表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
南京町の悪役令嬢は、高級菓子の毒(マトリ)を嗅ぎ分ける  作者: 水前寺鯉太郎
「バチカン・聖遺物・ティーパーティ編」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/40

第29話:背徳の香炉(アマレッティ)

 ローマの路地裏、蔦に覆われた古い修道院の地下。

 重い石扉をフォークの先でこじ開けると、そこには祈りの静寂ではなく、悍ましい化学反応の熱気が停滞していた。

 

 壁には煤けた十字架。だが、その下の作業台には、フラスコや遠心分離機が所狭しと並んでいる。

 

「……ふん。祈りの言葉の代わりに、劇物の蒸気を吸い込んでいるわけか。信心深いことだ」

 

 私は、マックスとダリアを周囲の警戒に当たらせ、部屋の隅に積み上げられた麻袋に目を留めた。

 表向きは「礼拝用の香草」と記されているが、私の鼻はその欺瞞を見逃さない。

 袋を裂くと、中から現れたのは、乾燥した植物の断片に銀色の粉末がこびりついた**『脱法ハーブ』の山だった。

 

「合成カンナビノイド。……それも、脳の受容体を直接焼き切るような、悪質な『改良型』だな」

 

 私は作業台の上に置かれた、小さな丸い菓子――『アマレッティ』を一つ摘み上げた。

 メレンゲに杏仁アプリコットカーネルを混ぜて焼き上げた、イタリアの伝統的なマカロンだ。

 

 パキッ。

 

 指先で力を入れると、繊細な表面が脆く崩れる。

 私は、その一片を口へと運んだ。

 

 サクッ、シャリリッ……。

 

 独特の粘り気のある甘みと、杏仁の強烈な苦味。

 だが、その苦味の正体は、植物由来の成分ではない。ハーブに噴霧されていた、あの銀色の粉末――金属系の神経毒だ。

 

 ジャリッ、……。

 

 咀嚼するたびに、ガラス粉が粘膜を刺激し、毒の吸収を加速させる。

 一瞬で後頭部を殴られたような衝撃が走り、視界の端が赤く明滅し始めた。

 

(……! アマレッティの苦味を利用して、ハーブの化学臭を隠蔽しているのか。……聖職者の皮を被った、ただの『毒の庭師』が)

 

 クゥン、……。

 足元でダリアが激しく震え、私の意識を現実へと引き戻す。

 

 私は、震える指でポケットから『オレオクッキー』**を掴み出し、そのまま口へ叩き込んだ。

 ボリッ、ボリボリッ!! ガリッ!!

 

 漆黒のココアが放つ、救いようのない「地上」の苦味。

 それが、脳を焼き尽くそうとする「聖なる幻覚」を、強引に暗黒へと塗り替えた。

 ドクンッ、……!

 

「……お残しは許さないと言いたいが。……こんな不潔な毒、御影家のゴミ箱にも相応しくない」

 

 私は、銀のフォークを握り直し、部屋の奥の暗闇を見据えた。

 そこには、聖書を手にしたまま、狂気に歪んだ笑みを浮かべる神父が立っていた。

 

「……さて。お口直しに、この『背徳の温室』ごと、丸ごと検食(ガサ入れ)してやろうか」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ