪魔するのかしら」
私は、襲いかかる男の腕を銀のフォークで受け流し、その急所へと鋭く突き立てた。
キンッ!
次々と襲いくる信者たち。だが、彼らの動きはハーブによって「加速」している反面、精密さを欠いている。
私はフォークを旋回させ、舞い散るカンノーロの破片の中、冷徹にその数を減らしていった。
「……さて。神父。……お口直しに、あなたのその『空っぽの聖餐』ごと、根こそぎ検食(ガサ入れ)してやろうか」




