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南京町の悪役令嬢は、高級菓子の毒(マトリ)を嗅ぎ分ける  作者: 水前寺鯉太郎
第2部『ロンドン・壊滅・ティーパーティ編』

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第25話:深淵の調理場(ロックケーキ)

ロンドン塔の影、テムズ川の護岸に隠された古い排水口。そこが、地図にない地下プラントへの入り口だった。

 私は、御影家の特殊カーボン製フォークを軍用ナイフのように構え、湿った闇の中へと音もなく滑り込んだ。

「……ふん。カビの臭いと、高電圧のオゾンの匂い。そして――甘ったるい死の予感か」

 地下数百メートル。巨大な配管がのたうち回るその空間は、街のインフラを乗っ取った巨大な「蒸留器」と化していた。

 私は、警備ロボットのセンサーを潜り抜け、プラントの中央制御室へと続くキャットウォークを駆ける。

 そこで見つけたのは、作業員たちが配給されていた無骨な菓子――『ロックケーキ』の山だった。

 

 ゴトッ、……。

 一つ手に取ると、その名の通り「岩」のような硬さと重量感がある。表面には、焦げたレーズンが不気味な斑点のように突き出している。

 バキッ!

 私はフォークの柄で、その岩のような生地を粉砕した。

 ジャリッ、ボロボロ……。

 

 飛散する破片。だが、その断面から漂ってきたのは、スパイスの香りではない。

 

(……! この、鼻を突くような塩素の匂い。ロックケーキを『吸着剤』として使い、プラント内の有害な廃液を固形化して処理しているのか。……文字通り、毒の塊を食わせて作業員を使い捨てにしているわけだ)

 私は、その「岩」の一片をあえて舌の上に乗せた。

 ガリッ、……。

 

 粘膜を焼くような強烈なアルカリ反応。そして、その奥に潜む『ブラッド・マリア』の超高純度結晶。

 一瞬で視界が歪み、心拍数が跳ね上がる。

 

「……お残しは許さないと言いたいところだが、これはもはや『餌』ですらない。……ただの産業廃棄物だ」

 私は、口内の毒をいつもの『オレオクッキー』で強引に中和した。

 ボリボリッ、ガリッ!

 漆黒のココアが脳のニューロンを叩き起こし、幻覚を力ずくでねじ伏せる。

 

 再起動された視界の先。プラントの最深部、テムズ川の底を支える巨大なガラスドームの中に、その男はいた。

 白のロングコートを纏い、巨大なミキサーを見下ろす影。

 

「……見つけたぞ、ロンドンの『あの方』。……いや、今は何と呼べばいいのかしら? ……かつての、私の『師』」

 私はフォークを指先でくるくると回し、闇の中からその男へと歩み寄った。

 

「……さて。お口直しに、この薄汚れた『地下の台所』ごと、丸ごと検食(ガサ入れ)してやろうか」

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